定年5年前の55歳社員に再雇用制度の理解とマインドチェンジを促し、キャリア自律を支援
60歳から仕事は同じでも給与はダウン。意識のギャップをどう埋めるか
当社では、シニア人材再雇用制度により、60歳の定年後に65歳まで働くことを選べます。これまで58歳時説明会を開催し、制度の詳しい説明を行っていました。継続雇用の希望者は毎年85%程度に上りますが、「社外での就職は厳しそうだし、今の環境で働くほうが良い」といった軽い気持ちで選び、再雇用後のモチベーションが低下することが課題となっています。たとえ、仕事は同じでも給与がダウンし、以前の部下の下で働く場合はやりにくさも感じます。マインドチェンジができないと、会社の期待との間にギャップが生じてしまいます。
そこで、2011年から55歳時説明会(研修)を実施。制度を正しく理解してもらい、5年後の定年までに自分はどんな選択をするのか考えてもらうことで、キャリア自律を支援しています。
55歳時説明会は、9時半から17時半までの1日のプログラムです。自分の「売り」や「強み」を知る「自己理解」のグループワークに始まり、年金など社会保障制度と会社のシニア人材再雇用制度などを知る「制度理解」、マネープランの作り方を学ぶ「わが家の家計把握」を行い、最後に定年後の働き方・生き方を考えて、ライフプランシートを完成させます。希望者には個別相談も行います。
事前課題として、自分のライフイベントを考えて、キャッシュフロー表を作成してもらいますが、これがなかなか作れません。説明会当日に講師から作成ポイントを教わり、多くの方がマネープランの重要性に気づきます。マネープランを作った結果、「自分は定年前に退職しても困らない」とわかり、早期退職を選ぶ人も出てきました。また、自分が生き生きと働ける仕事が社外にもあるのではと、視野を広げて考える人も増加しています。
55歳時や58歳時の説明会と並行して、キャリア面談で随時フォロー
55歳時説明会は1日かけて行っていますが、効果がすぐ目に見えるものではありません。目的は、定年後の自分のキャリアを自分で考えるキッカケにしてもらうこと。大切なのはその後のフォローです。そのためキャリア面談の体制を整え、随時相談に乗れるようにしています。私自身キャリアカウンセラーの資格を取得しましたが、相談に乗れる人材を社内で増やす必要を感じています。また、早期に退職して社外転進を図りたい人には、リクルートキャリアコンサルティングによる就職支援サービスを提供しています。55歳ですから定年まで4~5年。社外転進の準備もできるのではと考えています。
社員一人ひとり抱えている事情は様々です。子育てもすでに終わっている人もいれば、お子さんが大学進学を控えている人もいます。異なる事情を抱える人たちを一つの制度で型にはめることは難しく、不満も出てきます。会社は情報をキチンと開示し、本人が選べる仕組みを作って提供することが何よりも重要です。再雇用における仕事と給与を提示し、自分で決められるようにする。自分で決めれば、納得して働けるでしょう。また、選択する際には、『今後の人生で自分が何を大事にしたいか』を自覚・認識することが重要です。55歳時説明会では、仕事に対する自分の価値観を知るプログラムもあります。家族なのか、年収なのかが明確になれば、対応するキャリアプランを立てることができます。こうした内容の研修では、社内講師では受講者がなかなかホンネを出せないところがありますが、その点、社外講師に担当いただくことで話を素直に受け入れることができます。もちろん、講師のお人柄によるところが大きいこともあります。
会社から提示された仕事や給与では、満足できない人もいます。そのときには、客観的な労働市場情報で現実を知ってもらうことが一番です。今年の55歳時説明会の事前課題として、ハローワークでの仕事探しを計画しています。自分のキャリアに対して、「どんな求人がありいくら給与をもらえるか」を調べてきてもらいます。厳しい現実を踏まえた上で説明会に臨んでもらうことで、より意識が高まるのではと思います。
40歳・50歳でも研修を行い、早い段階から自律を促す必要がある
定年後再雇用の支援を充実するため3ヵ年計画で進めていますが、来年はもっと早い時期のキャリア研修を考えています。その一つが50歳時の研修。自分のキャリアを振り返り、将来の道を社内だけでなく社外も含めて考え、70歳ぐらいまでをどう生きるかを見通してもらうライフ・キャリア研修です。50歳であれば社外転進を選ぶ際も、資格取得など準備期間をより長くとることができます。また、40歳であれば自分の専門領域が定まり、プロフェッショナル化していく時期。キャリア中心の研修を考えています。いずれにしろ、ミドルの段階からキャリアについて考える研修を段階的に実施することで、キャリア自律した社員を増やしていきたいと考えています。
シニア社員活用での一番の問題は、専門性を活かして同じ仕事をしてもらう場合でも、給与が大きく下がってしまうことにあります。そのため、現在検討しているのが、55歳で自分が何歳まで勤めるかを自分で決められる「選択型雇用延長制度」です。たとえば、65歳で退職すると決めた場合、給与は55歳から59歳までを70%、60歳から64歳までを50%とすることで、60歳時の落差を小さくし、生活の質への影響を少なくすることができます。人件費を大幅に増やすことなくシニア人材にどう頑張っていただくか、課題は多いのですが、当社の人事方針である"自律"をキーワードに、これからも様々な施策に取り組んでいきたいと考えています。
この事例のまとめ
課題 | シニア人材再雇用制度の正しい理解と、キャリア自律が乏しい 65歳までの再雇用の道は用意しているものの、それを選ぶシニア社員のマインドチェンジの不足が見受けられました。制度の意義や世の中の厳しさを知るとともに、自分の状況に合わせて定年後の自分はどんな道を選ぶのかを早い時期に考えてもらい、キャリア自律を促す必要性を感じました。 |
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方法 | 55歳で自分の強みと国や会社の制度を理解。定年後の働き方を考えてもらう これまでの58歳時のシニア人材再雇用制度の説明会に先だって、55歳時に説明会(研修)を1日かけて実施。自分の強みを知り、国の社会保障制度や会社の制度を理解。マネープランの作り方も学び、定年後の働き方を考えてもらいます。最後に希望者に個別相談の時間も設けています。 |
成果 | 考えるキッカケになり不安を解消。もっと早い年代の研修で視野を広く 「不安がなくなった」という一方で「新たな不安が生まれた」という声も。ただ、詳しい情報提供が好評で、それぞれが定年後を考える良いキッカケになっています。今後は50歳や40歳でも研修を行い、社外転身の準備をしやすくするなど、広い視野で考えてもらえればと考えています。 |
*記事中の社名、ご担当者の所属などは2013年3月現在のものを掲載しています。
取材日: 2013年3月
研修導入企業情報
EAファーマ株式会社 様
- 目的
- ミドル・シニアの活性化
- 年代
- 50代
- 業界
- メーカー(toB)
企業のご担当者様
人事部
専任部長増井 一 様