45歳対象の研修で50歳に向けたマネーとキャリアをプランニング、心構えを養う
50歳から賃金に大きく差がつく中で、どう労働意欲をアップさせるか
当社は、1998年までは60歳定年制で希望者全員を定年嘱託で再雇用していました。定年嘱託の賃金は、在職老齢年金と雇用保険からの受給を前提として設計しており、定年時の役職にかかわらず一律での処遇としていました。そのため収入という視点からは、ある程度の金額が確保されるものの、会社からの役割期待である賃金がずっと一律では士気低下の問題が生じかねませんでした。2013年問題が話題になっており、60歳を迎える社員が多かったことから、思い切って65歳定年制を導入することにしました。しかし、それまでと同じ賃金では、会社の大きな負担になります。そこで、生涯賃金でカバーすることを基本に、人事・賃金制度も変更しました。
新しい人事・賃金制度は、年齢により3つの区分を設けています。入社から50歳までの第1ステージは職能等級制度で、賃金は能力給・業績給・職務手当になります。50歳から65歳までは職務等級制度に変わり、賃金は職務給と業績給だけになって大きく差がつきます。50歳から60歳までを第2ステージ、60歳から65歳までを第3ステージとしていますが基本的には同じで、第3ステージには退職金の積み増しがないことが違います。ちなみに、職務としては、係長から課長、部長以上の管理職群と、バイヤーや外商の専門職群、そして役職のつかない専任職群に別れています。導入当初、定年が延びるということは組合も歓迎していましたが、一時的に賃金が下がる人もいますから、一部にはネガティブな見方もあったようです。そこは、生涯年収では増えることを理解していただくようにしました。
50歳からの第2ステージでは、自分の賃金が大きく変動する可能性があります。役職者は変わりませんが、管理職からはずれると賃金が減ります。この制度に対する心構えを早くから養ってもらうためにも、随時キャリアに関する研修を実施しています。現在は28歳、10年目、15年目、そして45歳で行っていますが、結婚年齢に近い28歳の研修と、将来の道筋が見えてくる45歳の研修では、マネーに焦点を当てたプログラムを取り入れています。
第1ステージ | 第2ステージ | 第3ステージ | |
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年齢 | 入社〜50歳 | 50歳〜60歳 | 60歳〜65歳 |
人事制度 | 職能等級制度 | 職務等級制度 | |
考え方 | 人材育成 職務での貢献 |
職務での貢献 | |
賃金制度 | 能力給・業務給 職務手当 |
職務給・業績給 |
賃金体系が変わる前に覚悟を持ち、マネープランの作り方も学ぶ
45歳の「ライフプラン研修」は、以前は50歳で実施していました。5年前倒ししたのは、第2ステージに向かう前にしっかりと覚悟を持ってもらうためと、定年まで20年あればマネー面で挽回が可能だと考えたからです。この研修を2008年よりライフワークスさんにお願いしていますが、当時悩んでいたのが、マネー分野のプログラム内容でした。
資産運用の話は、私たちには馴染みが薄いものです。また、将来必要な金額がわかっても、受講者が貯められる自信を持てず、会場が重い雰囲気になりがちでした。しかし、ライフワークスさんの体験セミナーを受けてみると、講師の方が難しいお金の話をわかりやすく説明され、ゲームやグループワークにより興味深く進めていました。さらに、夫婦に子ども二人といったモデルケースだけでなく、多様な人生に落とし込んで考えることができました。これなら、受講者に前向きになってもらえるだろうと、お願いすることにしました。
1日の研修のうち、午前中は会社の制度の説明やマネープランの作り方が中心です。午後に自分の職場生活を振り返り、環境変化を理解して、自分のライフプランを作ってもらいます。今年から導入したのが、「環境変化を考える」セッションです。世の中の動きや流通業界の動きを整理し、自分のキャリアへの影響を考えてもらいます。環境変化を他人ごとで終わらせないのが重要で、職場での提案や自分の行動改革につなげてもらうのがねらいです。
他人に話すことで自分の意思が固まる。もやもやした思いがスッキリ
多くの受講者が、研修の手応えを感じています。気の重い状態で参加する人も多いのですが、受講後はスッキリした顔をしている。自分の将来をしっかり考える有意義な時間となっているようです。一人で考えるより、誰かに話すことで意思が固まってくるのも良い点でしょう。私たちの仕事は短期の予算を追いかけることが多く、長期的な視点が不足しがち。これからの長い人生を考える良いきっかけにしてもらっています。
マネープランについては、プライベートな話をグループワークでできるのか心配でした。しかし、却って他人に話せることが新鮮なようです。特に、既婚・独身、家族構成など異なる人を一緒のグループにしたほうが、活発にアドバイスしあえるとわかりました。それぞれが貯蓄の重要性も再認識しています。業界の特性か"キリギリスタイプ"が多いので(笑)、講師の話が良い刺激になっています。確定拠出年金の運用方法についても、ふだんもやもやとしていた点がわかり、スッキリとしているようです。
どの会社もそうだと思いますが、当社にとってもこれまでのような賃金アップが難しい状況下で、どうモチベーションを維持するかが大きな課題です。50代からの職域開発も不可欠。従来ベテランが得意としていた職域も、今や縮小傾向にあります。50代が意欲を持って取り組み、力を発揮できる仕事を創り出さなければと考えているところです。
この事例のまとめ
課題 | 50歳から賃金体系が変わることにしっかり準備してほしい 65歳定年制の導入により、長く働ける環境になっていますが、同時に50歳からは賃金に大きく差がつく制度になっています。50歳を迎える前に、自分はどうしていくのかを考え、覚悟してもらう必要がありました。 |
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方法 | 将来に備えてマネープランの作り方を学び、ライフプランを作る それまで50歳で行っていた「ライフプラン研修」を45歳に繰り下げて実施することにしました。柱はマネープランとライフプランづくり。定年後を見据えて、自分のマネープランを見直し、キャリアや人生を考えてもらいます。環境変化がどのように自分のキャリアに影響するかも考えてもらいます。 |
成果 | 意識は高まったが、今後は賃金によらないモチベーションの維持が課題 受講者の感想は好評です。ライフプラン作りに積極的に取り組んで、時間が足りない人も見受けられます。研修で高まった意識をどう維持してもらうか工夫が必要だと感じています。今後は、賃金によらずにどうモチベーションを維持するか、また、50代からの職域開発も大きな課題です。 |
※ご担当者の所属などは2012年3月現在のものを掲載しています。
取材日: 2012年3月
研修導入企業情報
株式会社松屋 様
- 目的
- ミドル・シニアの活性化
- 年代
- 40代
- 業界
- 流通・小売
企業のご担当者様
人事部人事企画課
課長白圡 隆 様
株式会社松屋
人事部人事課
プランナー(能力開発・採用担当)田中 美和 様