リーダー候補のキャリア意識向上を目指す「異業種女性交流研修」座談会
2020年の女性管理職比率を目標に、課題への取組みを推進
ライフワークス:
2014年から始まった異業種女性交流研修、2018年で5年目を迎えました。まずは、現在の各社の女性活躍推進のテーマや課題などを教えていただけますか?
NTTドコモ:
弊社は2006年にダイバーシティ推進室を設け、女性活躍推進のためのさまざまな取り組みを行ってきましたが、まだまだ女性管理者比率が低い状況にあります。現在は、2020年度の女性管理者比率7.5%を目指して、女性社員のキャリア意識向上を行なっているという状況です。
大成建設:
弊社は、女性管理職比率を、2020年までに2014年度の3倍に、また、2025年までに女性の技術者を10%以上にすることを目標としています。建設業は今深刻な人手不足の状態にあり、今までのような男性中心の職場環境では成り立たなくなってきており、土木・建築の現場における女性の活躍が今後さらに必要となります。そのためには、女性にとって魅力的な職場でなければなりませんので、家庭と仕事の両立を支援する制度の整備や、女性社員本人また管理職向けに様々な角度から研修やセミナーを積極的に行っています。
あいおいニッセイ同和損保:
キャリアアップ形成支援・ワークライフバランス推進・両立支援の三本柱をテーマに、2020年までに指導的地位(課長補佐以上)に占める女性の割合を30%にすることを目標に設定し、様々な取組みを行ってきました。その結果、2018年度には、指導的地位に占める女性の割合は、27.9%となっています。今後は、上位層についても目標値を定めて取り組んでいかなければならないと考えています。
東芝:
弊社では、東芝グループの主要な企業を合わせて、2020年度までに女性管理職比率7%を目指していますが、まだまだ女性管理職比率が低い状況にあります。そのため、女性社員向けキャリアデザイン研修や女性社員の上長向け意識啓発研修を行うとともに、新卒採用における女性の採用比率として、文系50%、理系25%を目標に掲げ、女性の積極的な採用や活躍推進に取り組んでいます。
住友金属鉱山:
弊社は、2020年までの目標を「課長職以上の管理社員10名以上」としています。もともと女性社員の割合が一割程度と少ないこともあって、目標を設定した5年ほど前の女性管理社員は3名でした。育成が進み2018年時点で8名まで増えましたので目標の達成を期待しています。
大王製紙:
弊社は課長代理以上を管理職として、女性管理職比率を「2020年に3.5%」としています。もともとは5%としていましたが、2018年時点で1.2%という状況なので、現実的には3.5%が限界だろうと下方修正しました。ただ、2018年夏にはこれまでゼロだった女性部長が2名生まれたので、少し勢いづくかなと期待しているところです。
女性活躍推進の大きなテーマとしては、女性社員に対しては、いかに気持ちよく背中を押してあげられるか、上司に対しては、いかにして女性社員の背中をちょっと押せる上司になってもらうか、ということで取り組んでいます。
ライフワークス:
ありがとうございました。政府が掲げる「2020年までに女性管理職比率を30%に」(202030)という目標は、なかなか実現が難しいというのが実際のところですよね。2017年度の日本のジェンダーギャップ指数は、過去最低を更新し114位となっており、「経済参画」の分野における「幹部・管理職での男女比」(2017年度:116位)は昨年より3ランクダウンしていることからも、"202030"を達成するのは相当ハードルが高いということがわかります。
プログラムの概要
日程 | 2日間+フォローアップ1日(4か月後) |
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対象 | 次世代の女性リーダーとして活躍が期待される女性社員 |
研修1日目 |
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研修2日目 |
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フォローアップ |
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参加のねらいは、視野の拡大やリーダーとしての1段高い視点の獲得
ライフワークス:
では、みなさんはこの研修にどのような期待を持って参加されていますか? 2014年の開始当初から参加されているのが、あいおいニッセイ同和損保さん、大成建設さん、東芝さん、大王製紙さん、本日欠席の亀田製菓さんです。その後、2015年にNTTドコモさんが、2018年から住友金属鉱山さんが加わりましたが、参加のきっかけ・ねらいなどを教えてください。
あいおいニッセイ同和損保:
日常業務に忙殺され、視野が狭くなっていることや、保守的な傾向があり、キャリア志向の社員は多くない現状がありました。同時に、少子高齢化などにより、女性社員も最前線で戦力として、活躍していかなければいけないという世の中の流れが今後加速していくことを踏まえ、様々な業界の女性社員と交流したり、ロールモデルの講演を聴講したり、キャリアプランを考えるワーク等を行うことで、社内だけでは得られない刺激を受け、自分に自信を持ち、キャリア志向を育むことができるのではと考え参加しました。
東芝:
弊社では、役職者を目指す女性が少ないことが課題になっています。そこで、女性社員の意識変革をうながす方法の1つとして、異なる企業文化に触れたり、他社で活躍されている女性と交流し視野を広げるような研修に参加することで新たな視点に気づくことができれば、キャリアを築いていく上でプラスになるのではと考え参加しています。
NTTドコモ:
他社さんを知ることで自社と比較する視点が生まれ、個人や会社を客観視できるようになることがねらいの一つですね。そうやって客観視することで視座を上げ、キャリアアップにつなげてもらいたいという思いがあります。
ライフワークス:
やはりみなさん「視野の拡大」や「気づき」などを挙げていらっしゃいますね。住友金属鉱山さんは今年から参加ということで、一番の動機は何だったんでしょうか?
住友金属鉱山:
弊社は、これからは個の育成、すなわち社員の個別の事情に対応した不安や迷いを払拭していこうという段階にあります。今回の異業種女性交流研修に参加して、同じようなライフステージを迎える異業種の社員の方々と情報交換をしながら与えられた課題に取り組むことで、参加者が自分のキャリアを考える機会となるのではないかと考えたからです。
ほかでもないこの研修への参加の決め手は、「参加企業が似たような規模・環境の中で、同世代の社員が選抜されて参加する」という点です。一般公募で人が集まる異業種交流会に比べて、参加者が得られるものが多いのではないかと思いました。社内で話を通すにあたってもこの点が大きな説得材料になりました。
参加者には、視野が広がりやキャリアを前向きに考える意識が見られた
ライフワークス:
参加したことによる手ごたえや変化はいかがでしょうか?
NTTドコモ:
ねらいどおりで、「視野が広がった」という声や、「ライフイベントに関する悩みを分かち合えた」という声が挙がっています。弊社はライフイベントとの両立に関する制度や環境を整えており、社内にも両立している社員がたくさんいますが、「同世代の人はどうなのか」を知ることが励みになっているように見受けられます。
大成建設:
弊社も同じで、「視野が広がる」というのがいちばん多い感想です。「建設業という特殊な枠から離れてキャリアについて考えられた」という声もありますし、普段男性が多い職場で働いているので、男性の上司や同僚には言いにくい女性特有の悩みなども抱えていますから、「参加者が同世代の他社の女性であることで、身近な上司や同僚に話しづらいことも話しやすかった」といった声も挙がっています。
あいおいニッセイ同和損保:
弊社も「視野を広げられた」という声はもちろん、「中間課題(※)に向けた取組みを通して他社の仕事の進め方や企業文化を知ることができた」「様々な価値観に触れることができた」といった声が挙がっています。
※中間課題...3カ月後に行われるフォローアップ研修に向けて、企業をまたいでグループを作り、取り組む課題
東芝:
他社さんで出ていないことで言うと、弊社の30歳前後の社員は人からフィードバックを受ける機会がなかなかないので、この研修の場がその機会としてうまく機能していることを感じています。「社内ではなく社外比で自分の強みを知ることができた」など、今後頑張るためのモチベーションアップにつながっていると感じる声を聞いています。また、研修時に他社の参加者の方から「技術力が高い」と言われて「改めてそうなんだ」と思ったり、自身では気が付かなかった自分の強みを再発見できたり、キャリアについてそれほど考えてこなかった人がキャリアの考え方を知るきっかけになったりしていて、参加者のためになっているなと感じています。また「企業を超えて仕事上でのコラボレーション企画を検討したい」という声も出てきたりして、新たな発想に繋がって面白いなと感じています。
大王製紙:
弊社の場合、社内では受けられない刺激を受けられるということが一番大きいですね。実は、2年前にほぼ同じ内容の研修を社内の女性社員全員に対してやってもらったことがあって。その経験もありながら、この研修の参加者には「内容は同じだけど絶対に得るものがあるから行っておいで」と言って送り出したところ、社内の研修のときとはまったく異なる反応やフィードバックを他社の参加者の方から受けたんです。仕事に対する考え方が変わるまではいかないにしても、「こんなに異なる考え方があるんだ」という気づきを得られているように思います。
また、過去の参加者の中には「管理職なんて絶対にありえません」と言っていましたが、フォローアップ研修まで受け終えたあと、「管理職になってもいいかもしれないと思いました」と社内向けレポートに書いた人もいました。これも、社内だけの取り組みでは起こり得なかったことでしょうから、参加して良かったなと思っています。
ライフワークス:
大王製紙さんは、社内向けにレポートを書いていただいているんですね。
大王製紙:
そうなんです。彼女たちがこの研修で受け取ったことを、「今後、こんなふうに生かしていきたいと思う」「こういうふうに社内も変えていきたいと思う」といった形でまとめてもらって、役員に報告しています。社内にまだダイバーシティの文化が根づいていないので、役員にも気づきを得てもらいたくて。女性総合職に「役員メンター」の取り組みを始める際にも、この研修のレポートが、必要性の裏づけになりました。
ライフワークス:
ありがとうございます。お話をうかがって、みなさん、目的・ねらいを達成できていることを感じましたし、社内では得られないものを得られているのはすごくよかったなと思います。ちなみに、亀田製菓さんは、初年度の参加者の方で課長になられた方がいらっしゃるとのことです。いずれ、卒業生の中から、ロールモデルとしてフォローアップ研修に来てくださる方が出てくるといいですね。
次世代のリーダーに参加してもらうため−−人選の工夫
ライフワークス:
ところで、みなさん人選はどのようにされているのでしょうか? お話をうかがう限り、大きく、(1)一定の対象に対して公募する、(2)各部門から推薦してもらう、(3)事務局が一定のリストから選び、声かけする、の3つに分けられるようです。それぞれに工夫されていることなどを教えてください。
まずは、公募で選出されている企業様を代表して、大成建設さんはいかがでしょうか?
大成建設:
弊社は社内で行っている基幹職女性社員向けの「リーダー育成研修」の修了者を対象に公募を行い、先着順で参加者を決めています。というのも、自分のキャリアビジョンを受け身ではなく主体的に考え、前向きに取り組もうという意志がある者でないと効果を得られないと考えるからです。指名されて「なんで私が参加しないといけないんだろう?」という思いで参加するよりは、自ら「行きたい」と手を挙げて参加した方が、本人としても、会社としても良いのではないかと考えています。
ライフワークス:
部門推薦などで選んでいらっしゃる企業様を代表して、住友金属鉱山さんはいかがでしょうか?
住友金属鉱山:
弊社は人事部が候補者のリストを用意し、事業部から推薦してもらいました。理由は2つで、1つは、事業部長に管理職・リーダー候補のリストを見て把握してもらうためです。もう1つは、事業部推薦の過程で上司にも候補者の決定が伝わることで参加者に対する上司のメッセージ(※)をもらいやすくするためです。上司自身にも「自分が育成している」という意識を比較的スムーズに作ることができると感じています。
※参加者に対する上司からのメッセージ・・・研修時に使用する上司からの期待や応援メッセージの手紙
ライフワークス:
大王製紙さんはどのようなやり方でしたか?
大王製紙:
うちは紆余曲折があったというか、いろいろ試しましたね。各部門からの推薦、人事からの推薦、部長からの推薦など...。それぞれに課題があったので、2018年からは、対象者全員に対して、皆が順番に参加していくものなんだということを伝えた上で、人事が「この人かな」と思う人を順番に選ぶ形にしました。
ライフワークス:
あいおいニッセイ同和損保さんも人事の方が選んでいらっしゃるんでしたよね?
あいおいニッセイ同和損保:
人事部で人選する場合もありますし、各部門から推薦いただく場合もあります。本社業務部門・営業部門・損害サービス部門からバランスよく人選することで、異業種・他社の方との交流だけではなく、社内の交流も活性化されるよう工夫しています。
ライフワークス:
手が挙がる・挙がらないや、企業ごとの風土・考え方もありますし、候補者の人数にもよりますが、特定の研修を受けた人を対象に手挙げ式にするという大成建設さんのやり方が、意欲的な参加者を募るのに良い方法の1つかもしれませんね。期待されていることの理解やリーダー意識も芽生えているので、前向きになれるように思います。
複数企業:
確かに。そうですね。
大成建設:
確かに、「期待されている」と意識付けされている効果はあるかもしれません。先ほどお話したリーダー育成研修は、年1回、基礎編、中級編、応用編と3年かけて受講すると修了となります。そうして意識が少しずつ高まっているところにこの研修への参加者を募るので、自然と手が挙がるように思います。
大王製紙:
その仕掛けはおもしろいですね。効果的だと思います。
興味を持たれた企業の方へ
ライフワークス:
それでは最後に、異業種女性交流研修への参加を検討されている企業さんに対して、おすすめポイントがあれば教えていただけますでしょうか。
東芝:
業界を超えて交流ができるということでしょうか。同業他社の方と交流する機会はあると思いますが、業界を超えた交流機会はなかなかないと思うので。
NTTドコモ:
異業種女性交流研修だと、まずは他社の業態などを知るところから始まるので、その時点で視野を広がるきっかけになっています。 普段は接することのない業界や他社の同世代の女性の考えを知ることができることは得るものが多いと思います。また、今後のネットワークに繋がることが何よりの財産ではないかと思います。
ライフワークス:
そうですね。亀田製菓さんからも次のようなコメントをいただいています。
「『当たり前』が異なる人との交流からの学びは得難いものです。各社から選抜された参加者はいずれも分野の異なるスペシャリストであり、尊敬し合える人材です。一方で、同世代の女性ということで共通する悩みも多く、社内よりも本音で話し合える上、アドバイスも素直に聞き入れることができるように思います。それが、前向きな成長につながっていると感じています」とのことです。
これからもお互いに良い刺激を得られる場にできればと思います。これからもよろしくお願いいたします。
取材日: 2018年9月14日
研修導入企業情報
「異業種女性交流研修」参加企業座談会
- 目的
- 女性の活躍推進
- 年代
- 20代 30代
- 業界
- 情報通信 サービス 保険・金融 メーカー(toB) メーカー(toC) その他
企業のご担当者様
座談会参加企業(敬称略):
あいおいニッセイ同和損保、NTTドコモ、住友金属鉱山、大王製紙、大成建設、東芝、ほか1社(欠席:亀田製菓)