リモートワーク(テレワーク)のマネジメントの課題と解決の手法
職場に通わず、自宅、コワーキングスペース、サテライトオフィスなどで仕事をするリモートワーク(テレワーク)というスタイルを取り入れる企業が多くなりました。働く場所を問わないことで、社員は柔軟な働き方を選択することができます。また、企業は遠隔地に住む優秀な人材を確保でき、また賃料や移動のコストを削減できるなど、メリットは様々です。他方で、リモートワークが増えてきたことにより、メンバーについて「状況がわからない」「評価の仕方がわからない」「接し方がわからない」といった課題を抱える上司(管理職)が増えているようです。そこでこのコラムでは、「リモートワークとマネジメント」について課題や解決の方法を考えてみたいと思います。
リモートワーク状況でのマネジメント
リモートワーク(テレワーク*)状況でのマネジメントに課題を感じている人向けに、課題解決のためのアイデアが紹介されているのをよく目にします。そして、これらは、「1.マネジメントの方法」、「2.マネジメントの環境づくり」、「3.コミュニケーションの活性化」という3つに分類できます。
*このコラムでは、リモートワークとテレワークを区別せず、すべて「リモートワーク」という表現を用いています。
それぞれについて概要を簡単にまとめると次のようになります。
1.マネジメントの方法(リモートワーク状況になり、より意識しなければならないこと)
- 目標設定し、仕事の目的を明確にする
- 期待や役割を明確にし、チームのメンバー(部下)に伝えて共通認識を持たせる
- 短期的な目標に留まらず、組織のビジョンも共有する
- プロセスではなく、成果を評価する
- 評価の根拠について、フィードバックを丁寧に行う
2.マネジメントの環境づくり
- WEB会議システム(Zoom、Teamsなど)、チャット(Slack、Chatworkなど)、ファイル共有システム(GoogleDrive、OneDriveなど)を活用し、タイムリーに進捗共有をする
- スケジューラやプロジェクト管理ツールを使い、タスク、締め切り、進捗を可視化する
- 応答時間や頻度など、コミュニケーションのルールを決める
- メンバーが悩みや、トラブルを抱えたままにならないよう、相談しやすい場を作る
- メンターやバディを制度として採り入れる
3.コミュニケーションの活性化
- コミュニケーションの量を増やす
- 資料や議題の事前共有により、会議中は対話に集中できる環境を作る
- 1on1を実施する/1on1の質を上げる
- 同じ空間で仕事をしているときのように、社内交流や雑談ができる環境を作る
- 絵文字、スタンプなどを活用し、オンラインでも親近感がわくような配慮をする
- 直接顔をあわせる機会が持てれば、チームの繋がりを生む機会として活用する
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以上の中でも、特に、期待を伝えること、ツールの導入やコミュニケーションの取り方の変更などはすぐにできるかもしれませんし、実際に試してみた人も多いことでしょう。そして、その中には、「やってみたけどうまくいかなかった」という方もある程度含まれるはずです。
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リモートワーク状況でのマネジメントの失敗・課題
さて、うまくいかなかったのはどのような場合が考えられるのでしょうか。よくある2つのケースを紹介します。
しかし、意図に反して次第に部下が登録するタスクの量は減り、報告は形式化したものしか届かなくなった。そのため、部下が仕事をしているのかますますわからなくなった。
ところが回を重ねていくと、部下の発言は、単純に仕事の進捗や、目標の達成度だけになっていった。リアクションや表情などがリアルで会っている時と同じように捉えられないこともあり、部下の本音や意見の背景がわからなくなった。
リモートワーク状況になり、様々な方法で部下とのコミュニケーションを図ったり、仕事を任せたりしようとする上司(管理職)の方は実に多いようですが、中にはこのように「意図に反してうまくいかない」という経験をする方も少なくはないようです。
上司の立場であれば、「状況が変わっても、チームとしての成果を上げていきたい」と誰しも考えます。仕事を任せた部下たちに成果を上げてほしいと期待するからこそ、先の2つのケースのように工夫を施したはずです。
他方で、このような上司の行動の変化を、部下はどのように受け止めているのでしょうか。もしかしたら「やることが増えた」、あるいは「信頼されていないのでは」と思っているかもしれません。
リモートワーク状況になる以前から、実はこのような上司と部下のすれ違いはマネジメントの課題の一つとして挙げられていました。しかし実際に物理的に部下の姿が見えなくなったことで、すれ違いにさらに拍車がかかったといわれることも多いようです。
ですが、もしかすると、リモートワーク状況かどうかに関わらず、本当に上司が見えていなかったのは、部下が仕事をする姿や仕事の進捗の具合などだけではなく、マネジメントの重要なポイントだったのかもしれません。
そのポイントとは何なのかを探る前に、上司と部下も含めた職場の人と人の間には、そもそもどのような問題や課題が存在するのかを整理しておきます。
職場にある問題と課題
以上の2つのケースに限らず、職場には、人と人との関係にまつわる様々な問題や課題があります。具体的には、「話が通じない」、「意見がかみ合わない」、「目標が共有できない」など。このような「わかりあえない」経験はだれしもあるはずです。もちろん、メンバー同士だけではなく、上司と部下の間でも。組織の中で働く以上、このような事態は避けて通れないものといえます。
職場で経験する「わかりあえない」とは一体何なのでしょうか。それをひも解くために、埼玉大学の宇田川准教授の著書『他者と働く-「わかりあえなさ」から始める組織論』を参考にしてみます。
著者は、リーダーシップ研究者のハイフェッツの議論を用いて、こういった、組織の中のもやもやした状態を、「技術的問題」と「適応課題」に整理しています。
1.技術的問題
知識や技術を用いて対処できるような、比較的容易に解決する問題のこと。例えば、マニュアルを作って共有する、あるいは先輩や上司が「まずはこれをやってみてごらん」と指導することで解決できるような類の問題。失敗しても、トライ&エラーで方法を変えて対処できる。
2.適応的課題
価値観、立場、状況、「解釈の枠組み」などにより、人と人でそれぞれに捉え方が異なり、ずれが生じる類の課題のこと。例えば、営業は今月の売上達成のために早く契約をしたいのに、法務の契約書チェックがなかなか終わらない。他方で、法務は契約書内容の確認、与信チェックなどで、自社のリスクを軽減したいので、営業に契約書を戻せないという課題。
職場の様子を思い起こせば、それぞれの仕事の価値観や進め方のルールなどがあり、それぞれの立場上の言い分があることに気づきます。なるほど、「契約書」は、営業にとっては売上獲得のためのエビデンスです。他方で、法務にとってはリスク回避のエビデンスです。そして、もちろん、上司と部下の間にも、少なからずこういった立場上の言い分の違いはありうるでしょう。
このように、お互いの置かれる立場によって用いる「解釈の枠組み」が違うことで、同じものでも解釈が異なるということが起こります。そして、これが「わかりあえない」という状況、著者の言葉を借りれば「溝」を生む理由です。
著者は、以上のような「技術的課題」は、職場の中の「気の利いた誰かがとっくに解決」しているようなもので、「適応課題」の方は、「一筋縄で解決できない」「都合の悪い問題」として職場に残りがちなものと指摘しています。つまり、この後者の方の課題に対応できるようにしなければ、チームの成果は程遠いものになり、マネジメントも失敗する可能性が高くなりそうです。
リーダーシップの詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
→リーダーシップの種類と今求められるリーダーシップのスタイルとは
マネジメントが成功するためのヒント ~「対話」によるアプローチ方法
それでは、「わかりあえない」状況をどのように解決していくことができるのでしょうか。筆者は、このような「溝」(わかりあえない)に対して「橋を架ける」(わかりあえる)方法を、「対話」の4つのプロセスに基づいて次のように紹介しています。
1.準備「溝に気づく」
相手とのやり取りの中で、伝わらないもどかしさを感じたときに、いったん自分の立場、専門性、職業倫理などを脇に置く。そして、自分には相手の何がどのように見えているから、そのような感情を持っているのか考えてみる。
2.観察「溝の向こうを眺める」
相手側がどんな立場で、どんな専門性や職業倫理などの下で、自分のイメージと違うことを言ったり、行動したりしているのか。そのようにするのはなぜかについて推し量ってみる。
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
相手側の立場、専門性、職業倫理などを踏まえて、相手がどんな状況で仕事をしているのかイメージをしてみる。そのイメージの中で、自分が伝えたいことがどのように見えるのかを推し量ってみる。
4.介入「溝に橋を架ける」
2、3のプロセスを踏まえて、伝えかたを変えるなど、新たな関係づくりのための行動を起こす。その行動の中で見えてきたことをもとに、うまくいかなかったことを見直し、行動を修正する。
画面の向こうにいる相手と「わかりあう」のは難しいと思う方もいるかもしれませんし、日頃からこのような丁寧なアプローチをしている時間がないと思う方もいるかもしれません。それでも、相手と「わかりあう」ために、「溝」に「橋を架ける」ような姿勢は大切にしたいところです。
近年では、チームのメンバーの興味、関心、モチベーション向上のきっかけといったものは様々で、一様なマネジメントスタイルは通じにくくなっています。しかも、毎日会社で同じ席に座り「背中を見せて育てる」というような従来のマネジメント方法は、現在のテレワーク状況では、再現しにくいことの一つになっています。
だからこそ、マネジメントの方法は常に試行錯誤が必要なのですが、表面的に方法だけを変えるだけで心から「わかりあおう」としないと、いつまでたっても上司からの期待役割は部下の心に届かず、チームが好ましくない方向に向かっていってしまうことは十分懸念されるのではないでしょうか。
キャリア開発の事例集です。キャリア研修や、キャリア開発のための仕組みづくりや体制の構築といったものをご紹介しています。定年延長への対応やシニアの職域開発といったことにご関心がある方も、ぜひ参考にしてください(上記の【事例2】の要約版も収録)。事例集はこちらからダウンロードしてください。
おわりに ~リモートワーク状況で他者と働くということ
リモートワークといったテクノロジーを介したコミュニケーションが必要な状況の場合、互いがシステムにログインした状態にならない限り、リアルタイムに相手の状況は見えません。そのため、部下が上司に助けを求めるには、自分の状況を、対面とは違った方法で伝える必要があります。
リモートワーク状況の場合、例えば、普段から自分で頑張るタイプの人は、自ら働きかけることをしないで、余計に助けを求めなくなる可能性があります。他方で、日ごろから雑談などを好む人は、チャットなどで気軽なコミュニケーションを採ることが自然にできる可能性があります。
上司としては部下の異変に気づく機会が少なくなるため、日ごろから意識して気に掛けることを忘れないようにしなければなりません。もちろん、そのような配慮のためにはチームのメンバーたちのコミュニケーションのスタイルや性格などについても理解しておく必要があるといえます。
さて、例え上司が部下の異変に気づいたとしても、「溝」に「橋をかける」ことなしには、いつまでたっても上司と部下は「わかりあえない」ままになってしまうのは、これまで確認してきたとおりです。そして、コミュニケーションの取り方が変わったリモートワークの状況でも、対面の状況でも、「自分を知り、相手の文脈を観察し、それを解釈して、必要な介入をする」という「橋をかける」プロセスは、実は変わらないと感じた方も多いのではないでしょうか。
つまり、大切なのは、相手と「わかりあえない」状況をどのように乗り越えるのかということにつきます。最近では、リモートワーク状況で、プロセスよりも成果を評価することに注目が集まっているようですが、そういった仕組みを取り入れる場合にも、「溝」に「橋を架ける」ことを忘れてしまっては、評価を正しく伝え、次の行動に繋げることは難しくなるようにも思えます。
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参考文献:
宇田川元一(2019)『他者と働く -「わかりあえなさ」から始める組織論』NewsPicksパブリッシング
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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