男性育休取得における企業のメリット・デメリットや取得率向上の方法を紹介
育児・介護休業法が改正され2022年4月から段階的に施行、10月には「産後パパ育休制度(出生時育児休業)」が施行されます。産後パパ育休が取得できるのは女性の産後休業中の時期に当たるため、「男性版産休」とも呼ばれています。
本記事では、企業が男性の育休取得を推進するメリット・デメリット、育休取得率を上げるためのポイントを解説します。
男性育休取得の現状
2020年度の日本の男性育休取得率は12.65%です。着実に向上しているものの諸外国と比較すると依然、低迷しています。政府は、男性の育休取得率を上げるためにさまざまな施策を講じています。未だ企業の対応や社内での理解との間に温度差があり、取得率が伸び悩んでいるのが実情です。
実際、なぜ男性の育休取得を推進する必要があるのか?今一つ意義を見出せない企業も少なくないかもしれません。
育児・介護休業法が改正され2022年4月から段階的に施行されると同時に、企業には男女問わず育休をとりやすくするための環境整備、上司や同僚からのハラスメント防止の措置などが義務付けられます。政府がいよいよ男性育休の浸透に本腰を入れてきたことがわかります。
出所:厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」(P2)
育休とは?
育休(育児休業)とは「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」によって定められている制度です。
要件に該当すれば、男女問わず申し出ることで、子どもが1歳(保育所に入所できない場合などは最長で2歳)に達するまで取得できます。
育児休業中は雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。
(支給対象者になるには支給要件があります)
- 育休開始から6カ月以内...休業開始時賃金日額×支給日数×67%
- 育休開始から6カ月経過後...休業開始時賃金日額×支給日数×50%
月末時に育休中であればその月の社会保険料は免除されます。さらに、育休中に無給となった分に応じ次年度の住民税と所得税が軽減されるため、育休前の約80%の収入がカバーできる仕組みです。
政府は2025年までに男性育休取得率を30%にするという目標のもと、給付金の給付率を80%に引き上げようと検討しています。実現すれば、育休開始から6カ月間、休業前とほぼ同等の手取り額が受け取れます。
男性が育休を取得する企業のメリットとデメリット
ここでは、男性育休取得のメリットとデメリットを整理します。
男性の育休取得による企業のメリット
業務の属人化を解消
日本企業の多くはメンバーシップ型であり、人に仕事がついて回る傾向があります。さらに、男性が長期休暇をとることが少ないことも業務属人化の要因のひとつです。
そこで男性が育休をとれる環境を整えることをきっかけとして、業務の標準化、効率化を進めることで、「特定の担当者しか分からない」「プロセスがあいまい」など、ブラックボックス化している仕事を見直すきっかけにすることができるでしょう。
生産性の向上やイノベーションの創出
育休取得から仕事に復帰した後に子育ての時間を確保するために、平日仕事の後にプライベートな時間の確保をすることにも意識が向きやすくなります。こうしたことがきっかけとなり、視野が広がり新しいアイデアや企画がうまれやすくなる可能性が考えられます。
社員のキャリア開発につながる
長時間労働ではなく、業務効率を上げて生産性を保つことが重視される風土が醸成されていきます。一人ひとりの働き方や意識に変化がうまれれば、個人のキャリア形成にもプラスの影響を与えるでしょう。
企業イメージの向上
男性育休取得率の高さは、「柔軟な働き方ができる会社」というイメージに直結します。特に、若手男性就労者の間では育休取得の意向が年々高まっていると言われています。ライスステージに応じた働きやすさがあることは、若手の人材を確保する際にも積極的にアピールできる点となります。
男性の育休取得による企業のデメリット
ここでは、男性育休制度導入の際に起こりがちな大変さ、デメリットを整理します。
社内で不満が出やすくなる
男性の育休が「労働力の一時的減少」と捉えられると社内で不満が出やすくなるリスクがあります。「仕事が増える」など同僚が業務負担への不満を感じたり、子どもがいない社員の不公平感につながったりすることが起こり得ます。こうしたことを配慮して、人材の補強などを合わせて検討する必要があります。
制度が形骸化する
男女とも育休を取れる制度自体の意義を社員に理解してもらえないと、仕組みを作っても利用されない場合が少なくありません。あるいは運用できるまでに時間がかかります。育休を取得している男性へのフォロー体制の確立、上司や周囲の理解をはじめとした育休をとりやすい風土の醸成が必要です。
このように、男性育休の制度も他の新しい制度導入時と同様に、風土醸成や、運用する難しさを乗り越えるまでの負担が、少なからず生じることが考えられるでしょう。
なぜ男性の育休取得は進まないのか?
育休は労働者の権利です。申請があれば企業は拒むことができないにもかかわらず、なぜ取得は進まないのでしょうか?その理由のなかでも会社側で配慮できることは以下の3つです。
- 社内の人手が不足している
- 会社で育休制度が整備されていない
- 職場が育休を取得しづらい雰囲気
逆説的にいえば、この課題が解決すれば男性の育休取得率は改善されるでしょう。では、課題解決のボトルネックは何でしょうか?
2021年に積水ハウス株式会社が企業へおこなった調査では「男性の育休取得の促進策を検討中」だと回答したのは部長クラスで34%、経営者・役員クラスで20%です。さらに、女性部長の48%が促進案を具体的に検討しているのに対し、男性部長は20%しか検討していません。
育休取得率を上げるためには、男性の経営者・役員クラス・部長クラスの意識改革が不可欠だとわかります。
企業側が男性育休取得を促進しない理由には以下があります。
- 代替要員が確保できない
- 休業する社員以外の負担が大きい
人材を確保できない場合も、以下のような工夫をすることが必要です。
①組織内の業務を効率化し、社員がカバーし合える時間を生み出す
②社内の仕事を属人化させない取り組み(標準化とワークフローの作成等)を促進する
そのためには、社員に新たなスキルの習得が必要になることも出てきます。休業する社員以外に「スキルアップ手当」を導入するのも一つの対策です。休業する社員には「育児休業手当」の上乗せで、休業中でも通常の給与に近い金額が得られる制度をつくることは、取得の促進に有効です。助成金などを活用することがポイントになります。
中長期的な視点で考えると、誰もが育児・介護・病気の治療などに直面した際、ワークライフバランスをとりながら働ける環境があること自体が重要だと言えるでしょう。男性育休もそのなかの要素のひとつであると捉えて浸透させていきましょう。
人生100年時代、働く期間は長期化していきます。仕事だけでなく、家族や仲間、自己啓発、健康、趣味など、これまでより長い時間軸での組み合わせを考えながらキャリア開発をする視点を持つことが大事になっていきます。
育休取得率を上げるポイントは?
育休取得率を上げるポイントには、以下の2つがあります。
リーダー・管理職・マネジメント層における女性の活躍推進
管理職向けの理解促進施策・研修などをとおし、ダイバーシティ促進に理解のある管理職を育成していくことがポイントです。
現在の管理職層には、性別、年代、雇用形態などが多様な人材の力を最大限に活かすマネジメントが求められます。そのため、まずは上司に多様な部下のキャリア開発支援をすることの意義を理解してもらうことが重要です。あわせて部下のキャリア開発支援を進めるための手段として、キャリア面談のスキルなどを身に着けてもらうことも有効です。
復職後のサポート体制を整えること
育休をとって仕事を離れている社員は不安なものです。業務の引き継ぎから復職後のサポートまで、育休前後に上司と話せるサポート体制を構築しましょう。在宅勤務を積極的に取り入れるなど、復帰後も安心して働ける環境を用意することが大切です。
まとめ
日本の男性育休取得率はここ数年向上し、2020年には過去最高の12.65%になりました。しかし、フランスの100%、スウェーデンやノルウェーの約90%など諸外国と比べるとまだかなり低い状況です。
海外事例を見れば、男性育休取得率の向上が従業員満足度の向上や生産性の向上につながることがわかります。会社としてもメリットの多い男性育休取得の意義を、いま一度見直して、男女問わず育休がとりやすい環境を整えていきましょう。
この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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