働き方改革とはいつから?背景や施策の具体例をわかりやすく解説
働き方改革とは、多様な働き方を選択でき、公正な処遇が確保できる社会を実現するための総合的な改革を指します。
厚生労働省公表資料の「一億総活躍社会の実現に向けて」によれば、働き方改革とは「働く方々が、それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講じます。」と定義されています。
(引用:https://www.mhlw.go.jp/content/000474499.pdf)
働き方改革の一環とされる「時間外労働の上限規制」の施行時期(大企業)が2019年4月だったことから、2019年4月から段階的にスタートした改革とも言えるでしょう。
働き方改革の背景
では、なぜ、2019年に政府主導の働き方改革が施行されたのでしょうか。主には以下の背景があると言われています。
1)少子高齢化に伴う生産年齢人口(労働人口)の減少
日本において、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」は、先進国の中でも顕著な課題であり、待ったなしの課題です。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると、総人口は2030年には1億1,662万人、2060年には8,674万人(2010年人口の32.3%減)にまで減少すると見込まれており、生産年齢人口は2030年には6,773万人、2060年には4,418万人(同45.9%減)にまで減少すると見込まれているようです。生産年齢人口、労働人口の減少は日本の特有の課題と言えるでしょう。
(引用:総務省|平成28年版 情報通信白書|人口減少社会の到来 (soumu.go.jp))
2)長時間労働による過労死の問題
また、労働時間の長期化に伴う過労死の問題が社会問題化したという背景もあるでしょう。一般に、時間外労働が45時間を超えて長くなればなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まるといわれており、過労死ラインは80時間と言われています。この問題点への対処も、導入背景として挙げられるでしょう。
3)日本における労働生産性の低下
また、「日本の労働生産性の低下」については、世界比較においても常態化している課題です。公益財団法人 日本生産性本部による「労働生産性の国際比較2021」によれば、日本の時間当たり労働生産性は49.5ドル(5,086円)で、OECD加盟38カ国中23位、日本の一人当たり労働生産性は、78,655ドル。OECD加盟38カ国中28位となっています。
2019年の同調査において、日本の時間当たり労働生産性は46.8ドル(4,744円)で、OECD加盟36カ国中21位だったので、傾向は大きく変わらず、世界的な地位は今も低下しているといえるでしょう。
(引用:労働生産性の国際比較2021 | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人日本生産性本部 (jpc-net.jp))
4)育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化
更には、少子高齢化による労働力不足や、女性の管理職登用など社会的進出により、育児や介護の両立など「働き方のニーズ多様化」も重要な課題になっています。こういった環境の中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが求められていました。これらも、働き方改革導入の背景と言えるでしょう。
働き方改革の具体的な施策
働き方改革の具体的な施策としては、主に以下3つのポイントに分類できるでしょう。これらを進めるにあたり、法改正が必要となったものを、まとめて働き方改革関連法とも呼ばれています。
1)長時間労働の解消
「長時間労働の解消」とは、厚生労働省によると、過度な労働時間、働き過ぎを防ぎながら、ワークライフバランスと多様で柔軟な働き方を実現することとしています。具体的な施策は、残業時間の上限規制、 勤務間インターバル制度の導入、1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得義務付け、月60時間を超える残業の割増賃金率を引上げ、フレックスタイム制などの制度拡充、など多岐にわたります。
2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
また、「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」も、具体的な施策の一つです。厚生労働省によれば、同一企業内における正規雇用と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の格差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることとしています。いわゆる「同一労働同一賃金」の原則です。
具体的な内容としては、同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について、不合理な待遇格差を設けることが禁止され、非正規雇用労働者は、正規雇用労働者との待遇格差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになりました。
3)高齢者の就労促進
次に「高齢者の就労促進」です。厚生労働省によると、少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を始めています。具体的には、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されています。
この改正は、定年の70歳への引上げを義務付けるものではないものの、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主として、なんらかの措置を制度化する努力義務とされています。
参考情報:ミドルシニアの力を活かした人材戦略の検討に役立つ記事を確認する
働き方改革のこれから
働き方改革は2019年から段階的に導入され、3年以上が経過しました。この働き方改革の3年間の成果・影響は、これから徐々に見えてくるのではないか思います。一方で、これからの働き方改革の視点・ポイントはどうなるのでしょうか?
VUCAと言われる先が見えない時代に加え、新型コロナウイルスによる外出規制などの激しい環境変化の影響により、働き方改革を改めて見直し、推進していく必要があるでしょう。働き方改革の「これから」について、重要だと思われるテーマ・ポイントを3つ挙げてみましょう。
1)テレワーク拡大など更なる働き方の柔軟化
まず、「テレワーク拡大など更なる働き方の柔軟化」です。特に、新型コロナウイルスにより外出制限が要請される中、テレワーク制度は劇的なスピードで、各企業や団体に導入されていきました。しかしながら、世界比較をすると、まだまだ日本のテレワーク普及率・割合は低い数字のままです。テレワーク総合ポータルサイトによれば、日本のテレワーク普及率・割合は、わずか、19.1パーセントで、米国の85%と、英国の38.2%と比較すると大きく見劣りしています。
(参考:海外の取り組み | テレワーク総合ポータルサイト (mhlw.go.jp))
一方で、フレキシブルオフィスを展開するWeWork Japan 合同会社の調査(2021年7月)によると、個人の側から見れば、2人に1人がオフィスとテレワークを組み合わせるハイブリッドワーク希望しているという実態も見えてきています。
(参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000045221.html)
約半数の個人がテレワークのメリットを感じている中、企業側としては、まだまだ積極的な導入を進めていないなど、テレワーク拡大による働き方の柔軟化については、課題もありそうです。自社の経営戦略と紐づけた人事戦略の観点で、自社にとってよりよい働き方を模索する必要は、まだありそうです。
2)中小企業への働き方改革の適用拡大
さらに、「中小企業への働き方改革の適用拡大」も大きなテーマでしょう。働き方改革の施策は、大企業から導入され、その後、少し猶予を見て、中小企業へ適用されるのが一般的でした。例えば、働き方改革の一環として、2019年4月から時間外労働の上限が大企業に導入されましたが、中小企業への適用は2020年4月からでした。
今後発生しうることとしては、2023年4月1日以降、中小企業に対しても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を50%以上とする規定(労働基準法第37条第1項ただし書)の適用を受けることとなります。また、引き続き、同一労働・同一賃金、高度プロフェッショナル制度、5日間の年次有給休暇の取得義務付けなど、中小企業も様々な働き方改革検討の必要性が増してくるでしょう。
こうしたことを推進するなかで、「個人のキャリア自律」を促す必要性が一層高まるでしょう。社会変化が一層激しく不確実な状況下では特に、現場で働く個々人が主体的・自律的に動ける組織を創ることが事業継続・拡大の肝になります。
参考情報:キャリア自律促進の意義と施策に関する資料を確認する
3)個人のキャリア自律促進
キャリア自律の重要性の高まりの背景として、働き方が多様化し、必ずしも同じ空間・オフィスで働く必要がなくなったことも挙げられるでしょう。個々人が別々の環境で働くという働き方に適応し、いかに自走・自律できる社員を育てるかの重要性が増してきています。個人にはキャリア自律(主体的に自らのキャリアを考え、行動すること)が求められ、企業には個人のキャリア自律の支援と、自律した個人の力を活かす環境づくりが求められていくでしょう。
ここで、活躍を期待されているのが、国家資格キャリアコンサルタントです。国家資格キャリアコンサルタントは2016年に国家資格化された資格であり、2022年4月現在、その資格保持者数は約6万人となっています。キャリアコンサルタントは、個人のキャリア自律を促すプロであり、企業内で、この専門家を活用した施策、働き方改革の推進支援が始まっています。
例えば、厚生労働省は、セルフ・キャリアドックの推進を掲げています。セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修を組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の仕組みとされています。この施策を中心的に担える国家資格キャリアコンサルタントによる支援をキャリア開発支援の施策のひとつとして活用する事例も出てきています。
関連資料:「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開(厚生労働省 平成29年11月発行、12月改定資料より)の資料
関連情報:キャリアコンサルタントを活用したキャリア開発の事例を確認する
関連情報:セルフ・キャリアドック導入支援サービスを確認する
4)企業が人的資本を最大化するという視点
2019年から始動した働き方改革は3年が経過しました。制度の側面で見れば、各企業で、社員にとって、働きやすい環境の整備が着々と進みつつあるのではないでしょうか。しかし今後は、制度のメリットを生かしつつ、働く「個人」の自律を引き出すこと、人的資本の最大化に向けた取り組みに注目が集まってくるのではないでしょうか。企業は、テレワークの活用などを通した多様な人材が働きやすい環境整備にとどまらず、人材を資本として捉え、経営戦略と紐づけて、人材価値を最大化する人材戦略を検討することが求められるでしょう。
まとめ
2019年に施行された働き方改革は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少、労働生産性の低下、育児や介護との両立ニーズ、働く人のニーズの多様化などの背景のもと、施行されました。働き方改革の具体的な施策としては、長時間労働時間の解消、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、高齢者の就労促進などがあります。
2022年現在、働き方改革施行から3年が経過した今、次なる改革に注目が集まっています。それは、新型コロナウイルスのような未曾有の変化にも耐えうる「多様で柔軟な働き方の整備」と、個人のキャリア自律促進による「人的資本の最大化」を両輪で動かすという視点ではないでしょうか。
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<参考情報>
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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