リカレント教育とは?リスキリングとの違いやメリットを簡単に解説
「リカレント教育」という言葉をご存じでしょうか。リカレント教育とは、学校教育から離れた後も、必要なタイミングで再び教育を受け、就労と教育のサイクルを繰り返すことを指します。多くの方が知ってはいるものの、時間的な余裕や経済面の負担などによる課題があり、なかなか浸透が進んでいないのが現状ではないでしょうか。
本記事では、生涯学習やリスキリング等との違いやリカレント教育のメリット・デメリット、そして具体例を紹介していきます。企業が実際に導入する前に重要なポイントを把握することで、従業員満足度の向上や、人材の流出防止が期待できるかもしれません。
リカレント教育を深く理解し、自社の人事施策に生かしていきましょう。
1.リカレント教育とは
リカレント教育とは、「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていく社会人の学び」を意味します。厚生労働省では、経済産業省・文部科学省等と連携して、学び直しのきっかけともなるキャリア相談や学びにかかる費用の支援などに取り組んでいます。
2.リカレント教育とリスキリングの違い
「リカレント教育」と混同しがちな言葉・概念として、「リスキリング」があります。近年は、特にデジタル化と同時に生まれる新しい仕事に適応したり、デジタルを活用して仕事の進め方を大幅に変えたりしながら、事業の成長や業務の効率化等を図っていくことがリスキリングの目的です。そのために企業が主導して、人材戦略として従業員に学びなおしの機会を与えることが「リスキリング」です。
一方で、「リカレント教育」は「就労と教育を交互に繰り返しながら、本人が主体的に学び直しを行い、新たなスキルや知識を習得すること」であり、時には離職中に学習することも想定されています。例えば、本人が、自主勉強のために休暇制度を活用し、大学の研修プログラムに参加して、その後に職場に復職するなどの事例もリカレント教育でしょう。「リカレント教育」は、自己啓発やスキルアップを目的としています。
3.リカレント教育と生涯学習との違い
「リカレント教育」と「生涯学習」は、どちらも学び続けることを重視している点では同じですが、目的やアプローチに違いがあります。
「リカレント教育」は、もともと1965年にユネスコの成人教育長だったポール・ラングランが示した「生涯学習」の概念が基本となっているものです。主に、キャリアの向上や再構築を目的とした教育制度であり、職業教育やスキルアップにフォーカスしており、働きながら学び直すことが一般的です。例としては、「会社員がキャリアチェンジのために大学院や専門学校で学ぶ」があります。
一方、「生涯学習」はより広義な意味をもつ点で、目的が異なります。年齢や職業に関係なく、人生を通じて様々な学びを追求する概念であり、自己実現や個人的な興味、趣味の充実、社会活動への参加など、幅広い目的で行われる学習を含みます。職業や仕事に直結する学びだけでなく、趣味や教養、地域活動のための学びも含まれます。例としては、「定年退職後に趣味として新しいスキルを習得する、または地域の講座に参加する。仲間を作る目的や健康維持のため、スポーツクラブなどで体操やヨガを習う」などがあります。
まとめますと、リカレント教育は、得られた知識やスキルを主に「仕事・キャリアで活かすこと」が目的である一方、生涯学習の目的は「充実した人生を送ること」とも言えるでしょう。
4.リカレント教育が必要とされる背景
リカレント教育の重要性がなぜ増しているかについての背景・理由は、以下3点があるでしょう。
1)VUCAという激動時代
VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った略称で、技術革新などにより未来の予測が難しくなる環境を意味します。このような先行きが全く見えない時代が到来すると、今ある知識・スキルがすぐに陳腐化し、使い物にならなくなってしまいます。「ライフステージごとに常に学びなおしをする」ことで、変化に対応する姿勢が問われているのです。
参考記事:「VUCA時代に必要な人材像と組織づくりのポイントとは」
2)人生100年時代で就労期間延長
「人生100年時代」といわれるように、日本人の平均寿命は延伸しています。内閣府による「平均寿命の推移」によれば、2010年時点では男性79.64年、女性86.39年でしたが、2050年には、女性の平均寿命が90年を超える見通しです。
また、高齢者の就業機会という観点で見ると、2013年の高年齢者雇用安定法の法改正では65歳までの雇用機会確保が義務化され、2021年の同法改正においては、70歳までの就業機会を確保することが努力義務となりました。
参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省
上記のように、平均寿命も伸び、かつ就業機会の確保年齢も引きあがるということは、おのずと働く期間も長くなり、長期的に働くことができるよう、知識や技術のアップグレードが求められるようになります。これが、リカレント教育が注目されるに至った大きな背景のひとつと言えるでしょう。
3)終身雇用時代の終焉
日本企業特有の終身雇用制度はある意味、崩壊したと言われています。企業が従業員を定年になるまで雇い続けることが当たり前の時代は終わったと言えるでしょう。一人一人が自らの人生やキャリアに責任を持って、人生を歩んでいく必要があります。このような時代には、主体的に学び続け、教育訓練を受けるなど、時代が求める人材に自らアップデートしていくことが重要になってくるのです。
参考記事:終身雇用制度の現状(メリット・デメリット)から見る人事制度と、これからの在り方について
5.リカレント教育メリット・デメリットとは
リカレント教育、のメリット・デメリットを具体的に解説しましょう。
1)リカレント教育のメリット
リカレント教育のメリットとは何でしょうか?学びなおしの導入により、従業員の視野が拡がり、新しい視点や考え方を持てるようになるメリットが挙げられます。スキルアップすることで自分らしいキャリアを歩むための選択肢が増えるというメリットがありそうです。このメリットがあることに従業員が気づけば、企業にとっては、従業員エンゲージメントが向上することも期待できるのではないでしょうか。
一方、海外と違い、日本のリカレント教育への取り組みは、遅れていると言われています。学びや転職を手段として、自らキャリアを形成する志向が強い海外では、常に「学びなおし」の強い意識が個人に定着しています。自らキャリアアップしていくためには、自分自身を磨いていくしかないからです。例えば、MBAなど経営学修士コースへの参加も若い方だけではなく、高齢になってからの参加も見られるようです。キャリアコンサルティングやコーチングを自らお金を払って受ける方が多いのも海外の特徴です。一方、日本の場合は、終身雇用の文化のもと、一人一人がそこまでキャリアに問題意識を持たなくても、定年まで生涯、会社が面倒を見てくれるという意識を持ちやすい時代が長く続きました。こういった背景もあり、一人一人が自分事化して「学びなおし」を意識する必要性が少なかったのでしょう。
2)リカレント教育のデメリット
リカレント教育のデメリットを挙げるとすれば、企業視点では、追加コストがかかるという点でしょう。大規模な企業であればあるほど、数百人、数千人規模に提供するには、研修コストも時間コストも多くかかります。個人の側から見ても同様で、リカレント教育のための受講費用の個人負担は大きな課題になるでしょう。このような背景から、助成金などの積極利用も有効です。
ここで考えたいのが、上記のコストをどう捉えるか、という点です。負担やデメリットと捉えてしまうのは適切ではないかもしれません。世界比較をすると、日本の人材育成投資の状況は、芳しくありません。例えば、厚生労働省の報告レポートによれば、「我が国の GDP に占める企業の能力開発費の割合は、米国・フランス・ドイツ・イタリア・英国と比較し、突出して低い水準にあり、経年的にも低下していることから、労働者の人的資本が十分に蓄積されず、ひいては労働生産性の向上を阻害する要因となる懸念がある」と結論付けられています。GDPに占める企業の能力開発費の割合(1995年~2014年までの統計)は、多くの先進国で1%~2%で推移しているのに対して、日本は0.1~0.4%と低水準になっており年々低迷しているのです。
6.リカレント教育の導入ポイント
実際にリカレント教育を導入する際のポイントを5点挙げていきましょう。
1)受講できるように就業時間に制度を設ける
「就業時間内に受講してもよい」というルールを設定することにより、従業員が教育受講に取り組みやすくなるでしょう。
2)企業から教材の提供をする
企業側から、研修教材の提供をする、あるいは購入資金の一部を補助することで、リカレント教育への取り組み姿勢が高まるかもしれません。
3)社内に教育支援制度を設ける
社内で金銭的な教育支援制度を設けるのもよい方法です。一律支給あるいは、受講した教育の一部補助などの支援を仕組み化することで、取り組みやすくなるでしょう。
4)学習環境を整える
学習環境を整えるのも大事な取り組みです。例えば、社内の空きスペースに自習室、研修室を準備し、静かで落ち着いた環境を提供すれば、落ち着いて教育を受けることができます。
5)休職、復職がしやすい社内の仕組みを構築する
まとまった期間が必要となる教育(学位取得、留学)の場合、一定期間休職ができ、その後、会社に復職ができる仕組みがあれば、従業員のリカレント教育をより一層推し進めることができそうです。
7.個人・企業向け支援制度の活用
以下のような個人・企業に向けた支援制度を活用することもできます。
一般教育訓練給付金 | 対象講座を修了した場合に、受講費用の20〜70%の支給が受けられる。 |
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キャリアコンサルティング | 今後のキャリアなどについて、キャリア形成サポートセンターでキャリアコンサルタントに無料で相談できる。 |
人材開発支援助成金 | 事業主が従業員に対して実施した訓練の経費や教育訓練制度の導入経費等の助成が受けられる。 |
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生産性向上支援訓練 | 専門的な知見とノウハウを有する民間機関等に委託して、企業の課題に合わせて実施する訓練を低コストで受けられる。 |
リカレント教育の促進を検討している企業は、上記のような制度を確認してみると良いでしょう。教育訓練費用の負担を軽減できる可能性があります。
8.リカレント教育の具体例
それでは、リカレント教育の具体例はどういった分野があるのでしょうか?さまざまなものがありますが、今回は主な3つの例を紹介していきます。
1)デジタルリテラシー
デジタル技術を活用して、ビジネスモデルをよりよい内容に変革することが求められるなか、デジタルリテラシーの習得は非常に大切です。ITツールの基本的な使い方を学ぶことはもちろん、データや情報を、判断し活用していく能力が重視されています。DXやIoTなどの新しいテクノロジーを正しく活用し、必要な情報を見極め、思考し、新しい価値を生み出す力、イノベーションを起こす力を身につけます。
2)ビジネス基礎力
ロジカルシンキングの基礎、企画書の作り方、ビジネスライティングなど、ビジネスの現場での基盤となるスキルを身につけます。今までのビジネス専門性をより磨くという選択肢もあります。例えば、「社労士」「キャリアコンサルタント」「中小企業診断士」などの資格取得です。社会人生活で培った知識を体系的に整理し、専門家として生かしたい場合は、有効な選択肢と言えるでしょう。
3)語学力
これからの時代は、ますますグローバル化が進んでいきます。英語だけでなく、中国語や他の言語なども学びなおし、強化するという選択肢が上げられるでしょう。語学学校の講座を受講し、一から語学の学びなおしをするのも良いでしょう。
9.リカレント教育の導入事例
リカレント教育の導入事例を3つ紹介していきましょう。
1)株式会社メルカリの事例
株式会社メルカリでは、「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル "YOUR CHOICE"」として、リモート/出社の有無、働く場所などパフォーマンス・バリュー発揮がもっとも高まるワークスタイルを社員が自由に選択できる制度を導入されているようです。また、博士課程への進学を希望する社員を対象に、学費や研究時間の確保を支援する「mercari R4D PhD Support Program」を導入されています。
【参考】厚生労働省「イノベーション創出のためのリカレント教育 事例集」
2)三菱地所株式会社の事例
三菱地所株式会社では、ビジネスモデル革新やイノベーション創出を目的として「10%ルール」を実施しています。業務時間の 10%を通常業務以外の活動に充てることを必須としているようです。オープンイノベーションの促進と個人の主体的なキャリア選択の可能性拡充を目的として、副業解禁等の新たな人事制度を整備されているとのことです。
【参考】厚生労働省「イノベーション創出のためのリカレント教育 事例集」
3)富士通株式会社の事例
社員のキャリア自律を支援するため、幹部ポストに対する社内ポスティング制度、上司との 月1回の定期的な1on1ミーティング、社内の学びのプラットフォームの整備、Udemyの活用、キャリアオーナーシッププログラム等を実施されているようです。会社が社員に学びを強制することは無く、かつ階層別の一律の研修は存在せず、各社員は自身のキャリアに向けて学びたい内容を自由に学ぶことができる仕組みを取り入れています。
【参考】厚生労働省「イノベーション創出のためのリカレント教育 事例集」
10.まとめ
リカレント教育とは、「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていく社会人の学び」を意味します。従業員が学び直し、その成果を発揮し、長く活躍し続けるためには、企業側が率先して学び直しに活用できる休職・復職といった制度の整備を推進することもポイントの一つです。こうした取り組みにより、リカレント教育の成果を社内に還元する流れができるかもしれません。同時に、従業員個人の成長に寄与し、それが企業の成長にも繋がるでしょう。
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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