レジリエンスとは?意味や高める方法、組織に与える効果を解説

様々な変化にさらされる現代社会のビジネスシーンにおいて、昨今注目されている考え方が「レジリエンス」です。レジリエンスは変化に対応し困難な状況を跳ね返す適応力のことです。変化が激しい環境では、逆境や困難に押しつぶされることなく、外的環境に順応していく能力、失敗を成長の機会として受けとめて飛躍する力が重要となります。

困難な状況を跳ね返す適応力の有無が生じる要因の1つが、「レジリエンス」とされています。レジリエンスは教育や経験を通じて後天的に強化することができることから、レジリエンスに着目した人材育成は非常に重要です。

本記事では、レジリエンスの基礎知識や注目される理由、レジリエンスが高い人材に見られる特徴、レジリエンスの向上が組織にもたらす効果、トレーニング方法を詳しく解説します。変化に柔軟に対応できる組織を目指して、ぜひ施策をご検討ください。

2022.09.28
コラム

レジリエンスの基礎知識

レジリエンスは、人材育成の観点だけでなく、企業価値を上げる考え方として注目度が増しています。こちらではレジリエンスの基礎知識について説明します。

レジリエンス(resilience)とは?

レジリエンスは心理学や物理学の用語で「精神的回復力」や「弾性(しなやかさ)」「復元力」と定義されます。ビジネスシーンでは従業員が困難な状況やストレスを跳ね返し、立ち直る力を意味する言葉として使われます。

レジリエンスが高いほど、変化が起きた際に一喜一憂せずに物事への対処が可能です。レジリエンスが向上すれば、組織で仕事を行う際にも関わるメンバーの気持ちや背景をくみ取り、変化していく状況の際にも適切な判断を行うことができます。

レジリエンスに近い言葉との意味の違い

レジリエンスに近い言葉として、メンタルヘルス・ストレス耐性・ハーディネスがあります。それぞれの概要を確認してみましょう。

  • メンタルヘルス
    メンタルヘルスは精神医学の分野で使用される言葉で、「心の健康」や「精神的健康」を意味します。そこから、医療機関、産業医などが逆境やストレスを抱えた当人に関与し、心の健康状態を保つためのケアやサポートを行うことを指すようになりました。
    レジリエンスの定義にはメンタル面のケアやサポートは含まれないことが一般的です。個人や組織が自身で困難に「どう適応して対応するか」を意味する言葉です。
  • ストレス耐性
    ストレス耐性は「個人が受けた外からの力による歪みにどれだけ耐えられるか」という抵抗力を指します。ストレス耐性は器の大きさのようなもので、耐性が高い人はより強いストレスを受容することが可能です。
    一方、レジリエンスはストレスを受けた後、自ら回復していく復元力のことを指します。その点においてストレス耐性はレジリエンスの構成要素の一つといえます。
  • ハーディネス
    ハーディネスは「頑健性」とも称され、ストレスに傷つかない力を指します。ハーディネスが高い人は、高ストレス下においても健康を保つことができるとされています。レジリエンスは、ストレスのかかる困難な状況から立ち直るためのさまざまな力を指しています。

レジリエンスが高い人材に見られる特徴

レジリエンスが高い人材には、どのような特徴が見られるのでしょうか。その特徴を理解することで、社員の特性を見抜き、より効果的に人材を育成することが可能です。

目の前の状況を客観的に捉えられる

レジリエンスの高い人材は、客観的な視点から適切な対処方法を導くことができます。また、感情のセルフコントロールに長け、目の前の出来事や状況に一喜一憂せずに対応できます。さらに、感情に振り回されずに物事の本質と向き合える特徴があります。

自尊感情が養われている

レジリエンスの高い人材ほど、自己肯定感が高い傾向にあります。困難な問題や逆境に直面しても諦めずに「自分ならできるはず」と考え、努力し目標を達成します。この成功体験が、更に自分自身に自信をもたらすという好循環につながります。

柔軟性がある

レジリエンスの高い人はしなやかな考え方ができ、柔軟な対応能力を持ち併せています。結果が悪かったとしても、それに対して臨機応変に発想や行動を変化させることができます。その為、自分とは異なる意見を尊重したり、物事に優先順位を付けたりすることも得意です。一方、レジリエンスの低い人は状況の変化にストレスを感じてしまい、精神的に疲弊しやすいという傾向があります。

物事をポジティブに解釈できる

レジリエンスが高い人材は、楽観的な尺度で物事を考える資質を持っています。変化が起きても気持ちに余裕があります。この余裕が困難を切り開く柔軟な思考をもたらしています。一方、レジリエンスが低い人材は困難が発生した時に物事をネガティブに捉えやすい傾向があります。

周囲との協力関係を築く能力が高い

レジリエンスが高い人材は、周囲との協力関係を築く能力にも優れています。これまで挙げた自己肯定感の高さや物事をポジティブに捉えることができる姿勢から、人との関係性も良好に構築することができます。そのため、難易度の高い課題にぶつかったとしても、周囲を巻き込み成果を上げることができます。

ライフスタイルのバランスが取れている

レジリエンスが高い状態でいるためには、心身の健康が保たれていることが大切です。そういったことから、自分がより良い状態でいられる環境づくりや働き方ができている人ほど、レジリエンスが高い傾向にあります。

レジリエンスが注目される理由

ここまではレジリエンスの概要について解説しましたが、ここからはレジリエンスがなぜ注目されているのかの理由を説明します。

メンタルヘルスに関する問題が顕在化している

経済の発展や産業構造の変化によって、企業における労働者のメンタルヘルス問題が表面化するようになりました。厚生労働省の調査によると、「現在の仕事や職業生活に強い不安やストレスを感じている」とする労働者は、全体の53.3%にのぼります。不安やストレスの内容は「仕事の量」が43.2%、「仕事の失敗、責任の発生等」が33.7%、「仕事の質」が33.6%となっており、これらの不安やストレスを要因とし、問題が発生するリスクがあります。

このように多くの労働者がストレスを抱える中で、メンタルヘルスに配慮した職場づくりが重要になりました。組織全体のレジリエンスを向上させることは、その一環といえます。

【出典】「令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」(厚生労働省)

VUCA時代の到来

VUCA時代とは、社会の大きな変動でこれまでの常識が覆され、将来の見通しがつかない状況が続く時代のことを指します。VUCA(ブーカ)は「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語)です。

新型コロナウイルス感染症の拡大や世界規模のIT技術の急速な進歩などで、これまでの社会の常識は大きく覆りました。このようなVUCA時代を企業が勝ち抜くためには、社員一人一人、そして企業全体のレジリエンスの向上が求められるようになったのです。

レジリエンスの高い人材は、従来の価値観や成功体験にとらわれない柔軟な発想力や逆境を乗り越える力を持っています。そのような力が求められることから、ビジネスパーソンにとってもレジリエンスの重要性が増してきています。

労働力不足の深刻化

少子高齢化の日本においては、労働力不足が深刻化したことも理由として挙げられます。人手不足であることから、社員に長く、より高いパフォーマンスで働いてもらうことがより重要になりました。このような理由から、長期間働くにあたり必要な変化対応力をつけるために、レジリエンス向上の取り組みが求められるようになりました。

ダイバーシティ・マネジメントへの対応

社会情勢の変化によりキャリアが多様化していることも、レジリエンスが注目されている理由です。先ほど挙げたVUCA時代の到来は、働き方の価値観においても多様化をもたらしました。定年延長などで働く期間も長くなる中、人生の中で働くことを取り巻く環境が変化しうる時代になっています。

年齢、国籍、性別、宗教などを超えた雇用均等を図る「ダイバーシティ」の概念も企業に求められるシーンが増えているため、個人・企業ともに変化に柔軟に対応する力を高めていく必要があります。

レジリエンスの向上が組織にもたらす効果

レジリエンスを高めるメリットは、個人だけではなく組織に対しても大いにあります。組織において、レジリエンスを向上させることの効果を説明します。

社員のパフォーマンス向上

社員のレジリエンスを高めることで、社員一人ひとりが一定のストレスや逆境をポジティブに捉えやすくなり、意欲的に仕事に取り組むようになります。社員のパフォーマンスの向上は組織全体の売上や利益のアップにもつながることから、経営者や管理職にとって社員のレジリエンスの状態を把握し高めることは重要といえるでしょう。

職場の人間関係の良化

社員のレジリエンスが高いと、職場環境も良好になります。これは、社員それぞれが感情をセルフコントロールし、他者に対して肯定的な考えを持てるようになるためです。結果として、メンバー間でのコミュニケーションが活発になり、従来の発想にとらわれない新しいアイデアが生まれやすくなります。

休職者や離職者の減少

レジリエンスの向上によって、休職者や離職者を減らすことも可能です。前述した人間関係の改善や社員のストレス耐性が高まることで、社員が良好な環境で働くことができるようになります。結果として、優秀な人材の流出防止や人手不足の解消につながり、企業の継続的な成長が見込めるようになります。

企業価値の向上

組織が変化へ適応する力は「組織レジリエンス」とも呼ばれ、投資家が企業を評価する指標のひとつとされています。組織レジリエンスが高い企業は投資家などといったステークホルダーから高く評価され、企業活動をより円滑に行うことが可能になります。

市場の変化への対応

レジリエンスが高い人材が多い組織は、市場の変化にも素早く対応することができます。変化の激しい現代においては、市場におけるチャンスとリスクも常に変わります。レジリエンスが高い人材が多いほどそういった変化に柔軟に対応し、次の施策を素早く打つことが可能になります。

組織のリーダーの育成

変化が激しい世界においては、リーダーに求められる能力の一つとして、「しなやかな対応力」すなわちレジリエンスの高さに変わってきています。市場の変化を捉え、その変化にチームとして対応できるリーダーの育成を目指せるでしょう。

組織のレジリエンスを高める方法

レジリエンスは、教育によって後天的に高めることが可能です。そこで、組織のレジリエンスを高める5つの具体的な方法を紹介します。

職場の心理的安全性を高める

心理的安全性とは、組織において自分の考えや意見を安心して述べられる状況のことを指します。例えば、心理的安全性が高い職場では風通しがよく会議外でも活発に意見交換がされ、新しいアイディアが生まれやすい傾向があります。あわせてミス発生などのネガティブな情報も速やかに共有されやすくなります。

心理的安全性を高めるには、部下が発言しやすい環境を上司が作っていく必要もあります。必要があります。例えば、上司と部下が1対1で対話する「1on1ミーティング」の機会を作り、社員が自由に発言しやすい仕組みを作ることや、可能な会議ではメンバー全員の発言機会を作り、フィードバックをするといった取り組みが効果的でしょう。心理的安全性が高い企業の特徴や向上させるポイントについては、別記事で詳しく説明しています。

仕事における社員の裁量範囲を増やす

個々の社員のレジリエンスを高めるには、仕事における裁量を少しずつ増やすことも重要です。そうすることでそれぞれが小さな成功体験を積み重ねることができ、レジリエンスの向上に重要なで自尊感情や自己肯定感を高めることができます。
裁量範囲を増やせば失敗することもあるでしょうが、その際には頭ごなしに否定するのではなくフォローを入れるようにしましょう。自力で問題を解決することで、レジリエンスを徐々に高めていくことができます。

経営層と管理職、部下の対話の機会を用意する

レジリエンスを高めるためには、役職関係なく従業員同士の対話の機会を作っていくことも重要です。例えば、「人材戦略を通して企業価値がいかに創造されているか」という内容など、一人ひとりが企業内においての存在価値を考えられるような場であるとより効果的です。

ABCDE理論を活用する

ABCDE理論とは、臨床心理の権威であるアメリカのアルバート・エリスが提唱したカウンセリング理論のことです。この理論を活用することで、レジリエンスが高い人材に育成するための考え方の基礎を学ぶことができます。
同じ困難でも、人によってその受け止め方や反応は異なります。ABCDE理論では、その客観的な事実から影響までを以下の5段階に分類することで物事を見える化します。それにより、事実を客観的・多面的に捉えることが可能になります。
ABCDE理論を使って、部下が仕事に遅刻してきたときの考え方を実践してみましょう。

A=Activating Event(客観的な出来事)
 部下が仕事に遅刻してきた

B=Belief(受け止め方)
 仕事に遅刻するとはだらしないやつだ

C=Consequence(結果)
 注意してみよう

D=Dispute(反論)
 本当にだらしないことが理由で遅刻しているのだろうか

E=Effect(効果や影響)
 何か遅刻する理由があったかもしれない、まずは遅刻した理由を聞いてみよう

この理論で重要なのは、Bの受け止め方で思いつく限りの多様な受け止め方を考えることです。このステップを踏むことで物事をより多面的に考えることができ、柔軟な思考へと繋げることができます。

レジリエンス研修を実施する

レジリエンスに関する研修を実施することも、選択肢の一つです。レジリエンスは注目度が高まっているとはいえ、組織の中には存在を知らない方も多いでしょう。トレーニングを行うことで、組織内の人材の自己肯定感を高め、より良い組織作りを行うことが可能です。研修の具体的な内容としては、ABCDE理論の実践による感情のセルフコントロールや、成功体験の振り返りによる強みの自己認識・自尊感情の向上などが挙げられます。

社員のレジリエンス向上を推進していきましょう

今回は、レジリエンスの重要性とその高め方について説明しました。レジリエンスは困難から立ち直る力を指す総合的な概念であり、高めることでより変化に対応し得る人材、組織作りを行うことに繋がります。
レジリエンスを高めるポイントとしては、ABCDE理論のような客観的で多様的な物事の捉え方を育むことや、成功体験の積み重ねや振り返りで自尊感情を高めることが挙げられます。
レジリエンスを高める施策を推進し、時代の変化に適応し、価値を発揮し続ける組織作りを行いましょう。

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この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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