キャリアパス制度とは?導入目的、企業へのメリットデメリットを解説
終身雇用や年功序列の崩壊など、従来の就労環境が崩れつつあります。こうした時代に優秀な人材を確保し、企業が発展し続けるには、従業員のキャリア形成の手助けを行い、貢献に見合う適切な評価ができるようにすることが大切です。そこで今回は、企業の人事担当者の方に向けて、キャリアパス制度の概要やメリット・デメリット、キャリア支援に役立てるためのポイントを解説します。
キャリアパス制度とは?
働き方が変化するなかで、長く活躍する優秀な人材を確保するには、キャリアパスが明確であることが重要です。ここでは、キャリアパスという言葉の定義やキャリアパス制度が注目されている背景、キャリア形成に関連する用語との違いを解説します。
企業の人材育成制度において示される異動や昇進の道筋
キャリアパスとは、「キャリアの道」という意味の「Career path」が由来の言葉です。働く人が企業内で、異動や役職への昇進をしながら歩むキャリアの道筋のことを指します。企業が従業員に対して、異動や職務に就くために必要なスキルや経験の基準および条件を明示する仕組みをキャリアパス制度と呼びます。
キャリアパス制度を導入する目的
- 企業内におけるキャリアの将来像を描きやすくするため
現代では、終身雇用や年功序列の制度が当たり前ではなくなっており、転職によるキャリアチェンジも選択肢の1つになっているのが現状です。キャリアのあり方が多様化し、1つの企業内における個人のキャリアの将来像が描きにくくなっています。そのため、離職者を減らし定着率を向上させるために、キャリアパス制度を導入して企業内におけるキャリアの見通しを明確にし、個人が活躍をイメージしやすい環境を整備する必要性が高まっています。 - 従業員のパフォーマンスを向上させるため
キャリアパス制度では、従業員の異動や昇進に必要なスキルや経験を明確にします。次に身につけるべきスキルや、経験を従業員から見て分かりやすくすることがポイントです。従業員が自らの未来を描けると、未来に向けた見通しが持てるため、パフォーマンスの改善やモチベーション向上が見込めます。
キャリアプランやキャリアデザインとの違い
「キャリアパス」「キャリアプラン」「キャリアデザイン」という3つの言葉は、企業側から提示するのか、自分で考えるのかという点に違いがあります。
キャリアパスは企業が提示するものであるのに対して、キャリアアプランやキャリアデザインは働く人が自分自身で考えるものを指します。
キャリアプランとは、従業員自身がキャリアの計画を立てることです。職場内におけるゴールだけでなく、転職や独立も含めて、仕事に関する複数の選択肢を視野に入れます。
一方で、働く人が自らのありたい姿を実現するために、キャリアの設計をすることをキャリアデザインと呼びます。こちらはプライベートなど人生全般が設計の対象になるのが特徴です。
キャリアパス制度を導入するメリットとデメリット
次は、キャリアパス制度の活用によるメリットや注意点をご紹介します。キャリアパス制度に関する取り組みを進める際は、メリットを活かしつつデメリット(注意点)をカバーできるよう工夫できると理想的です。
キャリアパス制度を導入するメリット
- 従業員のモチベーションが高まる
キャリアパス制度によって、昇進や希望部署への異動に必要なスキルや経験が明確になるため、従業員が日々の業務と自分のキャリアとの関連性を実感しやすくなります。これにより従業員が自分の可能性を見出せたり、成長を実感しやすくなることによりモチベーションアップや主体的な行動が期待できます。 - 効率的な人材育成が実現しやすくなる
企業は従業員の適性にあうキャリアパスを提示する必要があります。従業員の目標や持っているスキル、経験を把握し、それらを活かせるポジションに人員配置を行いやすくなります。それによって、生産性の向上が期待できます。
また、企業と個人、双方が考えるキャリアパスという観点で、入社後のミスマッチを防止できる点もメリットです。入社直後から将来の見通しを持って働いてもらいやすくなるため、新入社員の早期戦力化や離職率の低下につながります。企業と個人によるキャリアパスのすり合わせを対外的にも公開して、従業員のキャリアに向き合う姿勢を示すことは、企業イメージの向上につながります。 - 人事評価の透明性や公平性が保たれる
キャリアパス制度を導入することで、異動や昇進の基準や条件を従業員が確認できるようになります。企業側は評価制度や人事制度に対する正当性や妥当性を証明でき、従業員にとっても、目標とする成果や評価が明確になるメリットがあります。
キャリアパス制度を導入するデメリット
- 企業が提示するキャリアパスと従業員の希望がマッチしないおそれがある
キャリアパス制度は従業員のキャリアを保障するものではないため、必要なスキルや条件を達成した場合でも、希望の部署や職位に空きがないなどの理由により昇進・昇給できないケースもあります。モチベーション低下を防止するには、従業員のキャリアパス制度に対する正しい理解を深める必要があります。 - キャリアパス制度が従業員のプレッシャーになるおそれがある
キャリアパス制度を導入した場合でも、すべての従業員が順調に業務に励むことができるとは限りません。計画通りに昇進ができない場合や、スキルアップや資格の習得が困難なケースでは、制度の存在がかえって従業員のプレッシャーになるおそれがあります。例えば上司と部下のキャリア面談などを通して、日常的なフォローをすることにより、適切な支援が可能になるでしょう。
キャリアパス制度を成功させるには?
キャリアパス制度を導入しているものの、現場に浸透しておらず、形骸化している企業事例は少なくありません。そこで最後に、キャリアパス制度を成功させるための対策やコツをご紹介します。
従業員が持つ多様性に対応できるキャリアパスを用意する
従業員が持つ多様性に対応して、企業が提示するキャリアパスも多様化させる必要があります。
多様性には人種や年齢、性別だけではなく、スキルや経験の違い、可能な労働時間や雇用形態などの違いもすべて含まれる点に注意しましょう。
個々の従業員が能力を発揮できる制度を整えることで、新たな人材の確保にも役立ちます。
キャリアパスに沿った研修制度を整える
従業員のキャリアパス制度に則ったキャリア構築をサポートするため、職種や仕事内容、必要なスキルに応じた研修を実施する方法もあります。
従業員がキャリアパス制度に対して、当事者意識を持つことにもつながります。また、スキルの習得を促進でき、生産性の向上も見込めるでしょう。
定期的な面談を行う
従業員の目標を管理するために、上司が定期的なキャリアの面談を行うことも効果的です。従業員が今後のキャリアについて考え、組織とすり合わせていく機会にもつながります。
出産や育児休暇、介護などでキャリアパスを描き直す必要があるケースも少なくありません。企業側は従業員の状況に応じて、提示するキャリアパスの見直しを行いましょう。
キャリアパス制度を整備して人材が成長しながら活躍できる企業にしよう
今回は、キャリアパス制度の役割や考え方、メリット・デメリットなどをお伝えしました。キャリアパス制度は、企業からの一方的な提示では成り立ちません。企業と従業員間での信頼をベースとしながら、企業が求める人材像と従業員の目標が同じ方向を向くことを目指し、すり合わせることが重要です。研修の実施や定期的な面談を通して信頼を深め、キャリアパス制度を活用して、従業員が成長しながら活躍できる企業へと発展させましょう。
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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