2030年問題とは?高齢化と労働力減少が引き起こす問題と対策
日本は、世界の国々のなかでも急速に高齢化が進行している国として有名です。日本では、高齢化とともに少子化も進んでおり、企業にとっては若手人材を確保することが難しい状況が続いています。
そして、人口の高齢化や少子化がより深刻な形で表面化するタイミングを指して、2030年問題と呼びます。本記事では、2030年問題の基礎知識や社会に及ぼす影響、各企業が実施できる対策についてお伝えします。
1.2030年問題とは?
2030年問題とは、2030年に懸念される社会問題を総称する言葉です。いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年問題に続き、2030年には日本の人口の3人に1人が65歳以上になると想定されています。
また、高齢者が増える一方で、少子化による生産年齢人口の減少も推計されています。生産年齢人口とは、15歳から64歳の人口のことです。高齢者を支える現役世代に分類され、労働者としてはもちろん、社会保障費や年金などの主な負担者としての役割があります。
人口減少が加速する日本において、高齢者の割合が増加し生産年齢人口が減少することで、さまざまな問題につながる可能性が指摘されています。例えば、労働力不足による経済成長の鈍化や年金制度への影響、介護・医療の負担増大などです。企業経営にも大きな影響が想定されるため、早い段階で対策を講じる必要があります。
【出典】令和4年版高齢社会白書(内閣府)
2.2030年問題による影響
高齢化率が増加し生産年齢人口が減少すると、社会にはどのような影響があるのでしょうか。こちらでは、2030年問題の到来で予測される影響を具体的に解説します。
1)人手不足による経済成長の鈍化
2030年問題で最初に懸念されるのが、経済成長の鈍化です。少子高齢化の急速な進行によって働き手が減少し、安定した経済活動が難しくなる可能性があります。厚生労働省によると、2030年には7073万人という労働需要に対して、644万人もの不足が予想されているのが現状です。
生産年齢人口の減少は、経済規模や労働市場の縮小を招き、最終的にはGDP(国内総生産)の低下が起こると考えられます。生産年齢人口は稼ぎ手であると同時に消費の担い手でもあり、その数が少なくなれば経済成長の鈍化を避けるのは難しいでしょう。外国人技能実習制度の見直しやシニア人材の再雇用の動きは拡大しているものの、労働需要の不足をどこまで解消できるかは不透明です。
【出典】ハローワークが新たな機能を発進(厚生労働省愛知労働局)
2)医療費や介護サービス需要の急増
2030年問題では、医療費や介護サービス需要の急増も課題のひとつです。財務省の発表を確認すると、75歳以上では1人当たりの医療費や介護費が大きく上昇しており、医療や介護のニーズが高まることが予想されます。
しかし、医療・介護業界の人材は常に不足傾向にあり、生産年齢人口の減少によって医師や看護師、介護士などのさらなる供給不足が懸念されます。需要と供給のバランスを保てなくなると、適切な医療体制や介護サービスが提供できなくなり、高齢者だけでなく若者の老後への不安にもつながりかねません。
【出典】社会保障について①(財務省)
3)社会保険費負担の増大
最後に懸念されるのが、現役世代が負担する社会保険料の増大です。高齢化が進むと社会保障給付費が増加します。今まで通りの税収で賄うことができれば問題ありませんが、不足した場合は社会保険料の引き上げや自己負担額の増額が必要です。特に、2025年から2030年にかけては、医療費や介護費がかかりやすい後期高齢者が増えると予測されており、社会保険料の引き上げが迫っています。
厚生労働省によると、医療給付費は2018年から2040年にかけて約1.7倍に増大する見込みです。また、内閣府は調査結果を踏まえ、「仮に医療費・介護費の伸びを放置すれば、今後も保険料負担の増加は免れ」ないと発表しています。
【出典】「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)-概要-」(厚生労働省)
3.2030年問題の発生に備えて企業ができること
2030年問題によって人材不足が深刻化すると、企業経営にも支障が出る可能性があります。そのため、未来の労働力不足に備えて現在から対策を行うことが重要です。続いては、2030年問題に向けて企業が今できることをご紹介します。
1)多様な働き方の実現による、従業員の中長期的な活躍支援
労働力が減少しつつある状況では、多様な従業員が状況にあわせて活躍し続けられる環境の整備が重要になります。個々がパフォーマンスを上げることを目的として、状況に応じて働きやすい制度の活用を検討するのがおすすめです。例えば、新型コロナウイルスの流行で導入が加速したテレワークやフレックスタイム、時短勤務、パラレルワークなどが挙げられます。
また、出産や育児などをきっかけに働き方の変更、または退職を選択せざるを得ないケースもまだ存在します。出産や育児休暇から復職しても働き続けられる体制や制度があれば、従業員は中長期的な視点で「働くこと」を考えることができるでしょう。具体的には、時短勤務制度やベビーシッター補助の制度を導入し、時短でもフルタイムでも働ける選択肢を整える方法などがあります。
育児と仕事の両立は、女性だけの問題ではありません。男性が育児休暇を取りやすい環境の整備や在宅勤務の導入などに取り組み、男女ともに育児に関われる体制を作ることが大切です。男性育休について、そのほかのメリットや取得率を上げるコツについては、以下の記事をご確認ください。
2)生産性の向上
労働力の不足は、生産性の低下を引き起こします。そのため、人手不足の影響を軽減するには、1人当たりの生産性の向上に取り組むことが大切です。生産性を向上させるには、業務の遂行に十分なスキルを有する人材の配置が求められます。人材配置を考える際には、組織の事業戦略と個々の適正・スキル、キャリアプランをかけあわせて検討し、従業員を資本と捉えて活かすことが重要です。
あわせて、新しいテクノロジーの活用も生産性向上に役立ちます。例えば、難易度の高い作業の省力化ができるAI の活用やRPA(Robotic Process Automation)による反復作業の自動化、IoTの導入などが挙げられます。
3)従業員のスキル習得支援
生産年齢人口が減少するなかで持続的な企業成長を遂げるには、一人ひとりが今よりパフォーマンスを発揮する必要があります。従業員のパフォーマンスを引き上げるための手段として、「リスキリング」も重要な観点でしょう。
リスキリングとは、企業が必要とする新しい知識やスキルを、企業が主導して従業員が学ぶ取り組みを指します。従業員に「なぜリスキリングを行う必要があるのか」について、上司と部下の対話などから従業員に納得してもらうことが重要です。また、従業員が「リスキリングは自らのキャリア形成につながる」と捉えられれば、変化に対応できる人材や、長期的に活躍し続けられる人材を育てることが可能です。以下の記事では、企業がリスキリングを導入するメリットや取り組みの手順を詳しく解説しています。
4.2030年問題の対策に取り組み、持続可能な企業経営に役立てよう
今回は、2030年問題の概要や社会への影響、企業ができる対策方法についてお伝えしました。2030年はあくまで通過点としての目安です。日本の高齢化や生産年齢人口の減少は年々進行しており、予定より早く2030年問題が表面化する可能性もあります。
また、2030年問題は、解決されなければ2040年、2050年と続いていくケースも否定できません。人材不足の影響を最小限に抑え、変化に対応しながらも企業成長を加速させるためにも、早い段階で対策に取り組みましょう。
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この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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