人材育成の方法とは?考え方や具体的な取り組みを解説
企業における重要な人事課題の一つに「人材育成」があります。2024年に突入し、先行きが見えない時代、企業の競争力を左右するのは「人的資源」であることが、共通の認識になりつつあります。人的資本開示の義務化の流れもあり、多くの企業が自社の従業員に対する人材育成への投資状況や取り組みを開示する時代になっています。人的資源の強化、そして企業ブランディング強化のためにも、人材育成は企業にとって重要な経営課題となっています。当記事では改めて、人材育成にはどのような方法があるのか、考え方や具体的な取り組みを紹介していきます。
1.人材育成とは
「人材育成」という言葉に似ているものとして、「人材教育」や「人材開発」があります。
1)人材育成と人材教育の違い
まず、「人材育成」と「人材教育」との違いは何でしょうか?「人材育成」は、「人を育て成長させること」です。 企業が「あるべき人材」を定義し、会社が望む方向へと従業員を成長させることを意味します。「人材育成」はより長期的であり、目的意識が伴った施策になります。一方の「人材教育」は、一般的に「従業員に知識やスキルを教える」こととされています。 人材育成に比べると、より短期的で単発的な施策と捉えることができます。
2)人材育成と人材開発の違い
次に、「人材育成」と「人材開発」の違いは何でしょうか?「人材育成」も「人材開発」も、企業が採用した従業員の能力を最大限引き出すことを目的としている点ではほぼ同義です。 しかし、「人材開発」は「人材育成」よりも、全従業員を対象とした能力開発を指す傾向にあり、組織全体の力を高めていくことに重点が置かれる取り組みとされています。
2.人材育成の課題
人材育成には課題がつきものです。代表的な課題について2点挙げてみましょう。
1)人材育成を行う時間がない
まず挙げられる課題としては、人材育成を行う時間がないというものです。これは、人材育成を行う企業側と人材育成を受ける従業員側の双方に言えることでしょう。人材育成を行う側(主に人事部門)からすると、採用業務や給与計算、人事制度構築など、さまざまな人事業務を並行している場合、やむを得ず、人材育成への取り組みの優先度が落ちることがあります。
また、人材育成を受ける側、つまり従業員側としては、人手不足の中で日常の業務に忙殺されていることが多く、人材育成のための研修を積極的に受講しにくいという実情もあるでしょう。お互いに時間の余裕がないまま、研修などの人材育成施策を行ったとしても、とりあえずこなすだけのイベントになってしまい、育成効果が見込めないことがあるため、注意が必要です。
2)育成する側の自覚・スキル・仕組みがない
育成する側の自覚・スキル・仕組みがないという課題もあるでしょう。上記のように「時間」がないことに加え、そもそも必要性を感じていない、スキルや仕組みがないという問題もありそうです。日本企業では、どちらかと言うと現場で働きながら学ぶOJT(On the job training)方式に頼りがちで、体系的な育成の仕組みが構築されていない会社も多いとされています。
厚生労働省による「令和4年度版能力開発基本調査」の「計画的なOJTの実施状況」(16ページ)によれば、正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所割合は、ここ数年間6割程度で推移しており、決して増えてはおりません。正社員以外に対して計画的なOJTを実施した事業所割合は、ここ数年3割弱で推移しており、下降傾向です。
<参考 : 令和4年度版能力開発基本調査>
3.人材育成の必要性
上記のような課題があるものの、現在人材育成の必要性が高まっていることに違いはありません。人材育成の効果は定量的に示しづらく、目にも見えづらいものなので、経営課題の優先度としては下になりがちです。どういった観点で、人材育成が必要となるのでしょうか。3点挙げてみましょう。
1)体系的に学ぶ仕組みが効果的かつである点
さまざまな法律改正、コンプライアンス、最先端の技術など、学ぶべきことが尽きない時代において、一人一人が個人で学ぶとなると非効率であり、非効果的です。人事部門などが主導して、今必要とされる知識・スキルを洗い出したうえで、定期的かつ体系的に従業員へ育成の機会を与えていくことは、非常に重要な意味を持ちます。例えばEラーニングなどで、研修内容をリモートでも視聴できる仕組みを導入するなどして、最低限必須の知識・スキルを人事部門が中央集権的にとりまとめ、機会を付与していく施策は、現在の健全な事業運営のためにも欠かせないでしょう。
2)従業員のエンゲージメントが高まる点
次の観点としては、人材育成の機会を与えられた従業員のエンゲージメントです。多くのケースで従業員のエンゲージメントは、人材育成施策を導入すると高まるとされています。従業員が新しい知識を得ると成長実感を持てるほか、育成機会を就業時間内に提供してくれた自社への愛着心も高まるでしょう。また、一緒に学ぶ会社の仲間や社内の人脈ネットワークができるという意味でも、会社へのエンゲージメントが高まる可能性があります。
3)企業としてのブランディングが高まる点
昨今では人的資本開示の義務化の影響もあり、企業が社会的な存在として健全に事業活動をしていることを公開することが、企業ブランディングに非常に大きな効果を生みます。例えば、全く人材育成にリソースを投じていない企業と、積極的にリソースを投じ、体系的な育成体系と従業員の能力・モチベーションを高める仕組みがある企業とでは、投資家はどちらに投資したいでしょうか?おそらく後者でしょう。また、企業への応募者の立場からすると、どちらの企業で働きたいでしょうか?こちらも、後者になるかと思います。育成施策に含めて、企業情報が透明性を持って出回る時代です。人材育成への取り組みの見える化は、企業の採用ブランディングにとっても非常に重要になってくるものです。
4.人材育成の考え方
では、どのように人材育成を考えていけばいいのでしょうか?大事な観点を挙げていきましょう。
1)人材育成は長期的な視点で考える
まず、人材育成は短期的な視点ではなく、長期的な視点で考えることが非常に重要です。長期的にどうなりたい、どうあるべきだという会社としての方針・目標を立て、それに向けて従業員の人材育成を考えていくのが施策としてぶれないコツでしょう。短期的視野に立ってしまうと、企業側も従業員側も何のために人材育成を行っているかを説明できず、迷子になってしまう可能性があります。
2)人材育成像は会社が育てたい人物像から考える
上記の長期的な視野という意味では、企業の「育てたい人物像」「あるべき人材像」から考える必要もあります。それは、企業としてどういった人物像に育てたいかというポリシー、フィロソフィー的なものでもよいですし、各階層別にどのようなスキルセット・能力を有した人物が必要かというスキル定義のようなものでもよいでしょう。いずれにせよ、「あるべき姿」がなければ、人材育成方針も目的のない曖昧なものになってしまいます。
「あるべき人物像」の定義は簡単ではありません。経営陣も巻き込んで、自社のビジネス展望とも合わせ、議論を重ねる必要もあるでしょう。この「あるべき人物像」が人材育成を考えるうえで、重要な取り組みとなるのです。
3)人材育成の方法は「階層別」に分けて考える
また、人材育成を「階層別」に分けて考えていくことも必要です。例えば、新入社員、中堅社員、課長層、部長層といった具合です。それぞれの階層で求められる人物像、スキルセットは何か?これを定義したうえで、各々の人材育成方法を考えていく必要があるでしょう。階層別以外でも、職種別、課題別などの区分を設けるのもおすすめです。
5.人材育成施策の計画方法
人材育成施策はどのような段階を経て、計画・実行されていくのでしょうか?順を追ってみていきましょう。
1)自社の課題を発見する
まずは、自社の課題を発見するところが出発点になるでしょう。人材育成自体は手段であり、最終的な目的でないことは明らかです。会社として人材育成は、自社ビジネスを発展・成長させることが目的であるはずですので、あくまで自社ビジネスの課題を出発点としたうえで、それを人材育成施策の側面からどのように支援、貢献していくかを考えることが必要になります。
2)自社の戦略や目指す方向性を確認する
上述のように課題を定義したうえで、その課題に対して、自社ビジネスの戦略や目指すべき方向性を確認する必要があるでしょう。人事部門だけではなく、経営陣や関連部署も巻き込んで検討すべきと言えます。
3)課題に合致する解決方法を検討する
自社のビジネス課題や戦略に対して、最も有効な人材育成施策を検討することになります。例えば、現場で対応する人材のスキル不足であれば、集中的にそのスキル研修の実施が課題になるでしょうし、上司のマネジメント力不足で従業員の離職者が多い場合、マネジメントを行う課長層・部長層の管理職研修の強化が課題となるかもしれません。育成施策の計画方法は、どの企業でも同じということはありません。会社ごとに自社の課題に沿った計画が必要です。
6.人材育成の目標設定
次に人材育成の目標設定について3つのプロセスを考えていきます。
1)定量的な目標を設定する
例えば、人材育成にあいまいな目標を設定すると、人材育成施策を終えた後に効果があったかどうかの検証ができないばかりか、次に向けた改善案も浮かびにくいでしょう。しっかりと定量的な目標を設定することが大切です。
例えば、一番の基本となるのは研修受講時の受講者評価でしょう。研修受講後に役に立ったか、学びはあったか、今後に活かせそうかなどで受講者の満足度を定量化して、一定水準を目標とするものです。また、研修の評価でなくても、研修受講後の受講者の離職率、昇進率を定点観測で比較してみるなどの定量的な目標も考えられます。必須教育であれば、受講修了率100%を定量目標にするのもよいでしょう。上記のように、人材育成についても、しっかり定量的に評価することが大切になってきます。
2)期限を設定する
人材育成の目標期限を設定することも大事な観点です。いつまでに、どの研修を完了させるなど、具体的な期限を設けなければ、忙しい毎日にあって、研修の実施が後回しになってしまうリスクもあるでしょう。
技術進歩が早い時代では、あっという間に育成目標だったスキルが陳腐化し、時代遅れになってしまうこともあります。できる限り早く必要とする人材育成施策を開始し、従業員に浸透させる必要がありそうです。そのためには、目標とする期限が必要です。期限を設定し、その期限までにやりきる対応が必要になるでしょう。
3)会社やチームの目標を意識する
最後に、会社やチームの目標を意識することが大切です。一人一人の人材育成目標も大切ですが、会社やチームの方針にベクトルが合っていなければなりません。独りよがりの育成施策を企画・実行しても、会社全体が目指す方向性に合致していなければ、その育成効果が薄くなってしまうでしょう。
7.人材育成の基本的なフレームワーク
次に、人材育成の基本的なフレームワークも確認していきましょう。
1)ギャップ分析
「ギャップ分析」とは、あるべき理想と現状のギャップ・課題を洗い出して、「あるべき理想」に到達するための解決策を洗い出すためのフレームワークです。特に「スキル・ギャップ分析」は、従業員が現在持っているスキル・知識などを、理想的なスキルや成功のために必要なスキルと比較する方法です。スキルセットのギャップを特定することで、企業はそのギャップを埋めるために必要とされる施策・育成方法を洗い出し、実行することで、従業員のパフォーマンスを向上させられると言われています。
2)コルブの経験学習モデル
コルブの経験学習モデルは、「経験から人はどうやって学ぶのか」を①具体的経験→②省察的観察→③抽象的概念化→④能動的実験→①具体的経験という4つのプロセスでサイクル化し、繰り返すことによって、学びを獲得していくモデルです。アメリカの教育理論家であり、組織行動学者のデイビッド・A・コルブ氏が提唱した理論です。資料や書籍、実際に経験したことを元に、具体的な振り返りを実施し、なぜ失敗したのか、あるいは成功したのかを分析し、次に活かすことを目指します。
3)7:2:1モデル(ロミンガーの法則)
米国のリーダーシップ研究機関であるロミンガー社が、さまざまな経営者を対象に、何がリーダーとしての成長に役に立ったのかを調査したところ、「経験」が70%、他者からの「薫陶」が20%、そして「研修」は10%であったそうです。つまり、人は7割を「仕事上の経験」から、2割を「上司や先輩からの助言やフィードバック」から、残りの1割を「研修などのトレーニング」から学ぶとされています。これを見ると、研修などのトレーニングの効果だけでは、育成の目標が達成できない可能があり、具体的な「経験」をどのように付与するのかまで考えた、いわゆる人材育成の総合施策を考えることが重要だとわかります。
<参考 : JMA 日本能率協会>
8.スキルマップの作成
次に人材育成については欠かせないスキルマップの作成について紹介します。
1)スキルマップとは
「スキルマップ」とは、従業員各人の現在の業務内容に関するスキルレベルを表したものです。 従業員の能力・技能を評価することで、やる気を引き出すとともに、不足する能力・技能について教育計画を立てて、能力向上を図るツールとして活用します。企業によっては、能力マップ、力量表、力量管理表などと呼ばれることもあります。 海外の企業では、スキルマトリックス(Skills Matrix)と呼ばれることもあります。
2)スキルマップ作成手順
スキルマップ作成手順としては、次の8ステップを意識するとよいでしょう。
①スキルマップを作成する目的・意図を明確にする
②マップのフォーマットやサンプルを決める
③業務内容に沿って必要なスキルを洗い出す(関連部門へのヒアリング等)
④業務スキルの難易度別に階層で分ける
⑤スキル項目を絞り込み、決める
⑥スキルの評価基準と評価段階を決める
⑦試験的な運用とフィードバックで修正する
⑧スキルマップを作る・検証する
上記のステップを意識しながら、タイムリーにアップデートしていく必要があります。
厚生労働省が提供している「職業能力評価基準」もスキルマップに近い概念ですので、参考に活用してみるとよいでしょう。
<参考 : 厚生労働省 職業能力評価基準>
9.人材育成で主に用いられている手法8選
人材育成で主に用いられる手法についても確認していきましょう。
1)OJT
OJTは「On The Job Training」の略です。 先輩にあたる従業員が後輩に対し、業務に必要な知識やスキルを実践しながら伝承するというやり方です。継続的に実施すると人材が効率的に成長し、人が人を育てる風土が会社に定着する効果も期待できるのがOJTと言われています。一方でどちらかというと、日本企業にはOJTの機会は多いものの、Off-JTの機会が少ないという課題もあります。
2)Off-JT
Off-JTとは「Off-the-Job Training」の略称であり、日常の仕事を通じて教育を行うOJTに対し、職場や通常の業務から離れ、特別に時間や場所を取って行う教育・学習、研修を指します。
3)自己啓発(SD)
勉強や訓練、メンターからの指導によって、能力開発をするほか、精神的な成長・向上を目標とすることを指します。 具体的には、自己啓発本を読むことや、業務外の時間における自主的なセミナーへの参加、メンターからの指導を受けるコーチングなどが、これにあたります。
4)メンター制度
一般的に、所属する上司とは別に、年齢の近い年上の先輩従業員が新入社員や若手社員をサポートする制度です。新入社員からすると、相談しやすい先輩からサポートを受けられるのは大きなメリットと言えます。
5)ジョブローテーション制度
ジョブローテーション制度とは、定期的に職場を異動したり、職務を変更したりする制度のことです。ジョブローテーションにはさまざまな目的がありますが、人材育成も目的の一つとされています。企業には多様な部署や業務があり、そこではさまざまな能力を持った社員が就業しています。これらの多様な人や仕事に接することで、成長を促していこうとする仕組みです。ジョブローテーションは、短いケースでは半年、長くて数年といったスパンで部署や職務を変更していくことがあります。
6)MBO(目標管理制度)
MBOとは、「Mangement By Objective」の略で、会社の方針と従業員自身が目指したい方向性を擦り合わせながら、一人ひとりに「目標」を設定し、成果達成までの道のりを管理するマネジメントの概念です。上司と従業員が共同で目標到達までの進捗を管理することが、成果やモチベーションの向上につながります。
7)コーチング
コーチとは、主にコミュニケーションを通じてクライアントの目標達成を支援し、クライアントの望む未来へ導くためのものです。コーチは相手の意思を「問いかけて聞く」コミュニケーションを中心に行うことで、信頼関係を築きつつ、自己開示を後押しします。そして、コーチは自己開示を通して気付いた相手(クライアント)が心から望む結果を得られるよう、自発的な行動を促していきます。
8)1on1ミーティング
上司と部下がマンツーマンで話し合う機会のことを指します。従来のキャリア面談などは、半年から1年に1回程度の間隔で行われることが多いものですが、1on1ミーティングは月1回や週1回といった短いサイクルで定期的に行います。
10.人材育成における階層別のポイント
次に人材育成における階層別教育のポイントについて紹介していきます。
1)新入社員
新入社員教育の課題・ポイントとしては、育成担当者の指導力・意識の向上が挙げられます。もちろん教育プログラム自体も重要ですが、新入社員を指導する育成担当者の指導力が、新入社員の育成に大きな影響を与えるのです。育成担当者は、4~5年の社会人経験を積んだ係長や、主任クラスがアサインされることが多いでしょう。昨今、少子化で部下が少ないこの中堅層が、部下育成の経験もないまま、急に育成担当者になることがあり、「どのように接したらいいのかわからない」「育成方法がわからない」と言うことがあります。よって、育成担当者に事前に研修・実践機会を与え、意識づけするなどの「育成担当者の育成」も重要となってきます。
2)中堅社員
次に中堅社員教育の課題・ポイントとなるのは、中堅社員として後輩指導をするほか、実務のリーダーとして、しっかり業務を遂行していくこと、課題を達成する能力・スキルを向上させることでしょう。ここで大事な視点となるのは、実際に指示できる部下・後輩を持たせることです。管理職になる手前の中堅社員として、一人で業務をこなすのではなく、チームを動かすという経験を積ませる必要があります。また、ワンランク上の責任のある業務を任せることも重要です。さらに、その努力をしっかり評価することが必要です。
次の階層へのステップアップのステージを用意することも重要です。管理職への昇進を目指すのであれば、よりマネジメントに近い職務を経験させるなど、よりストレッチした経験をさせると有効でしょう。
3)管理職
最後に管理職教育の課題・ポイントとしては、会社の中間管理職としてチームを鼓舞し、育てながら果敢に課題を達成して、結果を出すための能力・スキル、態度を育成することでしょう。そのために必要なことは、社内の人材育成環境を整備すると同時に、それを管理職自身が活用できる能力スキルを身につけることでしょう。部下の人材育成こそ、管理職の最大の役割と言えます。社内の育成システムを知らない、活用できないということが起こらないよう、しっかりと管理職が知っておくことが必要です。また、昇進後研修の座学で終わらないように、マネジメント力やコーチング力が身につくよう、定期的なOJTやOff-JT、メンターとの1on1ミーティングの機会などを、管理職就任後も継続的に実施していくことが必要でしょう。
11.人材育成の成功事例
ここからは人材育成をしている企業の代表的な成功事例をいくつかご紹介していきましょう。
1)トヨタ自動車の事例
トヨタ自動車は「トヨタ生産方式」など、独自の経営哲学で知られている、日本を代表する製造業です。トヨタは従業員に対して、継続的なトレーニングとスキルの向上の機会を提供し、従業員全体が品質向上やプロセス改善に貢献できるような体系的な人材育成環境を整備しています。また、現場の従業員にも積極的にリーダーシップの機会を提供することで、絶え間ないイノベーションと品質向上に成功しています。
具体的な施策としては、配属3年目までの社員には担当の先輩社員(指導職以上)がついて面倒を見る職場先輩制度や、海外事業体や国内関係先への研修派遣、他本部・他領域へのローテーション、職場外へ派遣する修業派遣など、Off-JTだけではない、総合的な仕組みが整っているようです。
<参考引用 : トヨタ人材育成体系(事技職)>
2)サイバーエージェントの事例
サイバーエージェントでは「決断経験が人を育てる」と考え、自ら主体性を持って決断し、自走できる人材を育成したいというポリシーが一貫しています。具体的な施策としては、全社員に向けて現在のコンディションなどについてアンケートを実施する「GEPPO」、現部署で勤続1年以上が経つと自ら希望する部署への異動にチャレンジできる社内異動公募制度「キャリチャレ」、社内版転職サイト「キャリバー」など、ユニークな施策を多く展開しています。内定者を含めた全社員から新規事業案を公募する制度(Cycom、PocMOCKなど)は、2004年以降継続して実施しているようです。
<参考引用 : サイバーエージェント>
同社は、優秀な学生が内定を取る"イメージ"の会社TOP20にランクインするなど、人材育成施策が企業ブランディング向上にも寄与しているといえるでしょう。
<参考 : 東洋経済社>
3)ソニーの事例
ソニーは2021年3月期、純利益が初めて1兆円の大台を突破しました。そんな同社にはどんな人材育成の仕組みがあるのでしょうか。
ソニーでは、社員の「人間力」「仕事力」「キャリア」を高めるために、業務に不可欠な知識や能力を習得するための「業務研修」と、自発的な能力開発のための「自己啓発研修」が用意されています。ソニーで特徴的なのは、必須研修に加え、学ぶ意欲のある社員が自らの意志で受講する選択研修も充実している点です。
また、理想的な人材育成環境の整備のために、ソニーグループの人材育成コンセプトを体現する場「PORT」がソニー本社内に設立されています。技術者の育成では、各分野の第一線で活躍する約300名のエンジニアが社内講師を務め、12の技術領域において約300科目の最新技術とノウハウを学べる環境を整え、エンジニアとしての成長を力強くサポートしているようです。
<参考引用 : ソニーグループポータル>
4)その他
この他にも、厚生労働省のホームページには、各企業の人材育成への取り組みの好事例が多数掲載されているので、ぜひ参考にしてみてください。
<参考 : 厚生労働省人材育成事例一覧>
12.まとめ
日本企業の未来を担う人材育成は、今後重要な経営課題になっていくでしょう。人材育成は、ロミンガーの法則にあるように単に研修を実施して終わりではなく、さまざまな人事施策と連動する総合施策となりつつあります。
新たなテクノロジーが絶え間なく生まれる時代、そして、従業員の価値観が多様化してくる時代にあって、人材育成施策も進化していくでしょう。今一度、人材育成の考え方や具体的な取り組みを振り返り、自社の施策に活かしてみてはいかがでしょうか?
この記事の編集担当
黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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