終身雇用制度とは?メリット・デメリットとこれからの人事制度を解説

日本型雇用システムの一つとして、代表的なものが「終身雇用制度」ではないでしょうか。
しかし、現在は「ジョブ型採用」や「成果主義」の導入などを背景に、終身雇用制度の崩壊が囁かれるようになってきました。

当記事では、終身雇用のメリット・デメリットを踏まえながら、これからの時代に押さえるべき人事制度のポイントをご紹介いたします。

改めて、自社の制度がどうあるべきかを考えるきっかけにしていただけましたら幸いです。

2024.04.09
コラム

1.終身雇用とは

終身雇用とは、企業倒産が発生しないかぎり、企業が社員を解雇せず、定年まで雇い続ける仕組み・制度です。終身雇用という制度は、たとえ企業の中で昇進ができず、役職が付かなくても、その社員を組織の中でしっかり定年まで面倒を見ていく制度であり、日本型雇用制度の根幹ともいわれてきました。

また、「終身雇用」は「年功序列」「企業内組合」とともに、日本型の雇用管理の特徴を示すものとして、日本的経営の「三種の神器」とも呼ばれてきました。

終身雇用は日本だけの特殊な制度と思われがちですが、20世紀前半のアメリカなどの欧米諸国でも、日本と同じ終身雇用の形態が存在していたと言われています。産業構造の変化がいち早く起こった欧米では、終身雇用制度は確かに存在していたものの、日本に比べてかなり早い段階で終焉したという見方があるのです。

日本では、現時点でも完全に終身雇用制度が終焉したわけではありません。終身雇用制度のメリットを維持した人事制度はまだまだ存在しています。一方で、急激な時代の変化に合わせてそのデメリットを克服し、改善する取り組みもされています。そんな終身雇用制度のメリット・デメリットは現状どのようになっているのでしょうか。また、この激動の時代にあって、今後はどのようになっていくのでしょうか。

2.終身雇用の目的

そもそも終身雇用は、どのような目的で始まったのでしょうか?それには企業側が長期的に社員を育成しながら、確保しておきたいという意図があったと考えられます。社員に安定した収入と生活を約束することで、ロイヤリティを高い状態に保ち、集中して業務に邁進してもらう目的があったのでしょう。現在のように、日々事業環境が変化する時代ではなかったからこそ、当時としては、この終身雇用の仕組みが最も合理的な選択だったのかもしれません。

3.終身雇用の歴史的背景

終身雇用制度が日本で広く採用され始めたのは1950年代のことです。この時期は戦後の復興を背景に、日本経済が急速に成長している時代でした。この高度経済成長期には、企業間での優秀な人材確保の競争が激化しました。企業は安定した労働力を維持するために、終身雇用制度をはじめとする年功序列や、新卒一括採用制度を導入することになったのです。このような雇用制度により、企業は長期的に安定した労働力を確保し、同時に社員には収入や生活の安定を約束することが可能になりました。この時代の経済成長が、終身雇用という雇用形態を可能にした背景ともいえるでしょう。この制度は従業員と企業の間で長期的な関係を築くことを目的とし、日本特有の就業文化として発展してきました。

4.終身雇用のメリットとデメリット

日本型の雇用管理の特徴でもあった終身雇用制度の仕組みですが、次のようなメリットとデメリットがありそうです。

1)終身雇用制度のメリット

  • 社員に雇用の安心感を与え、安定して仕事に専念できる
  • 社員が人事異動を経験し、社内でさまざまな経験を積むことで、社内特有のスキルが高まる
  • 社員を長期的観点で育成できる
  • 会社に対する社員の忠誠心・帰属意識が高まる
  • 勤続年数が長くなるにつれ、社員の処遇・賃金が増していくことがモチベーションにつながる

2)終身雇用のデメリット

  • 社員に安心感が生まれるが、社員によっては努力を怠りやすい
  • 人材が同質化し、イノベーションが起こりにくい
  • 組織が硬直化しやすい
  • 勤続年数が長い社員の処遇・賃金が高くなり、若手社員の処遇が低くなる傾向にある

上記のように終身雇用制度にはメリットもデメリットもあります。そのメリットを活かそうとする日本企業には、まだまださまざまな人事制度が根強く残っています。終身雇用制度の考え方は完全に崩壊したわけではなく、人事制度の根幹として、いまだに多くの日本企業に根付いているのです。

労働政策研究報告書No210(2021)では、次のように述べられています。

「JILPT の前身に当たる日本労働研究機構が実施した『第 1 回勤労生活に関する調査』(1999 年)によれば、「終身雇用」は良いこととして高い支持を得ている。しかも、その支持の高さは 2015 年の第 7 回調査までの間に低下するどころか上昇傾向を示している」

このように終身雇用制度は完全に崩壊したわけではないことが示唆されています。

リンク:労働政策研究報告書No.210 「長期雇用社会のゆくえ―脱工業化と未婚化の帰結」

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5.終身雇用的慣行がまだ根付いている人事制度とは

終身雇用制度的な慣行がまだ残っている人事制度としては、主に以下の4点が挙げられます。

  1. 新卒一括採用制度
  2. 長期育成観点の教育体系
  3. メンバーシップ型人事
  4. 能力主義の人事評価

1)新卒一括採用制度

一定以上の規模を持つ企業は、新卒一括採用制度を維持しています。まだまだ中途採用制度だけでは、事業に必要な人員を確保できる企業が少ないのではないでしょうか。この背景には、企業側が新卒で社員を採用し、じっくり長期的に育てていきたいという意図もありそうです。

一般社団法人 日本経済団体連合会による「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」(対象:経団連全会員企業/実施期間:2021年8月4日~10月1日)によれば、「新卒一括採用」の実施割合は約91%であり、今後減る見込みはあるものの、まだ採用手法の主流であることがわかります。

(引用:一般社団法人 日本経済団体連合会による採用と大学改革への期待に関するアンケート)

2)長期育成観点の教育体系

多くの日本企業の教育体系図を覗くと、長期的な雇用を前提とした教育・育成の仕組みが見えてきます。例えば充実した入社時研修、2年目から3年目の若手研修、階層別研修、管理職研修、昇進者研修などです。これらは各々のキャリアステージの段階で、長期的育成の視野に立って、社員を育てていきたいという意図を持って構築されているものと言えるでしょう。

3)メンバーシップ型人事

メンバーシップ型人事とは、業務内容・勤務地などを敢えて明確に定めず、社内の人事異動を柔軟に実施し、ゼネラリストを育て、相互の長期的な人間関係を重視する人事のあり方です。まだまだ多くの日本企業は、メンバーシップ型の考え方で運営されていると言われています。このメンバーシップ型のあり方も、長期的な終身雇用の考え方が背景にあるとされています。

4)能力主義の人事評価

人事制度の根幹である人事評価制度には、能力主義を採用している会社も多いでしょう。能力主義の人事評価とは、仕事を遂行するために必要な能力・スキルを定義し、そこへの到達度を基準とする人事評価制度のことです。社員を業績だけでなく、能力で評価するという観点に立っています。つまり、能力を伸長させる教育的観点が人事制度の一部としてまだまだ機能しており、終身雇用的で長期的な観点に立った人事評価基準だと言えます。

上記のように、終身雇用制度は現時点でもそのメリットをまだまだ享受し、経営、人材制度に活かされていると言えるでしょう。

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6. 終身雇用崩壊時代のこれからの人事制度

1)日本経済の低迷

終身雇用制度はかつて日本の高度経済成長期において、経済の持続的な拡大とともに発展し、企業と従業員の長期的な関係を築く基盤となりました。しかし、現代の日本経済は成長の勢いを失い、多くの企業が成長の危機に立たされています。このような環境において、終身雇用という制度の継続が難しくなっているのが現状です。

経済の不透明性が高まる中、企業はより柔軟な人事制度への移行を模索しており、ジョブ型や成果主義の導入など、労働市場の構造変化に対応するための新たな制度が広がっています。終身雇用制度は、日本経済の変化と共に今後どのように変化していくのか、注目が集まっています。終身雇用の崩壊を懸念する声がある一方で、労働市場の柔軟性を高め、新しい働き方を模索する動きも見られます。経済の成長と安定を前提とした終身雇用制度が、現代の経済状況にどのように適応していくかは、これからの大きな課題となりそうです。

2)成果主義の採用

日本の労働市場では、従来の年功序列に基づく人事評価制度から、成果主義を中心とした評価体系への移行が進んでいます。この変化の背後には、従来の制度では若手社員の実力や成果を適切に評価しにくいという問題があります。これは特に若い世代の間で、自身の能力や成果が正しく認められたいという要求が高まっていることと密接に関連しています。また、企業側も個々の社員の実力や貢献度に応じた適切な評価と報酬を提供する重要性をより認識するようになっています。

このような背景から、終身雇用制度や年功序列といった日本特有の雇用慣行に対する見直しの一環として、成果主義に基づく人事評価制度への移行が始まっているのです。この移行が意味するのは、日本の企業がより柔軟で能力に基づいた労働市場へと進化していることです。それに伴い、終身雇用制度の将来に関しても新たな議論が生まれており、労働市場の変化に適応するための企業の戦略や制度設計が注目されています。この変化は労働市場全体の構造変化につながり、終身雇用制度の持続について疑問を投げかけているといえるでしょう。

3)雇用の流動化

リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査2019」によると、日本の雇用環境は変化しており、終身雇用の伝統が徐々に衰退していることが示されています。全雇用者のうち約32%には一度も退職経験がない一方で、正規雇用者は男性48.1%、女性38%、非正規雇用者は男性15.2%、女性10.9%に留まり、多くの労働者が複数回の職場変更を経験しています。特に退職回数が1回以上の割合は高く、雇用の流動性が増している状況が浮き彫りになっています。このデータから、日本の労働市場における新たな動向として、雇用の流動性が加速する流れがあると言えます。

7.まとめ

上記のように終身雇用という、長期雇用のメリットを享受できる制度が存続する一方で、激動の時代において、人事制度に一部修正・改善が求められているのが実態です。終身雇用が崩壊するこれからの時代に、人事制度にはどのような修正が求められているのでしょうか。主に以下の4点が挙げられるのではないでしょうか。

  1. 新卒一括採用から「ダイバーシティ採用」への移行
  2. 階層別教育だけでなく、「キャリア開発支援の導入」への移行
  3. メンバーシップ型人事から「ジョブ型人事」への移行
  4. 能力主義の人事評価から「成果主義を取り入れた人事評価」への移行

1)新卒一括採用から「ダイバーシティ採用」への移行

新卒一括採用を継続して行う一方で、中途採用や外国人・女性などのダイバーシティ採用を強化することで、人材の多様化を図る必要があるでしょう。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)ともいわれますが、多様な人材を活かす仕組みや、その運用に向けた教育・研修も必要となってくるかもしれません。

2)階層別教育だけでなく、「キャリア開発支援の導入」への移行

終身雇用制度は均質的な人材が生まれがちで、イノベーションを起こしにくいというデメリットもありました。これに加えて、会社の指示通りに動くことが「正しい」という思考になりがちな点もデメリットとして挙げられます。これからの時代は社会変化が激しく、人生100年時代と言われるように、働く期間が長期化していることを踏まえ、自分のキャリアや働き方を自分で考えることが必須です。この考え方や取り組み方を、企業が教育することが大切ではないでしょうか。企業側は自律した人材をどのように活かすかを考える必要がありそうです。キャリアの課題は個々によるものもありますが、年代別の傾向もあります。そのため、キャリア開発支援を検討する際には年代別のキャリア課題を踏まえて施策を検討するといいでしょう。

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3)メンバーシップ型人事から、「ジョブ型人事」への移行

欧米では一般的であるジョブ型人事とは、社員の職務内容をあらかじめ明確に規定して、雇用する形態のことです。この制度では社員の専門スキルとともに、外部からの転職による人材流動性も高められます。終身雇用制度の長期雇用の観点からすると、相反する仕組みにはなりますが、生産性が向上し、外部の多様な人材を登用できる点や、若手にもチャンスを与えられる点が、組織の経営方針によってはメリットが大きいと捉えられる場合があります。

4)能力主義の人事評価から、「成果主義を取り入れた人事評価」への移行

終身雇用制度のデメリットとして、一部の社員が努力を怠りやすいという点がありました。また、能力主義の人事評価では、能力という見えないものを評価する難しさに加え、評価が年功序列的に下される点や結果が見えづらいという欠点もありました。

成果主義を取り入れた人事評価では、社員の仕事の成果や業績に応じて給与や昇格を決定することになります。能力主義のように、能力伸長を長期的視野で育てる制度ではありませんが、成果をしっかり振り返る機会を研修などに取り入れることによって、メリットを感じさせる方法もあるようです。

終身雇用制度は、日本型雇用制度の根幹でもありました。その終身雇用制度には、メリット、デメリットがそれぞれあります。
これからの企業の人事制度には、終身雇用制度のメリットを存分に活かしつつ、デメリットを補完し、改善していけるようなハイブリッドな人事制度が求められていくかもしれません。その大きな転換点においては、従業員体験(従業員が働くことで得られるあらゆる体験)や従業員エンゲージメントの向上を視野に入れながら、組織と個人が選び、選ばれる関係性になっていくことが大切なのではないでしょうか。

8.よくある質問

①終身雇用のメリットとデメリットは?
終身雇用のメリットは、従業員に安定した雇用とキャリアの保証を提供し、企業文化の育成と従業員のロイヤリティ向上に貢献する点です。これによって長期的な人材育成に注力でき、企業と従業員の信頼関係を深められます。

一方、終身雇用のデメリットは、労働市場の柔軟性が低下し、企業が急速な経済変動やイノベーションの要求に対応しづらくなる可能性がある点です。また、パフォーマンスが低い従業員も抱えることで、組織の効率性が損なわれ、新たな人材の採用機会が減少するおそれがあります。

②終身雇用のリスクは?
終身雇用制度のリスクは、市場の変動や経済の不況時に企業が柔軟に人員調整を行えない点にあります。これによって財務負担が増大し、企業の競争力が低下するおそれがあります。また、社内での非効率な人材配置や革新の鈍化を招く可能性も指摘されています。

③終身雇用は義務ですか?
終身雇用は義務ではありません。企業が採用する雇用形態の一つで、企業文化や経営戦略に基づいて自由に選択されます。企業は市場の要求や経済状況に応じて、雇用形態を柔軟に変更できます。

この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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