定年後再雇用の給与や待遇は?企業が押さえておくべきポイントを解説

日本では少子高齢化が進行する中で、労働力不足が深刻な課題となっています。このような背景もあり、多くの企業が定年後再雇用制度を導入しています。定年後再雇用制度は、定年退職後も同じ企業で働き続けることを可能にし、労働力の確保と高齢者の社会参加を促進する重要な施策です。
この記事では、定年後再雇用制度の概要のほか、給与と待遇、導入のメリット、注意点について詳しく解説します。

2024.07.09
コラム

1.定年後再雇用とは、高年齢者雇用安定法により義務化された措置のひとつ

定年後再雇用制度は、定年を迎えた社員が再度雇用され、同じ企業で働き続けられる制度です。再就職や単なる雇用延長とは異なり、定年退職を迎えた後も同じ企業で勤務を継続できる点が特徴です。

これらの措置は、「高年齢者雇用安定法」という、65歳以上の高齢者の雇用を確保するための法律によって義務化されました。1971年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が、1986年に「高年齢者雇用安定法」に改称され、さらに2013年の法改正で「高齢者雇用確保措置」が定められたのです。高齢者雇用確保措置では、企業に対して下記いずれかの改善措置の実施が義務付けられています。

<高齢者雇用確保措置>

  • 65歳までの定年年齢の引き上げ
  • 希望者全員を対象とする、継続雇用制度の導入
  • 定年制の廃止

定年後再雇用とは、このうちの継続雇用制度に該当する施策です。
高年齢者雇用安定法は、2021年の改正によって適用範囲がさらに拡大され、企業には70歳までの就業機会を提供する努力義務が課されました。

2.定年後再雇用制度が導入された背景

定年後再雇用制度が導入された背景には、少子高齢化による労働力不足や、年金受給開始年齢の後ろ倒しといった社会的要因があります。少子化により若年層の労働力が減少し、高齢者の労働力を活用する必要性が高まっているのです。
また、年金制度の見直しで、高齢者が不安定な生活に陥らないようにするための取り組みでもあります。

日本の少子化傾向はいまだ歯止めがきかず、厚生年金をもらえる年齢が引き上がっていることを考えると、高年齢者雇用安定法の適用範囲はさらに広がる可能性があります。企業としては、今のうちに対応方針を考えておくべきといえるでしょう。

3.定年後再雇用と再就職・雇用延長との違い

定年後再雇用と混同されがちな制度に、再就職と雇用延長があります。

再就職の場合、従業員はハローワークやシルバー人材センターで、みずから新しい就職先を探す必要があります。好きな職場を自分で選べるのはメリットである一方、シニア向けの求人は業種が限定され、必ずしも今まで培ったスキルや経験を活かせるとは限りません。

一方の雇用延長は、定年を迎えても退職をせずに、同じ給与体系や業務内容で勤務を継続する制度です。慣れ親しんだ環境で、給与水準を下げずに働き続けられるのはメリットですが、業務内容や責任範囲が変わらないため、負荷なく働き続けたい人は不満を抱くかもしれません。

4.定年後再雇用の給与と待遇

定年後再雇用では、給与や待遇はどう変わるのでしょうか。ここでは、再雇用後の労働環境について詳しく解説します。

1) 給与体系と設定方法

定年後再雇用の給与は、定年退職時の給与と比較して設定されることが一般的です。通常、再雇用者の給与は、定年退職時の給与よりも低く設定されますが、同一労働同一賃金の対象から外れるわけではありません。定年前よりも役割や責任の範囲が限られる場合が多いため、労使合意の上でそのような雇用契約を結ぶのです。

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(2020年)によると、60歳直前の給与水準を100とした場合、61歳時点での平均的な給与水準は78.7と、4分の3ほどに減少しています。

■フルタイム勤務・継続雇用者の61歳時点の賃金水準の平均値

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参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(2020年)

再雇用後の実際の給与体系は企業ごとに異なりますが、いずれも公正な基準にもとづいて設定されていなければなりません。これにより、再雇用者が納得して働ける環境が整えられます。

2) 待遇と労働条件

再雇用後の労働条件は、定年前とまったく同じではありません。元々正社員として雇用されていても、再雇用時に非正規雇用になるケースはよく見られます。

前述の調査によれば、再雇用後の雇用形態として最も多いのは、「嘱託社員・契約社員」で57.9%です。しかし、その場合でも勤続年数は加算されていて、有給休暇などは以前の水準を引き継いで付与されます。業務内容に関しても、定年前とまったく異なる業種に配属するのは違憲との判決が出ています。
再雇用者が安心して働けるように、双方が合意できる業務内容や福利厚生の制度を整えましょう。

3) 昇給・昇進の機会

多くはありませんが、再雇用後も昇給や昇進の機会が提供される企業もあります。高いスキルを持つ再雇用者が引き続き成果を上げ、さらにキャリアを積める環境があれば、再雇用者のモチベーションが維持され、職場全体の生産性向上につながります。
企業は、再雇用者が長期的に働き続けられるキャリアパスを提供することが重要です。

5.定年後再雇用制度導入のメリット

定年後再雇用制度には、さまざまなメリットが存在します。ここでは、企業、従業員、そして社会全体の3つの視点における、定年後再雇用制度のメリットを解説します。

1) 企業側のメリット

企業にとって、定年後再雇用制度は熟練労働力の確保や人材育成、知識の継承に役立ちます。再雇用者の豊富な経験や専門知識を活用することで、若手社員の教育や育成をスムーズに進められるでしょう。
また、定年後再雇用制度によって、コスト削減や助成金の受給といった経済的メリットも享受できます。これにより、企業は競争力を維持しつつ、持続可能な成長を図ることができるでしょう。

2) 従業員側のメリット

定年後再雇用制度は、従業員にとっても大きなメリットがあります。継続的な収入の確保に加え、社会的なつながりを維持し、生きがいと充実感を得られるため、定年後も心身ともに健康な生活を送ることができます。
また、働き続けることで新たなスキルや知識を習得する機会が得られ、自己成長を続けることにもつながるでしょう。

3) 社会全体へのメリット

社会全体としても、定年後再雇用制度によって高齢者の社会参加が促進されれば、労働力不足の解消につながります。
また、高齢者が働き続けることで年金制度への依存が減少し、経済的自立が進むでしょう。このように、定年後再雇用制度は経済的安定と福祉の向上を実現し、社会全体の活力を高める効果を期待できます。

6.定年後再雇用制度導入時の注意点

定年後再雇用制度の導入には、いくつかの注意点も存在します。企業としては、どのような点に気をつけて制度を導入すればいいのでしょうか。

1) 労働契約に関するトラブルを避ける

定年後の再雇用に際しては、労働契約の適正な締結が必要です。再雇用者と企業の双方が納得するかたちで契約が結ばれていないと、労働条件や待遇に関するトラブルが発生するリスクもあります。

例えば、雇用期間については1年間の有期雇用を採用する企業が多いようですが、従業員の希望がある場合は、65歳までは原則的に雇用期間を延長しなければなりません。就業規則に明記された契約期間に変更が生じる場合、労働基準監督署に報告する義務もあります。
法的なトラブルを避け、再雇用者が安心して働ける環境を整えるためにも、再雇用時の労働契約はできるだけ明快なものにしておきましょう。

2) 社員間の価値観のすり合わせを行う

定年後再雇用では、社員間の価値観のすり合わせが不可欠です。これは価値観が多様化し、新しい技術が導入される現代の職場において、再雇用者と若手社員の間で意見や働き方の違いが生じやすいためです。
世代間の価値観の違いは、仕事の進め方やコミュニケーションに悪影響を与える場合があります。これを放置すると、職場内で摩擦や誤解が生じ、生産性の低下や雰囲気の悪化につながります。

具体的な対策として、世代が異なる人同士も相互理解を深めることが重要です。再雇用者になった後の役割が、本人にも周囲にも明確に話されていないことがあります。互いを知る要素のひとつとして、互いの役割について正しく認識することも大切でしょう。
そのような価値観や互いについての理解を深めることで、職場の協力体制が強化され、再雇用者に切り替わった後もスムーズに職場に適応できるようになります。

3) 再雇用者のモチベーションを維持する

定年後再雇用では、再雇用者のモチベーションの維持も重要です。これは、再雇用者の仕事への意欲が、職場全体の生産性や雰囲気に大きく影響するためです。
再雇用者は、長年の経験と知識を持つ貴重な人材です。しかし、再雇用後の待遇や職務内容が曖昧だと、意欲を失う可能性があります。モチベーションが低下すれば生産性も落ちるでしょう。

具体的な対策として、まずは再雇用者のキャリアパスを明確にし、場合によっては昇給や昇進の機会のある制度に見直すことも必要かもしれません。また、定期的な面談を実施し、再雇用者が働く意味・意義を感じられる環境の整備が求められます。

このように、再雇用者のモチベーションを維持することで、彼らの経験と知識を最大限に活用し、企業全体の成長を促進できるでしょう。
定年後再雇用制度が効果的に機能するためには、再雇用者がいきいきと働ける職場環境の整備が不可欠です。

7.人事制度を整え、定年後再雇用制度を活用しよう

定年後再雇用は社会的にも重要な制度ですが、企業側は再雇用者が安心して働けるように、人事制度を整備する必要があります。これは、従業員が長期的に働き続けるための基盤を作るために不可欠です。

まず、再雇用者の労働条件を明確にし、透明性を持たせることが重要です。再雇用契約における給与体系、労働時間、休暇制度などを具体的に示し、再雇用者が自身の働き方を理解できるようになることが求められます。また、再雇用者の貢献意欲を引き出し、報いることを目的とした、適切な昇給などの機会も検討が必要かもしれません。

さらに、再雇用者の健康や働き方に配慮した柔軟な労働環境の提供も重要です。例えば、時短勤務や在宅勤務の選択肢を増やすことで、再雇用者が自身のペースで働ける環境を整えることができます。一般的な正社員と同様、定期的なフィードバックやキャリア面談を行って、再雇用者が仕事を通じた成長を実感し、モチベーションを維持できるようにサポートすることが大切です。

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この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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