戦略人事とは?機能や役割をわかりやすく解説
変化の激しいビジネス環境において、企業の競争優位性を高めるために注目されているのが戦略人事です。企業の経営ビジョンを実現し、持続的な成長を目指す上で、戦略人事は重要な取り組みとして浸透しつつあります。
戦略人事の実践にあたっては、従来の人事業務の枠組みにとらわれない視点が求められます。ただ、戦略人事の重要性は理解していても、何をどのように実践すればいいか、よくわからない人も多いのではないでしょうか。
この記事では、戦略人事の意味や、基本的な機能と役割、実践の手順などについて解説します。

1. 戦略人事とは
戦略人事とは、経営資源のひとつであるヒト(人的資源)を最大限活用し、経営戦略と連動した人事戦略を策定、実行することです。企業の経営戦略と人的マネジメントを連動させ、ヒトをどのように戦略にマッチさせるかを考え、具体的な人事施策へとつなげていきます。
学術の分野では、戦略人事は「戦略的人的資源管理(SHRM:Strategic Human Resources Management)」とほぼ同義とされています。SHRMは、経営戦略や企業の目標達成に重点を置き、人材を戦略的に活用することで、組織全体の成果を向上させる考え方です。ビジネスを取り巻く環境が激しく変化するなかで、企業が優位性を確保するには、変化に対応できるスキルや知識、経験を持つ人材の確保が不可欠です。
さらに、企業の価値創出を考える上でもヒトの重要性は増しています。このような背景から、人的資源を最大限に活用して企業戦略を最大化させる戦略人事が重視されるようになりました。
戦略人事と、従来の人事や人事戦略には、以下のような違いがあります。
1) 従来の人事との違い
戦略人事と従来の人事の大きな違いは、経営戦略に対する関わり方にあります。従来の人事は、主に採用や配置、給与、評価などの管理業務が中心となります。社員がスムーズに働けるように環境を整えることが、従来の人事の主な役割です。
一方、戦略人事は、企業の経営戦略や成長戦略に沿って、人材をどう活かすかを考えて計画を立てます。企業全体の目標を達成するために、長期的な視点で人材を育成・配置するのが戦略人事の特徴です。従来の人事が「社員が活躍できる仕組みや環境をどう整えるか」に専念するのに対して、戦略人事は「経営目標達成のために社員をどう活用するか」に注力しています。
2) 人事戦略との違い
戦略人事と人事戦略はよく似た言葉ですが、企業にとっての位置づけに違いがあります。
戦略人事は企業の経営戦略にもとづき、人材の採用、育成、配置などを計画的に行う実践的なアプローチです。企業が目指す長期的な目標を実現するために、人材の力を経営の成長に直結させる行動や実務の部分に焦点を当てた言葉といえます。
一方で、人事戦略は、企業全体の経営戦略に対する人事部門の方向性や方針を示す、戦略的な計画そのものを指します。経営目標に沿った人材管理計画を立て、「どうやって適切な人材を確保し、育成し、定着させ、活躍を促進するか」といった大まかな方針を決定するのが人事戦略です。
戦略人事は実行段階、人事戦略は計画段階と捉えるとわかりやすいかもしれません。
2. 戦略人事の4つの機能と役割
戦略人事には、「HRビジネスパートナー(HRBP:Human Resources Business Partner)」「センター・オブ・エクセレンス(CoE:Center of Excellence)」「オペレーション部門(Ops:Operations)」「組織開発と人材開発(OD&TD:Organization Development&Talent Development)」と呼ばれる4つの機能と役割があります。組織が戦略人事を実現するには、以下のような機能や役割を備えていることが必要です。
1) HRビジネスパートナー(HRBP:Human Resources Business Partner)
HRBPとは、「人事(HR)」と「ビジネスパートナー(BP)」の両方の役割を持つ機能です。具体的には、人事が経営層や各部門のリーダーと協力し、人と組織の観点から事業成長をサポートする機能のことを指します。例えば、各部門の課題に応じて人材戦略を提案したり、経営者と連携して人材に関する意思決定を行ったりするなど、経営トップの考え方と現場のニーズ・実態の両方を把握した上で施策を検討します。
HRBPについては、以下の記事をご覧ください。
HRBPとは?導入時のポイントと活用事例について
2) センター・オブ・エクセレンス(CoE:Center of Excellence)
CoEとは、優秀な人材やノウハウなどの経営資源を集約したコンサルティング機能です。採用や人材育成といった人事のさまざまな分野に関する専門チームとして、最良の方法を導き出し、効率的かつ効果的な人事施策を組織全体に共有・展開する役割を担います。HRBPで現場のニーズを踏まえた施策を検討する際、人事の専門知識を発揮してサポートするのも、CoEの役割のひとつです。
3) オペレーション部門(Ops:Operations)
Opsは、CoEにより策定された施策を、実際に運用・管理する部門です。具体的には、採用活動、給与支払い、福利厚生管理、労働法の遵守など、社員に関する日常的な人事管理業務を担います。人事の基本的な機能を確実に運営し、組織がスムーズに動くようサポートするのがOpsです。
4) 組織開発と人材開発(OD&TD:Organization Development&Talent Development)
組織開発(OD)は、組織の人事戦略を実行するための体制を構築する機能で、人材開発(TD)は、組織の戦略を実現することを目的とした人材マネジメント戦略の機能です。ODが、企業理念の浸透や組織文化の醸成によって組織そのものが効果的に機能するように支援し、TDによって、企業の経営戦略を実行するために必要な人材の育成を行います。
組織開発と人材開発(OD&TD)は、どちらが欠けても成り立たない、表裏一体の関係といえます。
3. 戦略人事を実践する手順
戦略人事を実践するためには、一定の手順があります。以下の流れに沿って進めましょう。
■戦略人事を実践する手順
1) Step1 経営戦略や経営計画の理解を深める
戦略人事の目的は、企業の経営戦略の実現であるため、まず経営戦略や経営計画をしっかりと理解することが不可欠です。企業のビジョンやミッション、中長期の経営目標などを再確認し、正しい理解を深めましょう。
戦略人事の実践にあたっては、経営層と密接に連携し、企業の目標を達成するためにどのような人材が必要かを見極める必要があります。経営戦略に対する理解があれば、人事施策が戦略的に連動し、企業全体の目標達成に貢献できる可能性が高まります。
2) Step2 経営戦略をもとに必要な人材像を明確化する
経営戦略や経営計画への理解が深まったら、経営戦略の達成に向けてどのようなスキルや経験が求められるのかを分析し、必要な人材像を明確化します。例えば、成長戦略においては、イノベーションを促進できる人材や、新市場の開拓に対応できる営業力のある人材が必要かもしれません。企業が今後進むべき方向に合わせて必要な能力や特徴を明確化し、それに合った人材を育成・採用する準備を整えます。
3) Step3 人事戦略・方針を策定する
必要な人材像を明確にしたら、現状を踏まえた人事戦略を策定します。人事戦略を策定するには、現在の組織の状況を正しく把握することが大切です。社員の人数やスキルなどを分析し、「どのような人材を、何人、いつまでに採用または育成する必要があるか」を整理しましょう。その上で、具体的な人事戦略や方針を固めていきます。
4) Step4 戦略に沿って各種人事施策を検討する
人事戦略・方針を策定したら、策定した人事戦略を実行に移すため、具体的な人事施策を検討します。例えば、求めるスキルを持つ人材を採用するための求人戦略の策定や、既存社員のスキル向上のための研修プランなどが考えられます。採用、育成、評価、組織開発といった各領域の担当者とも連携しながら、人事戦略を施策に落とし込んでいきましょう。
4. 戦略人事を実践する際のポイント
戦略人事は、ポイントを押さえながら実践すると、成功の確率が高まります。戦略人事を実践する際には、以下の2点を意識するのがおすすめです。
1) 各部署の理解を得る
戦略人事を効果的に実践するためには、経営層を含めた各部署の理解と協力が不可欠です。戦略人事は単なる人事業務ではなく、企業全体の目標達成に直結する重要な施策です。そのことを社内に周知し、意義を共有する必要があります。
戦略人事の実践にあたっては、目的や意図を明確に伝え、経営層や各部署のリーダーによる支持が得られる体制を整えましょう。また、社員一人ひとりに、自身の業務が企業戦略にどう貢献しているのかを理解してもらえるよう、個人にとっての意義を具体的に示すことも重要です。こうした共有と意識づけにより、社内の協力が得やすくなり、一体感のある実行が可能になります。
2) リソース配分の最適化を図る
戦略人事を実践するには多くのリソースが必要になるため、リソース配分の最適化を図ることも重要なポイントです。適切なリソース配分ができていないと、人事部門の業務過多を招いてしまう可能性があります。
そもそも人事部門には、従来の人事業務に必要な最低限の人数しか配置されていないこともあります。その状態のまま戦略人事に取り組むと、経営戦略の理解が不十分になったり、具体的な人事施策の検討にまで手が回らなかったりして、最終的に戦略人事の導入が頓挫してしまうかもしれません。必要な場所に適切な人材や設備を配置するなど、リソース配分の最適化に向けた工夫が求められます。
例えば、ITツールや外部人材などを活用して、人事管理の効率化を図るのも良いでしょう。また、戦略人事のノウハウを持つ外部の専門家や人事コンサルティング会社を活用するのもひとつの方法です。内部と外部のリソースを柔軟に組み合わせることで、戦略人事の成果を最大限に引き出せる可能性が高まります。
5. 戦略人事で経営戦略の実現を目指そう
戦略人事とは、人的資源を最大限活用して、経営戦略と連動した人事戦略を策定・実行することです。企業経営を取り巻く環境が激しく変化するなか、戦略人事の重要性はますます増しています。
戦略人事は、従来の人事とは目的や経営戦略に対する関わり方が異なり、社内の理解やリソース配分の最適化なども必要になるため、戦略人事の意義や手順を理解しながら実践を推進していきましょう。
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この記事の編集担当

黄瀬 真理
大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。
国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定
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