ダイバーシティ&インクルージョンとは?取り組み方やメリットを解説

働き方や価値観の多様化が進む昨今、ダイバーシティという言葉が広く認知されるようになりました。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、従来のダイバーシティの概念から、さらに一歩進んだ考え方です。多種多様な人材の能力を最大限発揮させ、組織の成長につなげるために、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業も増えています。では、ダイバーシティ&インクルージョンとは、具体的にどのような概念を指し、どのような取り組み例があるのでしょうか。

2025.01.29
コラム

1. ダイバーシティ&インクルージョンとは

ダイバーシティ&インクルージョンとは、社員一人ひとりの多様性を受け入れながら、組織の一体感を醸成することで、成長や変化を推進する取り組みのことです。
ダイバーシティとは、多様性を意味する言葉で、性別や年代、国籍、文化、価値観、キャリアなど、さまざまな違いを持つ人たちが、それぞれのバックグラウンドを尊重し、いっしょに活動する状態を指します。さらには、そのような多様な人材が能力を最大限に発揮できる機会を提供し、新たな価値創造につなげる経営を、ダイバーシティ経営と呼びます。
また、インクルージョンは、受容を意味する言葉で、社員がお互いを認め合いながら一体化を目指す組織のあり方のことでもあります。単に人材の多様性の向上を目的とするのではなく、その多様な人材が個性を認め合い、誰もが活躍しやすい環境づくりを行うことまでを含めた概念が、ダイバーシティ&インクルージョンです。

■ダイバーシティとインクルージョンのイメージ

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2. ダイバーシティ&インクルージョンが求められる背景

ダイバーシティ&インクルージョンは、さまざまな企業から注目を集めています。ダイバーシティ&インクルージョンが求められるようになった背景としては、主に以下の4点が挙げられます。

1) グローバル化の進展

グローバル化が進展したことで、ダイバーシティ&インクルージョンが求められるようになりました。企業は、国際的に事業を展開するなかで、異なる文化や価値観を持つ人々と協働する必要性が増しています。また、海外の市場に対応するには、現地の文化や消費者のニーズに対する理解が重要になります。多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、さまざまな考え方や視点を共有すれば、企業は革新性や競争力の向上が可能です。

2) 社会的責任と公平な環境提供の必要性

ダイバーシティ&インクルージョンが求められる背景には、社会的責任と公平な環境提供の必要性が増していることも挙げられます。
企業には、ジェンダー、民族、宗教、障害、性的指向などにかかわらず、すべての人に平等な機会を提供する責任があります。法的規制が強化されていることに加え、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の観点からも、社会の多様性を尊重し、差別のない環境づくりを行うことが必要です。ダイバーシティ&インクルージョンに対応することを社会からも期待されており、企業の社会的評価やブランド価値にも影響を与えるようになっています。

3) 人口動態の変化

人口動態が変化したことによって、ダイバーシティ&インクルージョンが求められるようになりました。少子高齢化が進む日本では、働き手の減少に伴い、労働力の確保が大きな課題となっています。必要な人材を確保するためには、年代や性別、国籍を問わず、多様な人材を積極的に活用することが重要です。また、高齢者や外国人、女性といったさまざまな人材が活躍できる職場を作ることで、新しいアイディアや視点が取り入れられるため、組織全体のパフォーマンス向上も期待できます。

4) 消費者ニーズの多様化

ダイバーシティ&インクルージョンが求められる背景には、消費者ニーズが多様化したこともあります。消費者の価値観の変化に迅速に対応するには、組織内部にも多様な視点を取り入れる必要があります。異なるバックグラウンドや価値観を持つ社員が集まれば、消費者のさまざまなニーズをキャッチできる社員が増えるため、ニーズに沿った製品やサービスを開発することが可能です。

3. ダイバーシティ&インクルージョンに向けた取り組み例

企業がダイバーシティ&インクルージョンを実現したい場合、どのような取り組みに着手すればいいのでしょうか。以下の取り組みが代表例として挙げられます。

1) 女性雇用促進

女性雇用の促進は、ダイバーシティ&インクルージョンの例のひとつです。男女が平等に活躍できるように、女性が働きやすい環境をつくります。例えば、女性のライフステージに合わせた柔軟な勤務制度やキャリア支援プログラム、女性管理職の積極的な登用などが挙げられます。

2) 外国人雇用促進

外国籍の人材が働きやすい職場環境を整えることも、ダイバーシティ&インクルージョン施策のひとつです。ビザの取得・更新のサポートや文化理解を深める研修などを行い、国際的な視点を取り入れることを目指します。

3) 障害者雇用促進

障害者雇用促進も、ダイバーシティ&インクルージョンの代表例です。障害の有無にかかわらず働けるようにするためのバリアフリー環境の整備や、適切な支援ツールの用意など、さまざまな施策が行われています。

4) シニア雇用促進

ダイバーシティ&インクルージョンの例として、シニア雇用促進も挙げられます。少子高齢化が進むこれからの日本では、シニア人材の雇用と活躍の促進が急務です。シニア人材が長く働けるように、「体力面にあわせた働き方の選択肢を整える」「経験を活かせる役割の付与を行う」などの方法があります。

5) LGBTQ+への理解促進

ダイバーシティ&インクルージョンでは、LGBTQ+(性的マイノリティー)の社員が働きやすい環境を作ることも重要です。LGBTQ+の社員にとって、社内での理解がないまま働くことは大きな苦痛につながり、場合によっては優秀な社員が退職してしまうこともあります。性的指向と職務の遂行には関係がないことを全社員が理解し、お互いを尊重し合えるよう、社内規定などの環境を整える必要があります。

6) 子育て支援、介護支援

ダイバーシティ&インクルージョンの施策には、子育てや介護と仕事を両立できるよう、育児休暇や介護休暇、フレックスタイム、在宅勤務制度などの支援を行うことも含まれます。柔軟な働き方をサポートするとともに、長時間勤務が困難な社員を不当に扱わないようにするための配慮も必要です。

4. ダイバーシティ&インクルージョンに取り組むメリット

ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みは、企業にさまざまなメリットをもたらします。以下の5点は、代表的なダイバーシティ&インクルージョンのメリットです。

1) イノベーションの創出

多様な人材の協働により、それぞれの経験や知識を活かした新しい発想が生まれやすくなる点は、ダイバーシティ&インクルージョンのメリットです。多様な価値観を組み合わせた柔軟な発想から、新たなビジネスチャンスが生み出されるかもしれません。アイディアの相乗効果が、新しい商品・サービスの開発や効率的な業務改善につながり、企業の競争力を強化する重要な要素となる可能性があります。

2) 社員のモチベーション向上

ダイバーシティ&インクルージョンによって一人ひとりの個性や価値観を尊重する職場づくりができれば、社員の働く意欲が高まる点もメリットといえます。個々の強みを発揮できる環境を提供できれば、組織に貢献していると実感しやすくなるため、仕事に対するモチベーションの向上につなげることも可能です。結果として業務効率や生産性が上がり、職場全体の雰囲気も良くなると考えられます。

3) 社員のスキルアップ

社員のスキルアップを図りやすくなることも、ダイバーシティ&インクルージョンのメリットのひとつです。多様性と受容が重視される職場では、異なるバックグラウンドや価値観を持つ人々同士で協働することで新しいアイディアや柔軟な思考を得る機会が増え、社員の視野が広がります。また、包摂的な環境があることで社員が失敗を恐れずに挑戦できるようになるため、新しいスキル習得や成長への意欲につながります。加えて、異文化理解やコミュニケーション能力、調整力など、ダイバーシティのなかで必要となるソフトスキルを自然に磨ける環境を構築することも可能です。

4) 信頼関係の構築

ダイバーシティ&インクルージョンのメリットとして、職場全体の信頼関係を構築しやすくなる点も挙げられます。多様な価値観や考え方を認め合う環境では、お互いの違いを受け入れ、尊重し合うことが当たり前になります。意見の違いがあっても柔軟に対応できるようになるため、お互いに共感や理解を持って接することでチームワークが向上し、より協力的で効率的な働き方ができるようになるかもしれません。

5) 企業イメージの向上

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業は、社会から責任ある企業として認知されやすくなるため、好感度を高められる可能性があります。株主や顧客などのステークホルダーの信頼が得られれば企業のブランド価値が向上し、株価上昇などの好影響をもたらすかもしれません。また、魅力的な職場環境を持つ企業として認知されることで、優秀な人材が集まりやすくなるメリットもあります。

5. ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みのプロセス

ダイバーシティ&インクルージョンを実践したいと思っても、「どのように取り組めばいいかわからない」という企業は多いかもしれません。そのような方がダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際には、以下のステップで行うことをおすすめします。

1) 経営戦略への組み込み

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みでは、特定の部門だけに任せるのではなく、最初に経営戦略に組み込んだ上で計画を進めていくことが重要です。ダイバーシティ&インクルージョンが経営戦略に不可欠であることを明確にした上で、目指す方向を定めましょう。具体的なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の設定やロードマップの策定を行うとともに、経営者自らが責任を持って取り組みをリードする体制が求められます。

2) 人事制度の確立

経営戦略にダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを組み込んだら、社員の多様な背景を尊重し、それぞれの能力や役割に応じた評価を行う人事制度を確立します。ダイバーシティ&インクルージョンの推進には、画一的な働き方を前提とした評価制度を改革することが必要です。多様な働き方に対応できるよう、社員に期待する役割を明確にして適切な評価ができる人事制度を確立させましょう。

3) 勤務形態・職場環境の整備

人事制度を確立したら、社員がより働きやすくなるように、勤務形態や職場環境を整備します。具体的には、フレックスタイムや在宅勤務といった、勤務時間や勤務場所の柔軟性を高める工夫が必要です。柔軟な勤務形態を可能にすることで、育児や介護、障害など、さまざまな問題を抱える社員も、自分に合った働き方を選べるようになります。

4) 管理職を含む社員の意識改革

勤務形態や職場環境を整備したら、管理職を含む社員の意識改革を行いましょう。多様性を受け入れ、一体感のある組織を作っていくには、社員の意識改革が欠かせません。特に重要なのが、管理職の意識改革です。さまざまな事情や背景を持つ社員に対応するため、管理職には柔軟で公平なマネジメントが求められます。社員一人ひとりの個性を理解し、適切に支援できるよう、管理職向けの研修などを行うのもひとつの方法です。

5) 継続的な情報共有の機会提供

社員の意識改革を行ったら、社員が日頃から気軽に意見交換ができるように、コミュニケーションを取りやすい仕組みをつくりましょう。情報共有の機会が増えることで社員同士の相互理解が深まり、チームワークの向上にもつながります。社内掲示板やオンラインチャットツールを活用したり、部門を越えた交流会を定期開催したりするのも効果的です。

6. ダイバーシティ&インクルージョンに関する法律・制度

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際には、関連する法律や制度について正しく理解することも重要です。ダイバーシティ&インクルージョンに関連する主な法律や制度は、以下のとおりです。

1) くるみん

「くるみん」とは、子育て支援に積極的な企業を厚生労働省が認定する制度です。認定を受けた企業は、育児支援への取り組み姿勢をアピールでき、ロゴマークを使用できます。

2) 女性活躍推進法

女性活躍推進法とは、働きたいと考えている女性が自由に活躍できる社会をつくる目的で制定された法律です。101人以上の労働者を常時雇用する企業に対して、女性の働き方に関する現状を把握し、行動計画を策定することを義務付けています。

3) 障害者雇用促進法

障害者雇用促進法は、障害者の安定的な雇用を促すための法律です。従業員が一定数以上の企業は、従業員に占める障害者の割合を法定雇用率以上にすることが義務付けられています。40人以上雇用している企業では、障害者を1人以上雇用しなければなりません。

4) 高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法は、働く意欲のある高齢者が安定的に働き続けられるようにすることを目的として制定された法律です。高齢者の雇用の確保や、高齢者が活躍できる職場環境の整備のための規定が設けられています。2021年4月の改正により、定年の70歳までの引き上げや定年制の廃止などが努力義務とされています。

5) 中小企業緊急雇用安定助成金・雇用調整助成金

中小企業緊急雇用安定助成金・雇用調整助成金は、困難な状況でも従業員の雇用を維持する企業に対して助成金を支給する制度です。景気変動により事業縮小を余儀なくされた企業が、従業員を解雇せず、休業などで雇用維持を図る場合などに、国から助成金が支給されます。

7. ダイバーシティ&インクルージョンの課題

ダイバーシティ&インクルージョンにはさまざまなメリットがある一方で、解決しなければならない課題もあります。想定される主な課題は、以下の2つです。

1) 価値観の変革への抵抗感

ダイバーシティ&インクルージョンを進めるには、多様性を尊重し合う企業文化が重要ですが、従来の価値観が根強い職場や、多様性を受け入れる意識が希薄な企業では、変革への抵抗感が生じるかもしれません。
例えば、性別や年代、国籍などによる無意識の偏見や固定観念が残っている場合、変革の必要性が理解されにくく、基盤づくりで苦慮する可能性があります。このような抵抗感をやわらげるには、教育や研修を通じて誤解や偏見を取り除くと同時に、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性やメリットについて理解を深める活動が必要です。

2) コミュニケーションの壁

異なる文化的背景や価値観を持つ社員が集まったときに課題になりやすいのが、コミュニケーションの壁です。言語や考え方、表現方法の違いから誤解が生まれ、意思疎通がスムーズに進まないこともあります。
ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際には、社員それぞれに多様なバックグラウンドがあることを前提とした意思疎通が求められます。文化の違いを理解し合う意識を育てるためには、企業側の支援体制も必要です。

8. ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際のポイント

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際にはポイントを押さえて導入を進めると、社内への浸透がスムーズに進みます。実際の取り組みを進める前に、以下のポイントを把握しておきましょう。

1) 経営トップによるメッセージの発信

ダイバーシティ&インクルージョンの推進には、経営トップが率先してその意義を伝えることが重要です。企業のビジョンや目指す姿を、社内外に向けて定期的かつ継続して打ち出すことは、ダイバーシティ&インクルージョンを長期的に浸透させるためのポイントといえます。

2) キャリアパスの明確化

ダイバーシティ&インクルージョンでは、多様な人材が成長しやすい職場を作るために、社員一人ひとりの目指すキャリアや成長目標を明確にすること、明確にした目標に向けた取り組みを支援することが必要です。これらのポイントを押さえることにより、多様な人材の可能性を引き出せるようになります。明確なキャリアパスは、自発的な学びと成長意欲を促進する鍵となるでしょう。

9. ダイバーシティ&インクルージョンを理解し、多様な人材が活躍できる職場づくりを進めよう

ダイバーシティ&インクルージョンの目的は、多様性を受け入れて社員それぞれが能力を発揮しやすい環境を作り、組織の創造力や革新性を高めることです。企業を取り巻く環境がめまぐるしく変化し、個人の価値観も多様化している昨今、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性はますます高まっています。誰もが働きやすい職場づくりを通じて、持続的な企業の成長を目指しましょう。
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この記事の編集担当

黄瀬 真理

黄瀬 真理

大学卒業後、システム開発に関わった後、人材業界で転職支援、企業向けキャリア開発支援などに幅広く関わる。複業、ワーケーションなど、時間や場所に捉われない働き方を自らも実践中。

国家資格キャリアコンサルタント/ プロティアン・キャリア協会広報アンバサダー / 人的資本経営リーダー認証者/ management3.0受講認定

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