中高年活躍に向けたシェアド・リーダーシップとは?

ミドル・シニア人材が再構築した新しい持ち味・スキルなどを組織の内外で発揮することができるようなるヒントを探るため、ライフワークスでは様々な研究者の方々にお話を伺っています。今回は、立教大学経営学部教授の石川淳 先生に伺った「シェアド・リーダーシップ」についてご紹介します。

2018.04.06
専門家コラム

まずは、石川先生が研究されているシェアド・リーダーシップについて教えてください。

石川: 従来のリーダーシップに関する議論の中でいわれている「リーダー」というのは、人をけん引するようなポジションに就いている人のことを指していました。そして、リーダーシップというのは、そういう人達が発揮するものだと考えられてきました。
一方で、シェアド・リーダーシップの考え方の中では、リーダーシップというものを「職場の目標達成に向けた他のメンバーへの影響力」と捉えます。ここで言う影響力というのは、人を巻き込んだり、方向づけたりするということだけではなく、それが、職場の目標達成につながるのであれば、弱っている人に声掛けする(見ていてくれている、よし頑張ろうとプラスな気持ちになる)といったことも含まれます。そして、この影響力を発揮している人=リーダーシップを発揮している人がリーダーということになりますので、ポジションのある・なしは関係ない訳です。誰しも影響力を発揮することができるし、発揮することが職場の成果につながるのだ、という考え方が、従来のリーダーシップ理論と大きく違う点だといえます。

ちなみに、シェアド・リーダーシップの多くの研究から、特定のポジションにある人だけがリーダーシップを発揮するよりも、様々なメンバーも発揮した方が職場の成果が高くなることが分かっています。

シェアド・リーダーシップを発揮するためにはどうしたらいいでしょうか?

石川: 例えば、緊急事態が起こったとしましょう。そのような時に全員がその状態を把握し、今自分が何をすべきか理解して自分ができることをきちんと発言する。そうすることでさまざまな情報が集まってきて、事態が収まるということがあります。反対に、事態に直面した人たちが、各自が目の届く範囲で状況を捉え、各々が最適化するための発言しかしないというようになると、事態が解決できないだけではなく、現場が混乱してしまうということもあります。
後者の場合、全員が効果的でないリーダーシップを発揮しているから混乱している。他方で、前者は、全員が現場で適切なリーダーシップを発揮していて、混乱は起きず、事態に効果的に対処していることになります。しばしば「皆がリーダーシップを発揮したら混乱するのではないか」と指摘されることがあるのですが、これは誤解ということがこの例からお分かりいただけるのではないでしょうか。

全員がリーダーシップを発揮することで、混乱する場合と、より一層効果的になる場合があります。このような違いが生じる理由は、事態に直面した人たちが、事態の全体を見ているか、自分に関係することだけを見ているかにあります。しばしば仕事の中で、部課長にならないとリーダーシップを発揮することができないといわれることがあります。それは、部課長にならないと、職場全体を見渡して、全ての情報を握ることができないと思われていることが理由の一つです。そしてこの理屈でいえば、全社員が部課長と同じくらい社内の全ての情報を持ち、部課長と同じくらい全体的な視点から自分の仕事を把握していれば、同じくらい適切なリーダーシップを発揮できるということになります。もちろん、適切なリーダーシップを発揮するためには情報共有が基本です。ですが、それ以上に全体的な視点を持つことが大事だということを、役職に就くもっと前の若いうちからエンカレッジすることが重要です。

シェアド・リーダーシップを発揮するためのもう一つの大切なことはリーダーシップ持論です。リーダーシップ持論というのはリーダーシップを発揮するために自分なりに持っている信念の事。訓練次第ですが、持論を鍛えることで誰もがリーダーシップを発揮できるようになります。本来、持論というのは一人よがりのものなので「こうやればうまくいくのではないか」「こうすれば人は動くのではないか」と試行錯誤しながら形成されていきます。特に経験が少ない場面などでは、やってみたら全然間違っている、うまくいかないという場合も当然あります。持論はそういったときに鍛え直す・バージョンアップしていく必要があります。
そして、鍛え直すためにはリーダーシップ持論についてのPDCAサイクルをまわすことが大切です。Pとは持論の仮説構築です。「この場面であれば、こうしたらうまくいくのではないか」といったように構築した仮説は、もちろん実際発揮してみる(D)。そこでうまくいくこと・いかないことをチェック(C)し、それを回すためにどう改善(A)すればいいか考えて、次のP;新しい仮説構築につなげ、実行するなどサイクルを回し続けることで持論は鍛えられていくという訳です。

今までPDCAサイクルを回した経験がないまま年を重ねた人でも、そのサイクルを回せるようになりますか?

石川: PDCAサイクルを本人が回す気になれば大丈夫だと思います。仕事の中の様々な場面で実は皆さんPDCAサイクルを回してきています。それを自分のリーダーシップの持論に当てはめて同じように回していくことができるのではないかと思います。
リーダーシップ持論は誰しも持っているもの。ですが、全ての人の持論が明示的かといわれると必ずしもそうではありません。つまり、持論が何なのかはっきりしないので、仮説もぼんやりしてしまいます。そういった場合は、PDCAサイクルを回すときに持論を明示化する作業ができるかどうかが重要になってきます。

チェックは自分で行うことができますが、フィードバックがあることで持論が一人よがりにならなくなります。持論をうまく鍛えていく中で最も大切なのはフィードバックを受ける機会があること。また、それを本人が受け入れることができるかどうかも重要です。チェックしたことは次のアクションに移して、PDCAを回していくということになるのですが、このサイクルを文章化して持論を鍛えていくこともお勧めです。完全には文章化できなくても構いません。次のPDCAサイクルの回し方をイメージできる程度の自分でわかるものがあれば十分です。自分の周りの人、偉人の行動、アカデミックな理論などの中に、いいなと思ったことがあれば、自分でも試してみて、トライ&エラーしながら学ぶというやり方もあります。

PDCAサイクルを回し続ける限り、リーダーシップ持論は進化し続けます。そのためには仮説を明示化すること、そしてそれを試し、周囲からフィードバックをもらうことです。もし、このようなことを企業が仕組みとして取り入れるのであれば、例えば、MBO制度の中にリーダーシップ持論について定性的な目標を立てて、職場の中でリーダーシップ面談をしてみるとよいかと思います。

役職定年などで、元上司だった人が、部下、メンバーになったときフィードバックも難しいかもしれませんが。

石川: 組織・職場において、ポジションに関係なく相互にフィードバックができるカルチャーが根付いていればいいかもしれません。フィードバックとは本来その本人の成長に役立つ情報の提供ですから、部下や年齢、性別によらず、様々な人たちからフィードバックをもらえるようなカルチャーが出来ていれば、例えば今までの上司が部下になっても、その立場には関係なく成長に役立つためのフィードバックが相互にできます。もしかすると役職定年後に著しくモチベーションが下がるということもなくなるかもしれません。
そして、こういったカルチャーを根付かせるためには、上司が自分自身でリーダーシップをどうやって発揮するのかという視点だけをもつのではなく、メンバーがどうやったらリーダーシップを発揮することができるのか、ということにも心を向けることが大切ではないかと思います。

シェアド・リーダーシップが発揮できるかどうかは残念ながら職場のリーダー的な人物にかなり依存します。リーダー的な人が自分自身のリーダーシップにのみ関心を払っていたり、メンバーに無関心になったり、ほったらかしにしていたりしたら、職場はシェアド・リーダーシップの状態になりません。上司はメンバーをきちんと観察し、腹を割って対話し、彼ら・彼女らにリーダーシップを発揮してもらうことに集中することが重要です。

最後に、シニア期のシェアド・リーダーシップの在り方について教えてください。

石川: シニア期のシェアド・リーダーシップの在り方の一つとして、会社の先輩としてリーダー的な役割を担ってもらうというよりも、チームメンバーがそれぞれにリーダーシップを発揮できるように支援する役割ではないかと思います。例えば、チームのメンバー同士互いにリーダーシップを発揮できるような促進役などがよいのではないでしょうか。

クリエイティビティの研究では、何人かが集まってチームになった方がクリエイティブなアイデアが出るといれています。さらに多様性が高いチームを率いることがクリエイティビティの発揮に適しているともいわれています。一方で、多様性が高いチームにはコンフリクトがつきものです。コンフリクトを避けるために権力を使うと、多様性が高いチームの良さが一気になくなってしまう可能性があります。そこで、権力を使わずにプロジェクトを成功させるために、あらゆる世代で仕事や人間関係のコンフリクトを経験してきたシニア人材に、コンフリクトを最小限に抑え、多様性によるクリエイティビティのメリットの享受を促進する役割を担ってもらうのです。具体的には、価値観や考え方が異なることを面白いと感じ、異なる他者を尊重し、自らの考えもきちんと伝えるようなグローバル・マインドの重要性をメンバーに理解してもらったり、それぞれが自らの強みを活かしてリーダーシップを発揮し、それぞれが他者のリーダーシップを受け入れるようなシェアド・リーダーシップの状態をチームに創り出したりする役割を担っていただきたい。そのためのシニアならではのリーダーシップを発揮していただきたい。経験豊富なシニアなら、権力など使わなくても、そのような職場にするための様々な工夫を知っていると思います。シニアにそのようなリーダーシップを発揮してもらえれば、チームはクリエイティビティの高い結果を生み出すことができるでしょう。

こういった、シニアらしいリーダーシップの発揮の仕方を経営が理解して、シニアの活躍を自社の事業展開の中に戦略的に取り入れ、人事部門と連携して仕組みや仕掛けをつくることができるかどうかが今後の企業競争力を高めるための鍵になるかもしれません。

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石川 淳 教授

立教大学経営学部教授。組織における人の心理・行動を主な対象とし、組織行動、リーダーシップ、モチベーション等を研究している。
慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、同博士課程修了。博士(経営学)。

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