役割創造プロジェクトとは何か?

ライフワークスが取り組んでいる「役割創造プロジェクト」を多くの方に知って頂くため、多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授、一般社団法人組織内サイレントマイノリティ 代表理事の須東 朋広氏、当社代表の梅本、当社チーフコンサルタントの野村による対談の様子をお届けします。

2017.04.25
専門家コラム

ビジネスを取り巻く環境や雇用を取り巻く環境が変わった

rc170425_02.jpg須東: ビジネスを取り巻く環境の変化、働く人を巡る雇用環境の変化、そして働き手自身のキャリア観が変わりました。
ビジネス環境については、「作れば売れる」時代、つまり高度成長期におけるGDPが毎年10%近く伸びた時代と、バブル崩壊以降のGDPが毎年1%前後しか伸びない現在はあきらかに違います。1970年以前、5年以上続くヒット商品は60%ありました。しかし、2000年以降は、5年以上続くヒット商品は5%しかありません。むしろ、ヒットする期間が1年未満の商品は20%近くになるのです。これは商品ライフサイクルが早くなっているということです。こういった環境では、イノベーションが求められますので、対応できない産業・企業は成熟期や衰退期に入ってしまうと言われていますし、残念ながら実際にそのような状態に陥った企業も多いように思えます。
雇用をめぐる環境は、人手不足が課題になってきています。ある統計資料によると、2014年に6587万人であった労働人口は、「経済成長ゼロでシニアや女性、若者などの参加が今までと変わらない」という想定であれば、2020年には6314万人、2025年は5800万人となるとされています。しかし「経済再生(2%程度の成長率)、労働参加が促進される」という想定であれば、2020年には6589万人、2025年は6362万人となるようです。特にシニアの労働参加が非常に重要で、雇用の在り方を変える必要があります。
こういった背景となる環境の中で働く人たち、つまり働き手を巡る環境では、70歳現役社会が迫っています。70歳現役社会だと、45歳が折り返し地点と言えます。例えば、かつての55歳定年社会であれば45歳くらいは、引退するための準備を始める時期でした。ところが、45歳が折り返し地点になると、引退を意識し始めるタイミングが10年以上先になってしまう。そうなると、キャリア形成の在り方もかつてと違って非常に難しい時代になってきたのかもしれません。
梅本さんは、45歳以降のキャリア形成の在り方についてどう思われますか?

rc170425_03.jpg梅本: 私たちは、仕事がらもありますが「70歳現役社会。45歳がキャリアの折り返し」というのは、ひしひしと感じますし、まさにそのような時代になったと実感しているのですが、働く人たちの多くは、そのことを感じていないのではないかと。特に、ミドル・シニア人材本人たちでも実感値を持っている人が少数、ほとんどいない人が多数というように分けられると思っています。
当社を設立した2000年当時のキャリア研修と言えば、例えば定年退職後を見据えてそれまでのライフプランとキャリアプランを一緒に考えて、さらに充実した人生を定年後も送ってもらう、といった福利厚生的なキャリア施策の一つでした。そのうち、定年が60歳から65歳に変わってくると、研修の色も「会社としては65歳までしっかり働いて欲しい」とか「60歳はまだまだあがりのポジションではありません」といったメッセージを強く出すようになりました。会社からミドル・シニア人材に期待をしっかり伝えるような時代になっていったという事もできます。
これが、現在では、ある事情があってしっかりと期待を伝えられないんです。バブル期に採用された人たちが、だいたい50歳代に差し掛かってきて、しかも大量にいる。その一部には言えても、すべてに、どんな仕事をしてもらうとか、どんな役割を発揮してもらいたいとか、明言できない。会社側がその答えを持っていないし、人事も提示できない。そうすると、本人たちに考えてもらわないといけないというようになります。ですが、本人たちがこれを考えて、自分から働きかけられるかというと、そういうことは簡単にできないように感じます。
例えば、ミドル・シニア向けの研修で「どう働くのか。どう自分の価値を発揮するのか」を問う場面があります。この時、答えを持っている人は限られています。きっと、これまで考えることをあまりしてこなかったのではないかと。あるいは、会社がキャリアの道筋のようなものを期待と一緒に示してくれていたので、考えなくてもよかったのかもしれません。
こういった、ミドル・シニア人材は、心の中では、会社が何か用意をしてくれて、この先も悪いようにしないう希望的観測。でもこのままうまくリタイアできないのではという複雑な不安。この二つを持ちながら働いているのがミドル・シニア人材の現状ではないかと思っています。


シニア雇用が人事の重い課題に、どうキャリア研修は変化してきているのか?

須東: 働いている人の状況は見えてきました。それでは実際、企業はどのような状態にあるのか教えていただけますか?

野村: 当社が行ったアンケート調査によれば、まず実態として、50歳以上のシニア社員の組織構成比が、2015年当時25%近くだったものが10年後の予測値では40%を超えるという結果が得られました。
こういった背景のある企業に「シニア層に関する問題についての意識」を聞いたところ、回答企業の80%が3年以内には解決すべきテーマで、かつ優先事項が高いと回答しています。具体的には、役職定年制度、定年後の再雇用制度後の報酬が現役のときから7割8割といった水準に変わることによる、ご本人のモチベーションの低下、意欲の減退による職場への影響、生産性低下につながるといったことが問題として多く挙げられていました。また、今後シニア世代が社員構成上のボリュームゾーンになっていきますので、その方々の職域開発問題やポストレス問題、期待・役割の明示ができないというジレンマがあるという結果が得られました。
先ほどの梅本の話も踏まえて整理すると、ミドル・シニアのキャリア研修の変遷としては、「セカンドキャリアのために今からどう準備していくのか」(キャリア1.0)から、「期待・役割に対してどう応えていくのか、組織の中でのキャリアをどう創っていくのか」(キャリア2.0)といった流れに変わりました。そして現在は、「期待・役割が明示されない中で、いかに組織貢献をしていくのか」(キャリア3.0)といったテーマに変わってきていますし、そのことがアンケート結果からも良くわかります。特にキャリア3.0のフェーズでは、企業が抱えるジレンマの解消が一番の課題ということがわかっているのですが、その一端をミドル・シニア本人とともに、というのが1.0や2.0との大きな違いでしょうか。

rc_cr123img.png


「役割創造」はなぜ必要か?「役割創造プロジェクト」の概要は?

須東: 「役割創造」というコンセプトを積極的に提唱されているのにはそのような背景があるのですね。具体的にどういうことがこのコンセプトには含まれるのか教えて頂けますか?

野村: 今までのミドル・シニアの方々は、安定した経営環境下、企業によって示された道筋の中でキャリア開発してきました。つまり人事権の下で職務を遂行し、成果を出してきたわけです。ですが、須東さんの冒頭のお話にもあるように、現在ではイノベーションが求められます。その中で成果を出さなければならない状況というわけです。例えばこのような状況では、働き手は企業が与える期待だけに取り組んでいくだけでは足りず、個々が持っている能力を主体的に発揮できることが重要な事だと言えます。特に、ミドル・シニアの方々の場合、20年30年と培ってきた経験、知恵、ノウハウというものをお持ちです。それを存分に自ら発揮できる事もイノベーションの源泉になるのではないかと考えています。企業もこの事を認識し、そしてミドル・シニア本人にも自覚して、考え、行動してもらう。こういったムーブメントが起こればということで「役割創造」というコンセプトを打ち出すに至りました。
ミドル・シニアの方々には長年培ってきたものをうまく転換し、自らが価値を発揮したい役割を、本人主体でどんどん提案してもらう。それを考えるためのプロセスが「役割創造」をコンセプトとして開発したプログラムには含まれています。

須東: プログラムについてもう少し詳しく教えて下さい。

梅本: プログラムの中の1つに「キャリアコンセプト開発研修」というものがあります。この研修では、自身の可能性や潜在的な能力を駆使して自身の役割創造できる可能性を考えていく、というような構成になっています。例えば、子どもの頃から現在まで振り返って自分の価値観や動機、どんなことをやりたいか考えます。振り返りもひとりで考えても気付けなくなったりしますので、職場の方からもらったメッセージを見たり、グループメンバーから多角的にフィードバックをもらったりします。そうすることで、自分では気づいてない、見えてないようなことも含めて、自分が持っている優れたスキルや知識を、わかりやすく言えば、「持ち味」として認識してもらいます。
その「持ち味」を使って、これからどんな領域で周囲に価値を提供していくのか、そういう場所や立場を創造していけるのかという事を、いろんな人からヒント、アイデアをもらって考えていきます。
もちろん研修は1つのきっかけにすぎませんので、その効果をさらに広げていくような内容がプログラムは含まれているわけです。

rc170425_04.jpg野村: その点を私からご説明します。このプログラムはミドル・シニアの方々が20年30年近く積み重ねてきたものを、色々な観点から光を当てることによって導き出すように構成されています。
その結果として、役割創造を実現していく様を、私たちは次の4つの象限に分けて整理しました。「新しい領域に挑戦して価値を発揮する方」なのか「これまで積み重ねてきた経験とかノウハウ、つまり既存の領域で価値を発揮している方」なのかを分けます。そして、その価値の発揮する場面、場所が「自身が所属する企業の中」なのか、あるいは「企業の外でつくった役割の中」なのか。大きく分けるとこの4つの象限で、役割創造している人たちがいると考えています。そしてプログラムも、対象の方々が、45歳以降の後半戦キャリアにおいて、自らが役割創造するために4つの象限のどこに自分は向かっていくのか考えてもらうように作られています。

rc_4thimage.png

研修を受けると、受講者は自己理解が進み、キャリアの方向性が整理することができ、キャリアコンセプトを導き出していきます。ですが、そのコンセプトに沿って実践するとなるとなかなか難しいということもあります。そこで研修を受けた後の工程として、具体的には、ビジョンをつくり、目標に対してどうやって実現していくのか、そしてそのためのPDC(プラン・ドゥ・チェック)を回していく、そんな仕掛けも設けています。私たちは、この後工程の要素も役割創造には重要な過程だと考えているわけです。
例えば、図のDを目指す人があらわれたとします。この象限を選んだ人の場合でも、長年ひとつの会社で働いてきた人などは、いきなり今までとは違った世界に飛び込む、ということに躊躇したり、踏み込めなかったりするかもしれません。そこで越境を促すようなプログラムをご用意し、今までとは違った分野・領域で、自分がこれまで培ってきたことの活かし方を実感していただきます。それらを踏まえた上で、具体的な行動を起こしていくプロセスを、役割創造プログラムの中に組み込みます。具体的には3つ。一つ目は本人がきちんと何ができるかを明確にすること。2つ目は自分の未来と社会に目を移して何が課題なのかを見出すこと。3つ目はそれらの状況から新たな役割を創り、学習や内省をして自分のキャリア観をつくる、という具合です。


ミドル・シニアが活躍できるためのキーマンは管理職

須東: プログラム詳細のご説明をありがとうございました。では、ここから議論させてください。私はとても魅力的なプログラムのような印象を受けた一方で、企業に実際導入しても、ミドル・シニアが活躍できるようになるかどうか、ピンとこないという方が一般的なようにも思えます。実際にこういう研修やプログラムを通して、ミドル・シニアが活躍できるようになるにはどういう事が重要なのでしょうか?

梅本: 私は管理職がキーマンになるのかと思っています。ミドル・シニアの方がこんな役割創造したいと持ち帰ってきたときに、ぜひその真意を探る人であって欲しいです。

須東: 今まで研修を通して役割創造したいと思っているミドル・シニアの方がいたけど、その後実際なんの音沙汰もない、というようなことがあったのですか?

梅本: そうです。あとは、そういうことを受け入れる職場の雰囲気ではなかったという話も聞きます。せっかく良い役割創造しても職場に持ち帰って実現しない、実行できないままと聞くと非常に残念です。

野村: 管理職の中には、「あのシニアの人にはこういう仕事は無理だ」とか、なんとなくそういう先入観を持っていたりする人もいるのではないかと思います。

須東: そうなると、ミドル・シニアに対する管理職のマインドセットがカギを握りますね。

野村: 管理職のマインドセットも重要なのですが、会社としてミドル・シニアをどう扱うのかというような人的資源管理上のポリシーを明確にすることが前提として重要ではないかと考えています。ミドル・シニアを会社の人材資産と考えて、より活用していく方針で行くのか、あるいは雇用義務を果たしていくために、総額人件費を管理しながら雇用し続ける対象と位置付けるという方針にするのかで、ミドル・シニアに対する期待値が全く違ってきます。後者の位置づけでは、やはり管理職も彼らを活かそうとしないでしょう。ですが、前者の方針によって、ミドル・シニアが、人材資産としては極めて稀有な人材であって、活かし方によっては、イノベーションが生まれると捉えているのであれば、管理職もそういった対象としてマネジメントしていこうと思うはずです。繰り返しますが、重要なのは企業の求めるミドル・シニア人材観はどうあるべきなのかを明確にすること。その次に管理職はどうミドル・シニアに対して関わっていくのか、向き合っていくのかを考える。マインドをセットする。欲を言えば、適切な支援の仕方も学ぶ。こういうことが今後極めて重要であり、本質的なテーマだと考えています。


役割創造する人・しない人、40代からでもチャレンジする意欲は醸成できるのか?

須東: 役割創造する人もいれば、しない人もいるのではないかと思うのですが、何か違いみたいなものはあるのでしょうか?

野村: 役割創造していると思われる人たちにインタビューをしてみると、概ね30代ぐらいまでに大きな変化に必死に対応し乗り越えた経験を持っていました。その乗り越え方を様々な場面再現し、色々な変化に柔軟に対応されたようです。また、そういう経験を持っている方は、これからも色々な変化を自ら起こしていく、そのためのチャレンジを行っていきたいとおっしゃっています。

須東:役割創造している人は新しいことにチャレンジして自己効力感が高まり、その自信をもとに行動し続けているとのことですが、40代からでもチャレンジ出来るのですか。

野村: 40代以降は、色々な変化が自分の周りや自分の内面にも起こってくると思います。それを一旦内省してみる。具体的には、変化を乗り越えるために自分は今まで培ってきたどの能力を発揮すれば、成功できるのかシミュレーションする。そしてダメもとでもいいから実行してみる。そのことが成功しても失敗してもそこで何を学んだのか内省して、次のステップに行くというのが大事かと思います。ただ、なんとなく変化に合わせて、受け止めて適応してきた人と、意思を持ってそれを乗り越えてきた人では、その後に活かされるものが違うと見ています。意思を持って主体的に行動することが前提です。それが出来れば40代からでもチャレンジできるのではないかと思います。
変化を越えて、かつその変化に対応した経験を次に活かす。それから変化を楽しむ、前向きに捉える方は、年齢には関わらず役割創造することに向いているのかと思います。


企業事例や個人インタビューを通して「役割創造」を実現していきたい

野村: 今回、役割創造というコンセプトを打ち出すことで、個人の役割創造はどんな状態なのか、それをどう実現していくのかということ。そして会社は役割創造をどう支援しているのか、できるのかということを具体的に発信していきたいと思っています。その思いで「役割創造プロジェクト」というWEBサイトを立ち上げました。様々な企業を取材し、自社のミドル・シニアに対する人材観や活躍に向けた取り組みの在り方について伺います。役割創造していて活躍しているミドル・シニアの方々を取材し、役割創造がどういうきっかけで始まり、何を考え、どのように行動してきたのかといったことを伺います。こういった取材を通して得られた情報を、役割創造のために必要なデータなどとともに世の中に広めていく。そうやって「役割創造」を発信し、「役割創造」をできる限り皆さんと分かち合いたいと思っています。どうぞ宜しくお願いします。

おすすめ記事

専門家コラムの一覧へ戻る