役割創造コンセプトプログラムとは(3/全3回)〜キャリア越境学習プログラムが担うものとは〜
当社が提唱する「役割創造」のコンセプトに基づいて構成したこのプログラムの特徴について、主に関わっていただいている方々にそれぞれの専門領域の目線から語っていただきました。
今回は、越境学習プログラムでご協力いただいている塚本さんに話をうかがいました。
キャリア越境学習プログラムの内容とその目的を教えていただけますか?
塚本:NPOや中小・ベンチャー企業などの支援対象の組織や企業に対し、リアルなケースメソッドとして5日間ないし3日間関わっていただき、「マーケティング戦略を考える」「事業計画を立案する」など、その組織の具体的な課題解決の支援に取り組むのがキャリア越境学習プログラムの概要です。
このプログラムには大きく2つの目的があります。1つめは、所属企業の考え方が通じない組織があることを肌感覚で受講者に知ってもらうこと。受講者の多くを占める大手企業など規模の大きな会社で長年キャリアを積んでこられた方は、その企業の考え方が染み付いています。一方で、プログラムの受け入れ先であるNPOや中小・ベンチャー企業は、大手企業とはまったく異なる文脈でビジネスを行っています。そして、前者の常識を後者に持ち込んでも通用しないことがあります。ビジネスにおいて異なる業種や規模の企業の課題を考える経験は、アウェーな環境に身を置くことになり、「知らない」ということに対処する、相手の状況に置き換えて思考する、という新しい学習の機会になります。参加される皆さんにはそのこと自体を体感していただくことがまず一つ意義のあることだと考えています。
2つめは、受講者がこれまで培ってきたスキルや知識のうち、社外でも使えるもの、いわゆるポータブルスキルに気づき、それを鍛えてもらうことです。「これからの自身のキャリア」や「これから生かせるスキル・知識」は、確かにキャリアコンセプト開発研修やキャリアコンサルティングを通じて整理することができます。ですが、頭の中で考えるだけでは実感がわきません。さらにいえば、社外で使えるものとなると、なかなか日ごろの仕事の中では、見つけ出すことも難しいと思います。そこで、このプログラムを通じて社外の組織で生きた課題をテーマとして与えられ、さらには「自分が役に立たなければいけない」という状況に置かれることで、「今ここで自分に(が)できることとできないこと」を把握し、社内外で通用するスキルや知識の境界を明確にしていくのです。
他にも、「自分が会社の名前や肩書で仕事をしているかもしれない」ということに気づくきっかけにもなるのではないかと思います。例えば、「支援対象が開発した新商品を拡販するには」という課題の場合、自社であれば社名を言えば誰にでも通じているかもしれませんが、支援対象企業の多くはそもそも知名度がないことが課題の一つだったりもしますので、そうはいきません。自分が所属している企業なら持っているものも、他の企業は持っていないという前提で物事を考える難しさを感じることができれば、本当に自分ができることに目が向いていくと思います。
実際のプログラムはどのように進行していくのでしょうか?
塚本:5日間のプログラムを例にお話しすると、基本は、2週間おきに計5日間のスケジュールで進みます。大きな流れとしては、2日目と4日目が支援対象に対するヒアリングを行う時間、最終日が考えた戦略や計画を支援対象に向けて発表する時間というような具合です。
参加者は異なるバックグラウンドを持つ人たちと4〜5人のチームを組んで支援対象の組織や企業が抱えている問題や課題について解決策を検討します。チームは、参加者が同じ企業の方同士ならば異なる部門に属する人で構成し、公開型プログラムの場合なら複数の企業の方で混成チームを作るといった具合に、できるだけ多様性を持つようにしています。そうすることで、1人ひとりがシェアド・リーダーシップを発揮することを期待しています。
受講者の方は、受講前と受講後ではどのように変化されますか?
塚本:皆さん、支援対象の課題の意外な難しさ気づくと、謙虚になられます。相手と目線があってくるというか。最初はどこか上から目線で、たとえば支援対象の組織のビジネス規模が小さい、利益が少ない、等という現状に対して「たいしたことない会社だな」と単純に評価します。ところが、実際に課題をヒアリングして対策を考えるとなると、「たいしたことない会社」に適切なアドバイスが浮かんでこないということが現実的に起こります。そうして、発言や態度がどんどん謙虚になり、支援対象企業のためにゼロベースで思考するようになります。最初は「ダメだ」と評していた支援先に対して、謙虚な気持ちを持ち、自身が同じ目線で考えて最善の案を考え、少しでも役に立とうとする行動変容が起こるのです。
この「謙虚な気持ち」は、最終日の支援対象への発表まで続くことがほとんどです。発表を終えて、支援対象の反応やフィードバック、そして支援対象から引き揚げた後の個人での振り返りを通して、つまり自分の考えやアイデアの中から認めてもらえたものとそうでなかったものを発見・整理することができます。そこで初めて、ポータブルスキルとして使えそうな知識やスキルについてだけでなく、マインド面も含めてどのようにすれば良いか、自分でわかってくる場合が多いですね。
なるほど。では最後に、どんな方にこのキャリア越境学習プログラムを受講してほしいとお考えですか?
塚本:まずは、40代後半から50代の社員の方かなと思っています。
多くの企業では、主に40代後半~50代の社員に対して、支援者としての役割、例えば、メンバーの迷いを冷静に受け止めて的確なアドバイスのもとに後押しするなど、うしろで舵をとってくれるような役割を期待しています。さらに、新規事業の支援は、例えばマーケティングと会計など、複数の得意分野がある人に向いていると言われています。50代にもなると、異動経験もあるため複数の得意分野を持っている人も多いでしょうから、このプログラムを通してスモールビジネスを大きくするために必要な知識やスキルと、自身のポータブルスキルを把握し、それを所属する企業の中で生かす場を見つけるきっかけにしていただければと思います。
また、新規事業や社内の比較的小さな活動をブレイクさせたり、大きくしたりすることを支援する役割を期待されている方や、そこに役割を見出したいと考えていらっしゃる方も対象として良いのではないかと思います。
この研修はマーケティングや経営戦略に関連した課題、とくに事業や知名度などの「現状、小さいもの」をどのように大きくしていくかという課題に取り組む場合が多いのです。したがって、社内に戻ったときに小規模の事業や活動をブレイクさせる、大きくするといったことにここでの経験を生かしやすいと思います。
更には、管理職の方ですね。特に大手企業の管理職の方々の多くは、目標管理と現場への指示が業務の中心で、自ら実践することはほとんどしていないという、ある種の定式化した環境に置かれている可能性が高いと思われます。
ところが、退職後は、再び大手企業を渡り歩く人は一握りで、多くの人は遅かれ早かれ、皆、地域のコミュニティや中小企業、起業するなど、現状よりも小規模な組織に対峙する時期がきます。また、企業内においても新規ビジネスなど、最初から大きな事業はなく、そこに向きあわなければならない場面もあります。そのときに、小規模な組織と同じ目線で物事を考えたり、自分の役割を見出したりできるかというと、大企業の文脈に長年漬かってきた人にはなかなか難しいものがあります。だからこそ、早い段階で小規模な組織でリーダーシップを発揮する経験し、これまで培ってきたスキル・知識の中から役に立つものと役に立たないものを把握しておくことが、退職後に役割をスムーズに見出すことにつながると思います。もしかすると、役職定年後や定年後に再雇用で働く時なども"自分が影響を持つことができる範囲が狭くなる"という意味では同じことが起きるかもしれません。いずれにしても、こういった変化に対する準備は今から始めていただきたいですね。
塚本 恭之
大手製造業での経験を経て、 2014年にナレッジワーカーズインスティテュート株式会社を設立。プロボノを通じた人材育成をするとともに、大手金融機関やメーカーなどの研修を行っている。
経済産業省 中小企業診断士 情報処理技術者(システム監査技術者、ITストラテジスト等)。