ミドル・シニア人材のキャリア停滞

2017年9月14日の特別講演に登壇頂く青山学院大学経営学部の山本寛教授に、コラムを寄稿頂きました。講演のテーマでもある「ミドル・シニア人材のキャリア停滞」について、この機会に皆さんも考えてみませんか。

2017.07.26
専門家コラム

1.ミドル・シニア人材のキャリアの停滞とは

組織のミドル人材、シニア人材にはどんなイメージをもたれるでしょうか。課長として強いリーダーシップを発揮し、課員をぐいぐい引っ張っているというイメージでしょうか。何となくマンネリ化して、周りからもあまり頼りにされなくなっている姿でしょうか。もちろん、色々なイメージが浮かぶことと思います。しかし、多くの人々が後者のようにみられる可能性があるというのも、また事実といえます。他方、企業トップのミドル・シニア人材への期待は大きいものがあります。そして、それに必ずしも応えられていないという声も多く聞かれるのです。この問題を考える切り口の一つがキャリアの停滞なのです。
代表的なキャリアの停滞には、昇進の停滞と仕事上の停滞の二つがあります。
昇進の停滞は、今の会社で将来昇進する可能性が非常に低下することを指します。仕事上の停滞は、仕事をしていて新たな挑戦や学ぶべきことが欠けていたり、ワクワク感や成長実感を感じない状態をいいます。ミドル・シニア人材において、以上のキャリアの停滞についてみていきましょう。

2.ミドル・シニア人材の昇進の停滞とは

まずは、昇進の停滞です。図表1は、50歳代前半の大卒男性における役職者比率の推移を示しています。年齢的に、これまで会社のなかで最も上位まで昇進した層といえます。

図表1 男性大卒50~54歳役職者比率(産業計100人以上規模)
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出所:日本労働組合総連合会(2016)連合・賃金レポート2016

1990年代までは(部長+課長)の比率が50%を超えていましたが、2000年代以降減少を続け、近年では40%程度です。これに対し、非役職者の割合が年々増加していることがわかります。実は、他の調査でも、部長、課長など管理職に昇進する人の割合が減ってきているのです。同時に、管理職の平均年齢も上昇し、昇進面でキャリアの停滞状態にある人は増えているのです。ミドル・シニア人材の現在、将来の昇進の停滞を表しているといえます。
キャリアの停滞が本人の問題にとどまっていれば、企業には直接の影響はないかもしれません。しかし、キャリアの停滞は企業の業績への影響が考えられるのです(図表2)。

図表2 昇進の停滞の程度による社員の分類
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出所:フェレンスら(1977)p.603より一部修正して引用。

これは、将来の昇進可能性が低く停滞している社員を、業績の高い「堅実な人々」と低い「無用な人々」とに分け、昇進可能性が高く停滞していない社員を、業績の高い「スター」と低い「新人」とに分けたものです。そして、多くのミドル・シニア人材が堅実な人々に含まれると考えられます。この層は多くの組織で最も人数が多く仕事のかなりの部分を担っていますが、彼らへの対策はほとんど行われてきませんでした。そうなると、モチベーションが高く業績もあげながら、管理職位不足のため昇進可能性が低いミドル・シニア人材が、モチベーションや業績が低下する可能性が大きいのです。そうした状況、つまり、無用な人々に移行することをいかに防止していくかは、組織の重要な課題といえます。

3. ミドル・シニア人材の仕事上の停滞とは

ミドル・シニア人材だけでなく、働く人の仕事上の停滞には、大きく分けて二つの原因があります。一つは、長く同じ仕事を担当することでその仕事をマスターしてしまう、つまり、同じ仕事を繰り返し続けることによるマンネリ感が原因となるものです。仕事のルーティン化ともいえます。一部の高い専門性を要する仕事を除くと、多くの仕事は3年でマスターできるといわれているからです。ミドル・シニア人材は、これまで多くの仕事を担当し、そのため、何度かマンネリ感を感じたことがあると思います。しかし、マンネリ感自体は「解消」することも多いのです。例えば、異動によって仕事や人間関係が変わったり、研修などで刺激を受けることがそのきっかけとなります。つまり、マンネリ化→解消→マンネリ化→解消→...。このように、働く人の多くが、このサイクルを繰り返すのです。
しかし、ミドル・シニア人材でこの停滞が特に深刻なのは、人はキャリアを重ねるにつれ、異動や研修などの「変化」によるプラスの影響を受けにくくなるからなのです。そして、マンネリ状態が解消されても、20代のように、ワクワク感や強い成長実感を感じなくなるからです。その結果、会社が求めるような高い業績を挙げられなくなる可能性があるのです。実際、40代の男女は、直近の1年間で仕事上ワクワク感を感じていないと答えた人が5割を超えているという調査結果もみられます(産業能率大学, 2012)。
二つ目として、職場で与えられた仕事が量的・質的に過大で、社員の能力を明らかに超えている場合です。当然、目の前の仕事をこなすことに忙殺されてしまい、新しい仕事のやり方を工夫したり、仕事に喜びを見出せないことにつながります。この状況は、管理職、特に課長になりたてのミドル人材にも当てはまります。現在、多くの組織では、課長の多くがプレイングマネジャーの役割をもっています。その結果、本来、管理職として、リーダーシップの発揮や部下の指導・育成に注力しなければならないのに、これまで同様一プレーヤーとしての仕事にかなり時間をとられることになります。その他、事務量が多く手間もかかる目標管理業務や会議への出席が増え、自分の課の将来を戦略的に考えること、自分が異動した時に備え後継者を育てていくサクセッション・マネジメントを考える余裕がなくなるでしょう。
これら以外にも、仕事上の停滞と関連するキャリアの停滞として、配置転換の停滞があります。これは、今の部署(部や課)に配属されてからの年数が他の社員に比べ特に長くなったり(「塩漬け人材」と呼ばれます)、いつまでも会社の重要な部署に配属されないことをいいます。例えば、塩漬け人材になれば、マンネリ化して仕事上の停滞に陥るでしょう。現在多くの組織で、さまざまな仕事を経験することで多様な能力を開発してもらうため、計画的に社員を異動させるという方針(ジョブローテーション)がその通りにいかず、滞っているという声がきかれます。さらに、ジョブローテーションの運用自体、30歳代止まりであり、それ以降は将来の経営層候補に限られるという傾向もみられます(菊野,1989)。これらによって多くのミドル・シニア人材が仕事上の停滞に陥っていると考えられるのです。

4. ミドル・シニア人材でより危険なキャリアの停滞

昇進の停滞と仕事上の停滞の二つが重なった場合、単独の場合と比べて本人への影響はどうなるのでしょうか。
いくつかの調査結果によると、両者が重なるとマイナスの影響が大きくなることがわかってきました。例えば、仕事上の停滞が仕事への満足感や組織への帰属意識を低下させる関係は、昇進が停滞しているほど強まるといいます(マクリースら,2006)。同じく、二つの停滞が重なった人の仕事への満足感や組織への帰属意識は、それぞれ単独の停滞の場合より低く、逆に、憂鬱感や転職したいという意思は昇進の停滞(単独)より高かったのです(アレンら,1998)。ミドル・シニア人材の場合、一部の人が順調に昇進する一方、多くの人が昇進の停滞に陥っているとすれば、さらに仕事上の停滞が重なるとそのマイナスの影響はより大きくなるといえそうです。ここでも、組織による何らかの対策が必要なのです。

本コラムでは、ミドル・シニア人材のキャリアの停滞の重要性について述べてきました。9月14日(木)の特別講演では、ミドル・シニア人材のキャリアの停滞の違いや、本人が停滞にどう対処できるか、上司や組織がどのような支援ができるかについてもお話ししたいと思います。(紙幅の関係で引用文献の記載は省略)

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山本 寛 教授

早稲田大学政治経済学部卒業。その後、銀行、市役所に勤務、大学院を経て、現在青山学院大学経営学部教授(人的資源管理論担当)。博士(経営学)。
働く人のキャリアの発達とそれに関わる組織のマネジメントの問題が専門。
日本経営協会・経営科学文献賞(01年)日本労務学会賞・学術賞(02年)経営行動科学学会・優秀事例賞(04年・共同受賞)など受賞。

主な著書
『人材定着のマネジメント-経営組織のリテンション研究』中央経済社
『転職とキャリアの研究[改訂版]-組織間キャリア発達の観点から』創成社
『働く人のためのエンプロイアビリティ』創成社
『昇進の研究[増補改訂版]-キャリアプラトー現象の観点から』創成社
『働く人のキャリアの停滞-伸び悩みから飛躍へのステップ』創成社
『「中だるみ社員」の罠』日経プレミアシリーズ

特別講演「ミドル・シニア人材の今日的なキャリア停滞とその支援について考える」の概要はこちらから。

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