キャリアコンサルタントは、国の労働政策を担い、一人ひとりの「キャリア自律」を支援する存在に
「人生100年時代」を迎え、ますます重要になっている「キャリア自律」。企業は従業員の「キャリア自律」を支援するためのキャリア開発に力を入れていますが、その中で期待されているのが、キャリアコンサルタントによる支援です。設立以来、キャリアコンサルタント(キャリアカウンセラー)の技術や地位の向上に努めているキャリアカウンセリング協会(CCA)の藤田真也理事長に、キャリアコンサルタントの重要性と今後求められる要件について、弊社の代表取締役・梅本がうかがいました。
2016年国家資格に。2023年までに10万人の養成を計画
梅本:キャリアコンサルタントは2016年から国家資格になりましたね。キャリアコンサルティング協会(以下、CCA)が設立当初から輩出してきた「GCDF-Japan」のキャリアカウンセラーも含めて、今後ますますキャリアコンサルタント(※1)の重要性が高まってきていますし、その活動が注目されているのではないかと感じています。
※1 本稿では、「GCDF-Japan」のキャリアカウンセラー等も含め、キャリアコンサルタントと表記。
藤田:国家資格のスタートに伴って、「GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム」は厚生労働大臣認定「キャリアコンサルタント養成講習」に認定されました。これに伴って、プログラムを受講修了すれば、GCDF-Japan資格と国家資格であるキャリアコンサルタント試験の両方の受験資格が得られるようになっています。
キャリアコンサルタントの認定養成講習を実施している機関はCCAの他にもあり、現在18講習が認定されています(2018年5月11日現在)。CCAはキャリアコンサルタント養成の専業機関として養成講習や試験、資格認定だけでなく、継続学習から指導者養成まで一貫した幅広い活動を行っています。
私たちはこの活動を通して、キャリアカウンセリングの重要性を広く普及すると共に、その担い手となるキャリアコンサルタントの技術や地位の向上を目指し、職業として成立するための支援を行っています。
国家資格の保有者は、2018年5月末時点で約3万5000人を超えていて、国は2023年度末までに10万人を養成することを計画しています。私たちはキャリアカウンセリングが普及することで、働く人一人ひとりがそれぞれの人生のステージで、より自分らしい生き方と働き方を選択し、その能力を発揮できる社会の実現に寄与する、という理念を掲げています。これを実現するために、質の高いキャリアコンサルタントを育成し、一人ひとりの質を継続的に高め続けることを最重要テーマとして活動しながら、この計画に関わっています。
梅本:当社は2016年に「働きがいを、すべての人に。」というビジョンを定め、設立当初から事業としている「組織で働く人のキャリア自律」をもっと多くの人に実現していただけるように取り組んできています。ここ数年では、働く人のキャリアはますます多様化し、その支援をするためにも、私たちもより幅広い知識をもったキャリア支援サービスを提供できるようにならなければと思っています。こういった意味では、キャリアについての専門性が問われているともいえますね。
国の労働政策の担い手として重要性が高まる
梅本:現在、キャリアコンサルタントの重要性が高まっている理由や背景についてはどのようにお考えですか?
藤田:二つあると考えています。一つは、キャリアコンサルタントが国の労働政策の担い手として期待されていることです。
日本の労働人口が減少するなかで生産性を高める方法の一つとしては、これまで労働市場に入ってこれなかった人材が新たに労働市場に参入できるようにすることが必要です。たとえば、定年でリタイヤした方や、育児や介護のために働くことが難しかった方、病気や障害を理由に働くことが難しかった方などです。こうした方々が労働市場に参入し、活躍できるように支援することがキャリアコンサルタントには求められていると思います。
そのことは、最近見直されたキャリアコンサルタントの能力要件を見ればわかります。この要件においては、「キャリアコンサルティングを行うために必要な知識」として、職業安定法や労働基準法などの基本的な労働法規はもちろん、高齢者雇用安定法、障害者雇用促進法、育児・介護休業法、女性活躍促進法などの法律やその背景にある労働政策についての学習が必要になりました。法律の内容だけでなく政策動向まで理解することが求められています。これまでは、「労働政策」や「動向」という言葉は入っていませんでした。
梅本:当社がお手伝いする企業でも、そういった法律や政策に対応すべく、様々な制度や施策を導入されていますし、その対応の中で「自社で働く人を活かしたい」という想いなどから、研修を含めて様々なキャリア開発施策をすすめています。当社は、ミドル・シニアの方のモチベーション維持、仕事と育児や介護の両立の実現、働く女性がライフステージの変化の中で抱える不安の解消など、一人ひとりが「働きがい」を持って働く上でのバリアが少しでもなくなるようなお手伝いをしてきました。今日国が進めている働き方改革も含めて、今後も国の政策や動向に注目しながら、世の中の要請にあわせながら企業やそこで働く人の支援していく必要があるということになりますね。
モデルなき時代に一人ひとりのキャリアづくりを支援
梅本:キャリアコンサルタントの重要性が高まっているもう一つの理由・背景は何でしょうか。
藤田:もう一つの理由は、働き方の大きな変化にあります。一昔前は、キャリアモデルが企業の中にありました。しかし、もはや一つの企業で60歳の定年まで勤め上げ、後は悠々自適の余生を送るといったキャリアプラン・ライフプランは描きにくい。
副業や兼業、派遣など働き方の多様化も進んでいます。一人ひとりがどこの職場でどんな仕事をしていつまで働くかというように、自分らしいキャリアをつくることが必要です。自分らしく、働きがいを持って働けるように、キャリアコンサルタントが人生の局面に関わり、深い対話を通して支援していくことが求められているのではないでしょうか。
梅本:当社の場合は、研修を受けた方が気づきを得て職場に戻り、行動を起こして周囲の協力を得ながらキャリア自律をしていくこと一つの目的としていますが、実際にはまだ壁があります。その点、一人ひとりと深い対話を通して支援するキャリアコンサルタントと連携することで、この壁を低くできるのではと考えています。
例えば、ある企業では、キャリア研修の後に一定期間を置いて受講者にキャリアコンサルティングを実施しています。研修を終えてもまだ今後のキャリアの見通しが立たない人にはもっと具体的なイメージができるようにしたり、具体的にイメージできていても周囲との関係に課題を感じている人には周囲とのかかわり方について掘り下げたり。キャリアコンサルティングの場を通じて、一人ひとりが小さくても次の一歩に踏み出せるような深い対話ができればと。
藤田:対話による支援にとって重要になるのが、"その人が何のために働くか"ということだと私は思っています。単に食べるためだけではなく、その人にとって働きがいがある仕事でないと、幸せな人生は送れません。キャリアモデルがなくなって働き方が多様化している中で、一人ひとりが自分らしい働き方を選べるように支援するには、より質の高いキャリアコンサルティングが必要になります。
梅本:キャリアコンサルタントは、多様な人が高い生産性で働くことができるように支援するというふうに、ある意味で国の政策で引き受けるような役割の担い手としてだけではなく、働く人一人ひとりが自分らしいキャリアを見つけることができるような手助けをする役割の担い手としても重要性が高まっているのですね。
これからのキャリアコンサルタントに求められること
梅本:従来のキャリア開発支援といえば、福利厚生的な意味あいが強いものだったと思います。そういった時代には、キャリアコンサルタントに求められることも同じようなことだったのですが、現在ではその意味合いが変わってきているように感じています。
藤田:確かに以前のキャリアコンサルタントは、職場にうまく適応できなかったり悩みを抱えていたりする人の相談に乗って、問題を一緒に解決していくという役割の側面が強かった。しかし、これからは企業の人事施策やキャリア支援施策に深く関わり、企業経営を前に進めるためのパートナーとしての役割が求められます。そのため、例えばMBO(目標管理:Management by Objectives and self control)やパフォーマンスマネジメントを理解していないキャリアコンサルタントは企業が求める課題には対応できないといってもいいかもしれません。
梅本:そのことは先程うかがった「見直された能力要件」にも示されているのでしょうか?
藤田:はい。「キャリアコンサルティングを行うための必要な知識」として、国が導入を推し進めるセルフ・キャリアドック(※2)など、「企業内キャリア形成に関わる支援制度の整備と、その円滑な実施のための人事部門との協業や組織内の報告の必要性及びその方法の理解」が求められています。つまり、これまではなかった組織に対するアプローチがキャリアコンサルティングにとって重要な意味をもってきているのです。
※2 セルフ・キャリアドック=企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施することを通して、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み(厚生労働省「セルフ・キャリアドック導入支援サイト」より)
梅本:キャリアコンサルタントに求められる要件がどんどん増え、より高いレベルが求められているのですね。その期待に応えるためにCCAが新たに取組んでいることはありますか。
藤田:最初にお話ししたように私たちCCAの理念は、質の高いプロのキャリアコンサルタントを育成することです。そのため時代に応じて求められる要件をいち早く「GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム」に取り入れるとともに、質を継続的に高めるための各種講座を開発し、学習支援を行っています。
この一環で、たとえば、今年新しい講座として「キャリアカウンセラーのための組織開発技能トレーニング」を始めました。これは、企業内にセルフ・キャリアドックを導入する際に必要となる組織コーディネート力を学ぶための講座です。大変な反響があり、あっという間に定員が埋まりました。
梅本:当社でも、昨年度「セルフ・キャリアドック」導入をテーマとしたセミナーを開催して、たくさんのお客様に来場いただきました。それだけ、このテーマには関心が集まってきているのでしょうね。ですが、他方で、「セルフ・キャリアドック」はトップダウンで行わないと導入が進まないという話も耳にしますが...。
藤田:トップダウン、ボトムアップの両方とも大切です。ある大手メーカーではMBOとキャリアコンサルティングを融合した仕組みを導入して成果を挙げていますが、キャリアコンサルタントの資格を持っている人事部門のリーダーが中心となり、導入を進めました。もし単に従業員のキャリア支援が重要だからキャリア面談を導入しましょうとトップに提案していたら実現しなかったと聞いています。つまりキャリアコンサルタントには組織や経営にどのようにアプローチするかという戦略が必要なのです。これは、まさにキャリアコンサルタントが組織にアプローチする活動の本質をついていると思います。
梅本:以前のキャリアコンサルタントは、守秘義務のため人事部門とは一線を画すことが倫理として求められていましたが、今後は人事部門と協業が必要になるというわけですね。当社も「セルフ・キャリアドック」のセミナーでいただいた意見などを参考にしながら、これからはキャリア支援に係る方々が組織にボトムアップアプローチできるような仕掛けにもかかわっていければと思います。CCA様、当社ともに、多くの人が働きがいをもって働くことができるようにするためには、まだまだやれることがたくさんありそうですね。本日はありがとうございました。
特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会
2003年5月26日設立。キャリアカウンセリングの重要性を広く普及し、キャリアコンサルタント(キャリアカウンセラー)の技術向上・地位向上・職業としての成立支援および日本におけるキャリアカウンセリングの理念・倫理の確立を推進する目的で設立された。2001年から「GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム」を開講(2016年4月から厚生労働大臣「キャリアコンサルタント養成講習」に認定)。修了後に国家資格キャリアコンサルタント試験の受験資格が得られ、試験に合格し必要なキャリア実務を経るとGCDF-Japanの資格を取得できる。また、資格取得後も実践力向上に活かせる講習・トレーニングや現場での実践機会を提供。指導者を養成する講座も開講している。
GCDF-Japan資格者数は5040人(2018年3月現在)
https://www.career-npo.org/