シニアがセカンドキャリアで活躍するためには専門性+自律心とコミュニケーション力が大切に

大手企業でビジネス経験を積んだ方が、中小企業でその経験を活かして活躍する――。こういった姿がシニアのセカンドキャリアの在り方の一つとして見出されてきた一方、すべてのシニアがそのような転換を図れるわけではないという話も聞きます。活躍できる人と活躍できない人の違いは何でしょうか。今回は、中小企業とシニア人材のマッチングサービスを事業の一つとして展開している株式会社クオリティ・オブ・ライフの原正紀代表取締役に、お話しをうかがいながらこのヒントを探ります。

2018.08.01
インタビュー・対談

専門家として経営支援を行う「生涯プロフェッショナル」

梅本:「人生100年時代」と言われている今、シニアのセカンドキャリア形成の仕方が様々な方向から模索されています。御社は企業や自治体、教育機関あるいは個人を対象に、人に関する様々な課題の解決を事業として取り組む中で、シニアの方々に中小企業支援で活躍してもらうための「生涯プロフェッショナル」事業を展開されていらっしゃいますが、どういった経緯で始められたのでしょうか。

原:きっかけは中小企業庁の事業のお手伝いをしたことからです。この事業は「大手企業で活躍し専門性を持っている方」に、その専門性を活かせる場として「事業支援を求めている中小企業」をご紹介するという内容でした。この事業の流れで、東京を中心とした信用金庫と連携し、専門人材と中小企業のマッチングも手掛けることになっていきました。公共事業終了の際に、民間事業として2016年7月にスタートしたのが「生涯プロフェッショナル」というわけです。

梅本:「生涯プロフェッショナル」の対象となるのは、どんな方でしょうか。また、登録者数はどれぐらいいらっしゃいますか。

原:主に大手企業において一つの専門分野で10年以上の職歴を持った方で、中小企業の顧問やアドバイザーとして実務型の経営支援能力を発揮できる方が対象です。おおむね50歳以上の方ですので、これまで培ったビジネス経験や知見、人脈を活かし、中小企業の事業拡大や成長の支援をセカンドキャリアとしてお考えの方が多くいらっしゃいます。登録者は現在約4000人で、多いのは電機系や商社、素材系などの大手企業出身者ですね。

梅本:皆さんどんな専門性を持っていらっしゃるのでしょうか。

原:専門分野で一番多いのは営業・販売・マーケティング系です。次に、経営企画や戦略立案、生産管理、人事・労務管理、経理・財務管理といった経験のある方が続きます。他には、技術・製品管理、情報化・IT活用、海外展開・国際化の専門家といった方々も登録いただいています。こういった方々に対して、中小企業から解決を求められる課題で多いのは、販路拡大・開拓や管理部門の強化、海外進出・展開です。

梅本:専門性をお持ちの登録者と課題を解決して欲しい中小企業。これらはどれくらいマッチするものなのでしょうか。

原:当社では年に何回か登録者と企業とのマッチング交流会や個別マッチング面談を案内しており、交流会には毎回40~60人の登録者の応募があります。その中でマッチングできるのは確率でいえば50~60%ぐらいです。参加される方の属性などにも左右されますが、中小企業のニーズによって、オファーが特定の方に集中することもあります。

活躍するためにはマインドセットが大切

梅本:どんな方だと中小企業とマッチングしやすいですか。

株式会社クオリティ・オブ・ライフ 代表取締役 原 正紀原:専門性を持っていることは必須条件ですが、プラス必要なのがコミュニケーション力です。具体的には、伝える力と聞く力です。そういった力をお持ちの方は、面接でも自己アピールをしやすく、決まる確率は高いですね。中小企業の多くは売上拡大を目指しているので、決定力も大切になるのですが、活躍するためには何より「継続して」仕事を取ってこられる力も重要です。これは、当社の独立・起業セミナーでも強調していることですね。

専門性としては、管理部門強化のニーズも高いので、人事・労務などマネジメント経験が豊富な方や、新規事業を立ち上げた経験を持っている方、経営者の右腕となってさまざまな相談に乗れるような方に対する期待度は大きいです。

梅本:大手企業と中小企業では経営スタンスややり方が異なることが多いと思います。経歴や経験がニーズとマッチしても、実際に活躍するには、そこを理解することも大切だと思いますが...。

原:ええ、中小企業の目線を知ることは大切です。当社では、中小企業を理解するためのセミナーも実施し、ケーススタディをもとにスキルセットだけでなくマインドセットを行えるようにしています。あるセミナー講師は、「大手出身の方は、上から目線で経営者を"説得"するのではなく、"納得"を得て、一緒に解決していく姿勢が重要だ」というような表現でこのことを伝えています。こういったことを理解でき、経営者と同じ目線で課題解決に取り組める方は中小企業で活躍できています。

梅本:目線を合わせができることの他に、活躍できる人はどのような特徴があるのでしょうか。

原:自律心が強く、会社のブランドに頼らず自分の人間性でビジネスをしてきた方は活躍しています。社内だけに目を向けた仕事をしておらず、対外的なビジネスを行ってきた方も活躍できます。逆に、内向きで会社のブランドに頼ってきた方は難しいでしょう。

梅本:新規事業を立ち上げ、会社を設立し、経営してきた経験を持っている方は活躍できそうですね。資金繰りの大変さも理解できるでしょうし。

原:人材育成論でもよく言われることですが、新しい事業を興すようなビジネスの"修羅場"を経験している方は、確かに自信を持っているし、自分を売り込むときの迫力が違いますね。

シニア活躍の手掛かりは「お一人様仕事能力」

株式会社ライフワークス 代表取締役社長 梅本梅本:学習院大学名誉教授の今野浩一郎先生は、シニア社員が定年を経て新しい職場で活き活きと活躍できるためには、「気持ち切り替え力」「ヒューマンタッチ力」「お一人様仕事能力」の3つで構成される「プラットフォーム能力」を高めることが大切だとおっしゃいます(※)。このプラットフォーム能力と聞いて、何かお感じになることはありますか。
※「プラットフォーム能力」:新しい役割に前向きに向き合うことができる「気持ちの切り替え力」、職場の同僚と水平的な目線で人間関係を構築できる「ヒューマンタッチ力」、仕事をひとりで遂行するために必要なITスキルなどの「お一人様仕事能力」という3つの力で構成される。

原:「気持ち切り替え力」は、先ほどお話ししたように当社のセミナーでも重視していることの一つです。「ヒューマンタッチ力」については、「生涯プロフェッショナル」の場合は顧問やアドバイザーとして中小企業の経営に関わるため、「同僚と」というより「外部や契約先と」水平的な目線で人間関係を構築することが大切になってくると思います。もちろん、その会社に転職するケースもあり、そうなると「同僚と」の人間関係の構築も重要です。

「お一人様仕事能力」がこの3つの中で重くなる可能性があります。例えばひとりで仕事を行うためのITスキル。今のシニアは、ワードやエクセルなどは使えますが、スマホやタブレットを仕事で使いこなしたり、先進的で便利なアプリを使いこなしたりする力は持っていない方もいます。以前の務め先ではシステム部門が設定してくれたようなことも、自分ひとりで行わなければならないこともあるでしょう。こういった新しい技術に対して、とにかく使いながら覚えていくといった感覚に慣れている方なら大丈夫かもしれませんが、マニュアルを見ながら操作を一つひとつ覚えることに慣れている方は、もしかすると中小企業では苦戦するかもしれませんね。

副業や兼業を始めるのもキャリア自律の第一歩に

梅本:シニアがキャリア自律をするためには、何が大切だとお考えですか。

原:まずは専門性を磨くことが第一ですが、大切なのは自分の会社に閉じこもらず積極的に社外の広い世界を知ることです。趣味でも構いません。別の世界を持つことで物事の見方や考え方が広がります。私は、昔会社勤めをしていたとき中小企業診断士の資格を取りました。資格を仕事に活かす機会はほとんどなかったのですが、学ぶことで得た視野の広さや交流により得た人脈は大いに役立っています。

また、兼業や副業をやってみるのも良いと思います。最近は大手企業で兼業や副業を認める動きが出てきています。ただ、それが当たり前になるためには、競業禁止や時間管理、企業機密やノウハウの流出、社会保険をどうするかなど、さまざまな問題があり、実現には時間がかかるという指摘もあります。ですが、個人としては、それこそイラストが得意な人がクラウドソーシングを活用してデザインを引き受けたり、趣味のテニスを活かしてコーチをしてみたりといったように、本業とは違うことをやってみても良いと思います。兼業や副業は、自分の世界を広げることにつながりますので。

梅本:企業の側は、キャリアの選択の道は多いことを早い時期から社員に示し、広い視野で自分のキャリアについて考えてもらうことも必要ですね。

原:そうですね。企業の側から働きかける方法としては、キャリア自律のための仕組みをつくることが大切です。もちろんライフワークスさんがやっているような研修を通じたキャリア開発支援も良い方法だと思います。そして、視野が広がった社員を受け入れることができる風土が企業には求められると思います。副業や兼業で得られた経験を受け入れるというのはよくいわれることですが、最近では、出戻った人を迎え入れることのメリットに注目するような例も見られますね。

中小企業のニーズを顕在化させ、活躍の場を増やしたい

梅本:お話いただいた内容を振り返ってみると「生涯プロフェッショナル」は今後さらに成長する可能性を感じますが、これからの展開はどのように考えていらっしゃいますか?

原:経験を活かして活躍したいというシニアのニーズは高く、登録者数は増えていますので、これからは登録者と企業のマッチングをいかに確実にしていくかが課題です。そのためには、中小企業にこのサービスの有効性を理解していただき、活用を促進する必要があります。さまざまな経営課題を抱えている中小企業には、経験豊かな専門家に対する潜在的なニーズが間違いなくあると私は考えています。

梅本:昔ながらの経営をしている中小企業だと、外部の人材を活用するのにまだまだ壁がありそうですが。

原:外部の人材を受け入れることが苦手で、閉じたマネジメントをしている会社は難しいですね。一方で、他社とのアライアンスが上手な会社は、外部の専門家を上手に活用しています。また、社外取締役を置いたり、中途や女性、外国人など多様な人材を活用したりダイバーシティの推進に意欲的な会社は、スムーズに受け入れられます。

梅本:中小企業のトップの交流会などで、「生涯プロフェッショナル」を活用して成功した事例などが話題になると、自社でも活用してみようかという会社が増えてくるのではないでしょうか。

原:当社でも活用事例をもっと紹介できたらと考えています。また、大手企業でもシニアのセカンドキャリアとして、中小企業の経営支援という道があることを、もっと社員にアピールしてもらえると良いですね。

梅本:当社は研修事業を通して、多くの大手の企業様とお付き合いさせていただいていますので、シニア人材のセカンドキャリアをテーマに御社とコラボレーションできそうですね。本日はありがとうございました。

株式会社クオリティ・オブ・ライフ

2006年11月28日設立。人と組織の進化を目指し、個人が充実した人生を実現し、その延長として企業や団体が繁栄することに寄与することが会社の理念。「採用・定着支援」「キャリア開発」「QOL(個人の人生の充実)」の事業領域で、企業や官公庁、教育機関に対して人材関係の提案を行っている。また、企業とシニア人材のマッチングにより、企業が抱える様々な経営課題を解決する『生涯プロフェッショナル』事業を推進。50歳以上の専門家を中小企業に紹介し、顧問やアドバイザーとして経営支援を行うサービスを展開している。一般社団法人留学生支援ネットワーク、一般社団法人産学協働人材育成コンソーシアムを設立し、代表取締役の原正紀氏が理事を務めている。
会社のホームページ:https://www.qol-inc.com/
「生涯プロフェッショナル」サイト:https://2nd-pro.com/

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