個人の自律的・持続的なキャリア形成に企業ができることとは?―70歳就業時代に備えて
人生100年、70歳までの就業が現実味を帯びる中、キャリアのサステナビリティ(持続性)を自己責任で構築する必要性、企業としても自律性の高い人材の育成や、雇用にとらわれない人材マネジメントが求められる時代となってきました。そこで、このたび、キャリアオーナーシップを醸成するキャリア研修を提供してきたライフワークスと、越境という形態で個人のキャリア展開を支援するエッセンスがコラボレーションし、「キャリアチャレンジitteki(※)」という新しいサービスの提供を開始しました。両社における取組や「これからの人材マネジメントや持続的なキャリア開発のモデル」について、エッセンス株式会社の執行役員吉水文哲氏と当社事業企画部長野村圭司との対談の様子をお伝えします。
※プロボノ(職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動全般)を活用して専門力と熟達した経験を将来のキャリアに活かすための支援
https://www.lifeworks.co.jp/news/2020_01_171000.html
個人のキャリアに対する意識の変化とその影響
人生100年時代と言われてから数年たちますが、個人の方のキャリアに関する意識が変わってきているという実感はありますか?
吉水(敬称略):弊社の事業に関して変化を感じるところは、プロパートナーズ事業の領域です。この事業は、社外の優秀人材に活躍していただくモデルで、もともと10年前に事業を起こした時には、メインの登録者が50代~60代でした。その頃はフリーランスがまだ一般的ではなかったんですよね。ただ、この5,6年とても変化しており、登録層は40代~50代と世代が若返り、中には30代の方もいらっしゃいます。そして、引退後のキャリアではなく、できれば今の仕事と並走しながらやっていくなど、兼業が増えてきている印象です。背景としては、社外で経験を積みたい、自分が独立してどのくらい通用するかやってみたいという方が多くなり、30代~40代から自分が1人で仕事をするにはどうしたら良いか?と考えている方が増えてきているからだと感じます。
野村:若いころから意識的に自分の力を試したいと思う方は、現在働いている会社でも優秀層なのでしょうか?
吉水:2・6・2の法則で行くと、マインドは上位2割の方ですが、スキルは上位2割とはかぎらない印象ですね。
野村:ライフワークスでは、大企業で働くミドル・シニア世代の方々にキャリアオーナーシップを持っていただくためのきっかけづくりを行っています。50代の方々は65歳まで働くことが現実的となっているのですが、65歳以降のことはイメージできていない方が多い印象です。
一方で、年代が若くなっていくほど、会社から離れても活躍できるようなキャリアを切り拓いていきたいという思いは強くなっていると感じます。私はこれからの時代は、たとえスキルが完成していなくとも、社外に飛び出してみようと思うことが大事だと思っています。外に出ようとする方々は、どういう意識でチャレンジされるのでしょうか?
吉水:今まで自分が経験してきた実績のある分野を伸ばしたいという方もいらっしゃいますが、関連する他分野の経験を積みたいという方も増えてきています。例えば、マーケティングを経験してきた方が、リアルタッチポイントとWebマーケティングを両方やりたいというパターンもあります。今の経験にアドオンしたいという方や掛け算で希少価値を出そうと考える方もいらっしゃいますね。今の仕事に不満があるというよりは、このままだと先行き不透明なので、何か身に着けたいという気持ちが強いですね。
先ほどお話に出てきた、経験してきたことと関連する分野にキャリアを広げたいという方は、未経験のことに挑戦するイメージですが、ニーズとマッチするのでしょうか。
吉水:仕事としては経験がないものの、ご自身で勉強されているケースが多いです。仕事ではほんの少し触れていて、もっと深くやりたいけれども会社の中ではなかなかチャンスがなく、勉強されているケースですね。
個人のキャリア形成を後押しする企業の施策とは?
今までは、個人側の意識の変化に焦点をあててお話いただきした。企業側の変化という点ではどうでしょうか?
吉水:プロ活用という分野においては、企業側のスタンスが5年ほどで変わってきたと感じています。設立当初は、優秀人材にお金をかけきれないベンチャー企業を支援するという目的で始まりましたが、この数年で多いのは、大企業の中での新規事業に活用するというケースです。また、自社でプロを育てる意識も高まってきていると感じています。以前は、個人の方が会社に知られずにこっそりと活動していたのが、今は社内で話を通しているという方もいらっしゃいます。ただし、制度として兼業や副業を許可している企業は多くはないので、個人の方の活動として個別に承認されている状況です。
野村:副業・兼業を始めとした新しいキャリア開発の仕方を企業も求めているとは思いますが、会社として公式化するのか、どういうルールで運用するのかという点は進んでいないですね。
吉水:個人の方の意識が進んでいますよね。
企業側の改革が進まないのは、リスクが大きいと捉えているからではないかと思いますが、いかがでしょうか。
吉水:そうですね、よく挙げられる理由としては、労務上の問題(ルール上、時間外勤務をどうカウントするのかなど)、人材流出、コンプライアンス上のリスクです。
まず、人材の流出についてですが社外での活動が転職につながるという場合、社外での活動の有無にかかわらず、辞める方は辞めるというのが実情です。副業などを禁止することが抑止力にはならないと私は考えています。むしろ、社外での経験が現職の価値の再認識につながり、コミット感が増すというケースもたくさんあります。
また、情報流出の問題に関しては、情報、知識やスキルも兼業副業禁止したら漏洩を防げるかというと、そういうことではないと思います。
野村:これからの動きを考えると、社外での活動を認めざるをえなくなると思っています。今後、65歳定年・70歳まで働く社会になることを考えると、自社で雇用するだけではない選択肢を従業員に提供していくことが求められると思っています。昨年、黒字型リストラが話題になりましたが、このやり方自体がこの先も続くというのはあるべき姿ではないはずです。そうするよりは、早い段階でパラレルキャリアを経験してもらい、今の会社での価値を見直してもらうということが必要なのではないかと思います。
越境体験が個人の持続的なキャリア形成にもたらすもの
越境体験がキャリア自律にプラスに働くと考えていますが、どのようなメリットがありますか?
吉水:現在プロパートナーズで活躍されている方がどういう方なのかを見直してみたんですね。すると、1社経験ではなく、何社か経験されている方や出向されたりしている、いわゆる越境体験をされている方だということが分かったんですね。自分の能力の再現性を高めるという機会がどれだけあるかということです。
では、そういう方をどう作り出していくのか、と考えたときに、企業側から声をかけていかなくてはいけないということで、他社留学のプログラムを始めました。ここでは、自分自身の価値を見直し、他者の価値観を取り入れることが経験できるので、キャリアにおいて非常に重要なことだと思っています。
越境の機会は今後ますます必要になってきますね。しかしながら、個人の方が自ら越境の機会を作り出すのには勇気がいると思います。自主性をどう育んでいけばよいのでしょうか。会社としてできることはありますか?
吉水:他社留学は会社からの指名もあるので、優秀な方はチャンスをつかみやすいですが、プロボノ活動は完全に自主性が求められます。プロボノを1回経験しただけで終わってしまう方もいらっしゃいます。ポイントはその経験に自分は何の価値を見出すのかが明確かどうかです。目的意識が芽生えないと、いい活動にならないので、体験をする前に会社で自律意識を持たせることは大事だと思います。
野村:越境できる人は核となるスキルや経験がある人だと私も思います。すべての人が越境体験でキャリアが拓けるわけではないと思いますので、会社としては、越境という機会があるということをプロモーションしていくことが重要だと思います。例えば、制度として社内留学や兼業副業、プロボノを情報提供として研修に組み込むことは可能です。ある会社では50代の方を対象として、異業種交流の形で、社会課題の解決をしていくというプログラムを行っているという例もあります。
吉水:企業が与える教育は機会提供が主となってくる。今までは企業側から「こういう人になってほしい」という理想の姿があり、そのためのスキルセットが主でした。今後は、企業側のビジョンの明確化が難しくなってきているので、企業は機会提供し、選択させることが必要です。
「キャリアチャレンジitteki」が目指すもの
今回、ライフワークスとエッセンスの2社でコラボレーション企画「itteki」を立ち上げられました。立ち上げの経緯や目指していることなどを教えてください。
吉水:我々エッセンスでは、越境などの実体験は提供しているのですが、体験で終わってしまっているところが課題だと感じていました。そこで、体験に限らず、事前に座学としてのインプット、また事後に評価をするような一覧の流れをくんだプログラムにしていかないといけないと思っていたところ、ライフワークスさんでは研修として組み込むことができるということで、コラボレーションしていくことになりました。研修を通して、越境体験に対する理解や意欲が高まったうえで、我々が実体験を提供するという、非常に効果の高い形で組めたのだと思っています。
野村:先ほど機会提供が大事という話はありましたが、ともすると、「いい思い出」で終わってしまう懸念はあります。オーナーシップをもって、どういう方向で自分を磨きなおすのか、という実体験を経て、自分にとってどういう意味があったのかという振り返りをするというサイクルが重要です。エッセンスさんと協働することで、持続的なキャリア展開力をつけるということができると思っています。
強みを活かし合う形の取り組みですね。越境体験から得られるものは何でしょうか?
吉水:他社留学としては、経産省からメルカリ社に他社留学した事例があります。そもそもは、経産省がイノベーションを支援する中で、実体験がないということで、メルカリを創っている組織文化の中で、再現性ある方法を作って欲しいという期待がありました。個人としても、会社内で体験することで、イノベーションを体感したということで、成長につながったということです。
また、別の例は、大手の人事の方が今後イノベーション人材を作るために、育成モデルを知るためにベンチャー企業へ行った事例です。この方は他社留学の体験後に、イノベーションの実行部隊を創るということで、新規事業担当になりました。体験したからこそ、自分でもやりたい、できるという気持ちになり、立ち上げたそうです。
野村:シニア世代・ミドル世代・若手世代それぞれに効能があると思っています。50代のシニア世代は、会社を卒業した後に、社会課題に向き合うという視野の広がりが持てたという声や、役職や肩書がない中で、プレイヤーとしてまだまだやれるという自信が持てたということを聞いています。また、ミドルの40代の方は、セルフリーダーシップを鍛える効果があったということです。今までの自社でのマネジメント手法が通用しないという壁に直面した際に、どう自分が変われるのか試行錯誤する中で、新たな自分の強みに気づくという点もあったようです。
30代では、今まで与えられた仕事を黙々とやってきた中で、自分の仕事が顧客に与える価値を体感できなかったところ、越境先の方から感謝されるという体験を通して、自己肯定感が上がったというような話も聞いています。
吉水:弊社は、プロボノの機会も提供していますが、経験された方に、「プロボノで成功するコツは何か?」と聞いた時に、「自分のキャリアを忘れること」とおっしゃったんですね。金融業界の方で、ある町工場のベンチャーでプロボノ活動をされたのですが、町工場に対して、一人の個人として何を思うのかを大事にしたそうです。例えば、「応援したいと思うかどうか?」「この町工場を通して社会のどう貢献したいのか?」など個人的な想いですね。
70歳までイキイキと働くために必要なこと
仕事に対して、自分の想いを確認するということが、今後キャリアを展開させる際にも非常に重要なのだと思います。しかし、会社員で長く働いてきた方は特に、自分の「好きなこと」や「興味の方向性」を探すことも苦労されると思います。何かアドバイスはありますか?
吉水:まずは、自分が「なぜ働いてるのか?」を改めて問い直すことが必要だと思います。今後は、企業が与えてくれるものは、今まで当たり前にあったようなポジションと給料ではなくなると思うんですね。そうなった際に、ライスワークではなくライフワークとして、自分が想いをもって取り組めるものを見つける必要があります。そのためにも、常に「自分が何をしたいのか?」を問い続けることが必要だと思います。
野村:私たちはキャリアコンセプトと呼んでいるのですが、「自分の核となるもの」を見つけることです。どんなテーマに身を置いた時に心地よいのか、また面白みを感じるのか、ということを深く見つめ直すことでコンセプトが見つけられていくと思います。一旦見つけさえすれば、今の職場で叶わなくとも、社外で見つけることができます。核となるものを見つけるためにも、越境体験は良いきっかけになると思います。
エッセンス株式会社
https://www.essence.ne.jp/
設立 2009年4⽉7⽇
事業内容
プロパートナーズ事業(プロフェッショナルの紹介サービス)リクルーティング事業(ヘッドハンティング及び⼈材紹介サービス)、他社留学事業(留学研修サービス)
「⼈⽣100年時代の新しい仕事⽂化の創⽣のために」を掲げ、雇⽤に依らない知⾒・経験の流動化を実現するパートナーとして、「プロパートナーズ」、「他社留学」、「リクルーティング」を中⼼に、多彩な新しい働き⽅、⼈材活⽤⽅法を提供している。
エッセンス株式会社 執行役員 プロパートナーズ事業部長
吉水 文哲 氏
2000年、大手印刷会社に技術・研究職として入社。その後、大手メガバンクの法人営業を経て、世界3大広告代理店である、英国WPPグループのオグルヴィ・アンド・メイザー社のグループであるオグルヴィ・パブリック・リレーションズ・ワールドワイド・ジャパン(株)にてコーポレート・コミュニケーション及びIRのAEとして活動し、MBOにて設立したIRコンサル会社に営業部長として参画する。2015年エッセンス株式会社へ参画、同プロパートナーズ事業部長に就任。企業の経営課題の解決に最もスピーディなのは「プロ人材活用」であると確信し、幅広い分野のプロとセッションを行いながら、共に企業に提案する事を旨とする。