シニア人材のキャリアと介護
ミドル・シニア人材にとって、仕事と介護の両立がキャリア形成の課題としなることもしばしば。自身の介護の経験を踏まえて、介護セミナーを担当している竹澤トレーナーにシニア人材のキャリアと介護をテーマにお話をうかがいました。
まずは簡単な略歴をお願いします。
竹澤:大学生の頃、いろいろあったので、ストレートに卒業した人とは2年遅れました。卒業して銀行に入って思ったのが、「2期上の人間にも負けないぞ」ということです。真面目な性分もあって、組織の中で順調に駒を進めて支店長になって、最後にやったのは人材開発部長です。2年やりました。人材開発部長として、辞めていく人たちの人生に向き合う中で、自分もこのまま銀行員、その延長として終わるのは嫌だなと思うようになりました。
その当時、人材開発や組織開発的なことで事業を展開していたリクルートという企業に関心を持つようになって、なんとか入る方法はないかと思うようになりました。銀行を退職してしばらくして、偶然リクルートの秋採用の募集記事を見つけて、応募して、採用されて人材畑の仕事を始めたわけです。
採用されてすぐの仕事は、市区町村の若者支援のカウンセリングで、それが軌道に乗ってからはリクルート本体、関連会社で商品の開発や再就職支援のカウンセラーなどを経験しました。いろんな人との関わりが増えてきて、縁あって梅本社長と会うことになり、今はライフワークスの研修トレーナーをやっています。特に、ミドル・シニアの研修を担当する機会が多いです。
トレーナーとして、シニア社員に対して想うことは、何でしょうか。
竹澤:シニア社員は、自分らしさで生きられたらいいと思います。私自身も、銀行を辞めて本来の自分に解き放たれたような気がしたんです。だからこそ、胸に手を当てて考えた時に、あなたが本当にやりたいことは何ですかと、研修の中で受講者に本気で問いかけています。「今の会社で働き続ける」ということが本心から出た答えであるなら、「選び取ったもの」であるなら、それを応援する働きかけをします。ところが、実際には、「そんなことを考えたことがない、考えてもしょうがない」という人がいますと、その人たちが企業にぶら下がっているような気もしています。
自分らしく働いていれば元気でいられるし、そうすることで社会の一員としての自分を維持できるし楽しい。さらに、他人に感謝されることだってある。そんないい環境、循環を生み出せるシニア社員が増えればと思います。
最近は介護セミナーのトレーナーを担当することも増えてきているかと思いますが、ご自身の介護経験について聞かせてください。
竹澤:銀行員時代42歳の時に、母がくも膜下出血で倒れました。緊急の処置後、次のリハビリ病院が遠くて、毎週末に通う遠距離介護から始まりました。その後、数か所の老健施設を経て運よく特別養護老人ホームに移れましたが、14年後そこで母が亡くなりました。その後、母親がお世話になった場所だからと、老人ホームでのボランティアを始めたのですが、何ができる訳でもないので最初は入れ歯を洗うことから始まりました。他には、入浴時の衣類の出し入れや車いすを押して散歩に付き合うことも。そんな風にホームと関わり始めたところ、理学療法士の手伝いをしないかと誘われて、7年前よりリハビリの「体操のおにいさん」です。「グーチョキパー、グーチョキパー、ジャンケンポン!」大勢のお年寄り相手に、大きな声を出しています。ボランティアに行けなかった翌週には、「おにいさんがいなくて、寂しかった」なんて、母親位の年代の女性に言われるんですけど、まあ、悪い気はしません。
ホームに通うようになって、自分が優しい人間だったんだと気がついて、自分でも驚いています。息子からは、「親父、銀行員の時とは顔つきが違う」なんて言われますが。仕事以外で自分が活動できる場があり、そこでの成果を仕事に持ち込めたら、それはそれで幸せですよね。私の場合、介護のボランティアとトレーナーという両方の経験がいい関係になっているのかもしれません。
「体操のおにいさん」は、リハビリの最後に参加者と歌を歌うんです。元々人前で歌うようなタイプではなかったですが、歌はお年寄りの記憶を呼び覚ますし、歌うことが元気をくれます。その効果でトレーナーを始めた当初より、今の方が発声はしっかりしていると思います。
ご自身の変化の話がありましたが、研修を依頼する企業側の変化は感じていますか。
竹澤:私が研修に関わり始めた頃10年前は、ハッピーリタイアメントというか、退職後の豊かな生活を思い描いて、最後まで頑張って働きましょうというようなメッセージで研修が構成されていました。研修を実施する企業の多くは大企業で、社員とその家族を丸ごと面倒みているような体制でしたから。その後、社員のプライベートに入り込みすぎるのは良くないという流れもあり、また、働く環境が変わってキャリア色重視の流れが年々強まってきました。そして、年金の受給開始が65歳に変わっていく中で、受講者の意識がマネープランに偏っていくことが気になっています。
受講者がマネープランを考えた時に、「まだまだ働き続けないとまずいのではないか」と思うことがありますが、それに対する企業側の答えが弱いことが気がかりです。研修で受講者のやる気に火をつけておきながら、会社の期待が見えてこないと、一度火が点いた受講者のやる気が、行き場を失ってしまいますから。
個人も企業も対等な(契約)関係として付き合う、メリハリのある処遇をする、そんな働き方が標準になれば面白い社会になるのではと思うことがあります。
最後に、竹澤トレーナーにとっての自分らしさとは何でしょうか?
竹澤:自分らしさってなんだろうなと、私自身いつも問いかけています。自分が意識しているものだけではなく、周囲の人の言葉、働きかけ、また、ボランティアなどの違う活動から自分の新しい一面を発見することもあります。
自分がよく知っている自分と周囲の人の期待、その統合みたいなものが人の人生じゃないかなと思うんです。
そして、人生とは駅伝のようなものだと思っています。祖父から父へと繋がれた襷を、自分が受けて子や孫へと繋いでいく。自分の一区間を歩いて次にどう繋ぐのか、社会の構成員としてどう繋ぐのかを意識して、そう思って生きていきたいと思ってます。
私の生き方が格好悪くなったら、次の世代の人たちに引導を渡してもらえたらと思います。もちろん、そう簡単には負けません。
トレーナー紹介
- 竹澤 茂
人生80年時代の大切な人生、一人ひとりが生き生きと自身にふさわしい人生を送れるように願っています。
「介護を人生設計に受け入れる ~今回の取材を受けて想うこと~」
介護を自分の人生設計(ライフ・キャリア)に受け入れている人は少ないかも知れません。しかし、介護は地震と同じで何時おこるかも知れず、普段から考えを巡らしておくことが大切であり、安心です。その為の「備え」といざという時の「対応力」は、これからの人生設計に欠かせない視点となります。
仕事と介護の両立を考える上で、自分サイドのことを始めとして、会社(上司)と働き方の調整、同僚への協力依頼などクリアーすべき課題は多々あります。「介護は自分ごと」、「介護はお互いさま」の風土作りの醸成と、両立するために「今からできることをする」、一歩踏み出すことが重要です。行動することが不安解消ともなります。
また、介護には自分らしい介護のあり方があると思っています。親子関係、環境(同居・遠距離)等によって形は異なるかも知れません。自身の価値観、人生観に沿って「ありたい介護の姿」を描くこと、それこそが自分らしい人生設計にもつながるのではとの想いです。
50代以降のシニア層を中心に、介護に向き合うことがますます増えてくると思います。
セミナーでは経験談などを交えながら、介護を「少しでも安心して乗り越えられるよう」発信していきたいと思っています。