「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2017.03.29 個人の活躍

キャリアを長く継続しながら、様々な社会貢献活動に参加

キャリアを長く継続しながら、様々な社会貢献活動に参加

組織を越えた「役割創造」を実現した人たちの中で、今回は「プロボノ」を通して様々な社会貢献活動している松澤寿典さんにお話を伺いました。

自分が何者かを、会社の名刺に頼らずに説明できるようになりたい

---プロボノを始めたきっかけは?

会社以外の世界を見てみたいという好奇心が大きかったですね。僕はずっとIT畑なんですよ。工学部を出て情報通信会社に入社し、システム開発のプロジェクトマネジメントに携わっていました。建築の仕事に例えると、僕の役割は、決められた期間や予算内で建物の設計をし、大工さんに建物を建ててもらう建築家。技術や知識だけでなく、チームで仕事をするためのコミュニケーション力が必要な業務ではありましたが、「オタク語」が通じる専門家としか仕事をしたことがありませんでした。
ところが、30代後半にITの先端技術を活用した新規ビジネスのプロデュース業務に携わる機会がありましてね。社内のさまざまな部署との調整はもちろん、政府や自治体など社外の方たちと交渉しながら仕事を進める必要があり、大変でしたが、多様な価値観に触れる面白さと重要性を感じました。ちょうど、社内での自分の今後のキャリアが何となく想像できるようになってきた時期で、閉塞感みたいなものもありました。そこで、少し世界を広げてみようと40代になって社会人大学院に通い始めたんです。

---何を学ばれたのですか?

高校時代から起業や経営にも興味があったので、この機会にとビジネスについて学び、「いつか起業できたら」という思いが高まりました。そんなころにたまたまテレビで「社会起業家」というキーワードを知り、ビジネスを通して社会貢献できるというのは素敵だよなあと。ただ、僕には特定の社会問題を解決することに対する強い使命感があるわけではないので、ハードルが高いかなと感じていた時に知ったのが、プロボノ。自分の専門性を活かしたボランティア活動で、プロジェクトの期間が決まっており、環境や教育、福祉などさまざまな分野の社会問題に取り組める。興味の幅が広い僕にはぴったりだし、いろいろなプロジェクトに参加することで、自分の方向性も見えてくるのではと考えました。調べると、社会問題に取り組む団体とプロボノをやりたい個人をマッチングしてくれる中間支援団体があることもわかり、何となく自分にもできそうだなと登録して活動を始めたんです。すると、たくさんいたんですよ。会社以外に自分の力を活かせる場を持っていて、「僕はこれができます」「私はこれがしたい」と楽しそうにしている人たちが。その姿を見て、自分が何者かを会社の名刺に頼らずに説明できる存在に僕もなりたいと刺激を受けました。


予測通りにはいかないことばかりだから、面白い

---これまでに10件ものプロジェクトに参加されています。プロボノの何が魅力だったのでしょうか。

支援を必要とする団体に少しでも役立てたと感じられた時はやはり嬉しいですし、異業種の人たちと出会えたり、さまざまな社会問題について学べ、視野も広がる。いいことがたくさんですが、プロボノの一番の魅力は、「予測通りにはいかない」という点にあると思っています。実は、僕が最初に参加したプロジェクトも一筋縄ではいきませんでした。教育関連のNPOを支援するプロジェクトでしてね。僕には会社で技術者育成のカリキュラム整備や新規事業での行政との折衝に携わった経験があったので、そのノウハウをもとに積極的に提案を行ったんです。ところが、コミュニケーションが十分でなかったこともあり、「大企業ではうまくいくかもしれないけれど、うちでは無理です」と受け入れてもらえませんでした。当時は苦労しましたが、振り返ってみれば、貴重な経験だったと思います。自分の持っている知識やノウハウを押しつけるのではなく、支援先と同じ目線で課題に向かうことが大切だと学ぶことができ、次に生かせたからです。
一般的に、会社でキャリアを重ねると、試行錯誤をしたり、知らないことをイチからやるのは難しくなります。でも、プロボノの場合は、社会問題という誰も解決をしたことのないものに取り組むので、予測通りに物事が運ばないのは日常茶飯事。おまけにメンバーもプロジェクトごとに変わるので、常にアウェイの状態です。予測通りにいかないことや、知らないことばかりで、トライ・アンド・エラーができる。そこが面白いなと思っています。


プロボノが職場と家庭にもたらしたシナジー効果

---本業もお忙しいはず。プロボノに参加する時間を作るのは大変なのでは?

プロジェクトにもよりますが、メンバーや支援先との打ち合わせは週1回、数時間。このほかにメールやSNSでのやり取りや個人作業もありますが、多くても週10時間くらいです。プロジェクトの期間は半年ほどですから、やりくりするのを大きな負担と感じたことはありません。社会人大学院に通った時にも感じたのですが、タイムマネジメントがうまくなるので、本業の仕事も効率的にできるようになるんですよ。それに、本業とプロボノの仕事は全く別ではなく、シナジー効果もありますから。

---そのほかに、本業へのプラスの効果はありますか?

本業でもプロボノでも僕のおもな仕事はプロジェクトマネジメント。ただ、本業では比較的志向の似たメンバーでビジネス上の目的を達成していくのに対し、プロボノではさまざまな業種・職種の人たちが集まっていて、それぞれの動機も異なる。メンバーのモチベーションを上げてチームをまとめるには、各メンバーの個性を理解する必要があるので、相手の話をじっくり聞くようになりました。おかげで、本業でのコミュニケーションがスムーズになったと思います。家庭でも、妻の話をめんどくさがらずに聞くようになりました(笑)。また、新たなプロジェクトに参加するたびに関連知識を勉強するので、物事をキャッチアップする力やリサーチ力がついたかなとも感じます。


「働きがい」「生きがい」の形はひとつじゃない

---プロボノを続けることで、ご自身の方向性は見えてきましたか?

rc_p_170321_matsuzawa3.jpg教育、障害者の就労支援、DV被害者支援などいろいろなプロジェクトに携わるうち、僕自身の関心は個々の社会問題以上に、問題解決をするNPOの仕組みにあるということがわかってきました。多くのNPOは小規模な組織で運営されていて、スタッフは高い志を持ちながら、資金難に苦しんでいます。質の高い活動をするにはファンドレイジング(NPOの活動資金の確保)が重要だと感じ、その知識があれば、より支援先に貢献できるかもしれないと考えて資格を取りました。現在はファンドレイジングの側面からNPOのお手伝いをすることもあります。もともとあった経営への関心を形にできるので、一層やりがいを感じています。

---起業に対する関心は今もありますか?

やってみたいなという気持ちはありますが、リスクを取ってまでビジネスを興す覚悟はまだないというのが正直なところ。それに、僕は本業のIT関連の仕事も嫌いじゃないんです(笑)。つい最近、妻に「起業しなくても、あなた、楽しそうじゃない」と言われて、それもそうだなと。組織にいると思い通りにならないことももちろんありますが、関心の持てる仕事を本業にできていて、プロボノを通して自分のやりたいことができ、人脈や知識も得られている。将来的にはNPOを立ち上げてみたいという気持ちもありますし、「何が何でもこれをビジネスにしたい」と思えるものに出合えば起業に挑戦するかもしれない。プロボノで若い世代の人たちともたくさん出会い、彼らを応援できるような何かができないかとも思っています。会社以外に活動の場を持つことで「働きがい」「生きがい」の形はひとつじゃないと考えるようになった。「自分には選択肢がある」と実感できていることが嬉しいですね。


プロフィール

松澤 寿典さん1965 年長野県生まれ。東京理科大学工学専攻科(修士課程)卒業後、大手通信会社にて研究開発に携わる。勤務のかたわら、2013年からプロボノ活動を開始。3団体のプロボノワーカとして登録し、教育関連や障害者支援などのべ10団体のプロジェクトに参加。Webサイト構築や事業計画立案などに携わる。プロボノ活動を通して、ファンドレイジングスキルの必要性を痛感。2015 年 12 月准認定ファンドレイザーとなり、2016 年にファンドレイジング・スクールに入学。2016 年から目黒区男女平等・共同参画審議会委員。

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