「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2019.10.08 個人の活躍

キャリア開発研修をきっかけに社内公募に応募。長年の営業経験で培った視点を未経験の流通業務で活かす

キャリア開発研修をきっかけに社内公募に応募。長年の営業経験で培った視点を未経験の流通業務で活かす

日清食品株式会社で営業職として30年を超えるキャリアを持ちながら、56歳のときに公募ポストにチャレンジし、未経験だった業務部門で係長として流通業務に取り組む阿部 悟さん。公募に応募するまでの経緯や、新たな仕事への思いをうかがいました。

「ベテラン営業職」として仕事に励む一方、自身のキャリアに停滞感を抱いていた

−−−入社以来30年あまり、営業部門にいらっしゃったんですね。

入社後間もなく営業職として名古屋支店に配属され、その後、北は青森から南は鹿児島まで全国各地の拠点で勤務しました。転勤のたびに環境は変わりましたが、一貫して営業に携わり、やりがいも感じていました。店頭販促のアイデアを得意先に提案し、一緒に形にすることによって、お客さまに喜んでもらうのが楽しかったですね。うまくいくことばかりではありませんでしたが、それも貴重な経験となり、どの拠点もいい意味で印象に残っています。今でも得意先の担当者の方のお顔は全部思い出せますよ。

一方、「ずっと営業をやりたい」という意思を持っていたかというと、そうではありません。当社では1年に1回、自分のキャリアに関する希望を人事に直接伝えられる機会が設けられており、現在所属する業務部門など他部門への異動希望も何度か出したことがあります。営業の仕事そのものは好きでしたが、他部門を経験し、自分の可能性を試してみたいという思いも心の底にありました。

−−−公募に応募し、業務部門に異動されたのが、2019年4月。営業時代の後期には、ご自身のキャリアについてどのようにお考えになっていましたか?

実は、2018年3月まで勤務していた金沢営業所時代に仕事中に倒れ、救急車で運ばれたことがあったんです。53歳の時でした。その後は元気なのですが、原因がわからなかったこともあって、以前のようには自分の体力に自信を持てなくなってしまいましてね。得意先の皆さんにご心配をかけてしまい、この一件以来、「また同じようなことが起きる可能性もあるのに、営業を続けていていいのかな」という思いも抱えながら仕事をしていました。

営業職として経験を積んできたことが、仕事にマイナスの影響を与えている面もあるのではと感じることもありました。得意先の皆さんにとって営業職というのは、日清食品の代表なんですよね。そして、日清食品の企業イメージ、すなわち日清の営業職のあるべき姿というのは、常に新しいことにチャレンジしていく姿勢だと思うんです。

阿部 悟さん新しいことをやる過程では、当然、失敗もあります。周囲の理解をなかなか得られないこともあるでしょう。それでも踏ん張る熱意と行動力があってこそ、新しいことは実現できます。僕自身もそういう姿勢をずっと大切にしてきましたし、業務部門に異動する直前まで、得意先への提案は積極的にしてきたつもりです。ただ、キャリアを重ねるにつれて若いころのようなダイナミックさがなくなっていることに何となく気づいていました。経験を重ねている分、現場での判断力が身につき、得意先からの信頼も得やすくなった一方で、自分で枠を決めてしまうようなところが出てきたんですね。例えば、得意先から「店頭でこんなイベントをできませんか?」と予算面で難しい相談をされた時に、以前なら、どうすれば実現できるかをまず考えたのに、最初から「これは予算の確保が厳しいな」と尻込みしてしまうようなことがありました。

日清の営業職としてふさわしいイメージを、自分は得意先にお見せできているだろうか。そういう疑問から、営業時代の後期は、営業職以外に自分ができること、会社に役立てることは何かということを本気で考えるようになっていきました。

希望制のキャリア開発研修に56歳で参加。自分のやりたいことが明確になった

−−−営業職以外の仕事に挑戦するために、何か具体的な行動は起こしましたか?

先程お話しした、年に1回の自己申告の機会には人事に希望を伝えていましたが、それ以外に何かをするというのは、なかなか難しかったです。地方にいると東京本社の社員と知り合う機会がほとんどないですし、日々の仕事で忙しく、いわゆる「根回し」のようなことをする余裕もありませんでした。

当社には、支店や営業所や業務部など営業関連の部門の管理職を、任期を定めて公募する制度があり、上司に勧められてよく応募していました。ただ、2018年10月までは応募に年齢制限が設けられており、50歳以降は昇進のチャンスがなく、新しいポストに挑戦する道もないという状況でした。幸い僕は得意先の方々との出会いに恵まれ、「メーカーの営業職として、皆さんと一緒にどうお店を盛り上げていくか」ということに意識が向いていたので、仕事のモチベーションは保てましたが、社内のポジションについてはあきらめていましたね。人事異動のお知らせもまったく見ていませんでした(笑)。そんなころに52歳以上の非管理職を対象とした希望制のキャリア開発研修を当社で初めて実施すると上司から聞き、せっかくだからと参加してみたんです。

−−−どのような研修だったのでしょう?

これまでの経験を振り返ったうえで自分のキャリアの軸を明確にし、今後のキャリア実現計画を作成するという内容で、全国から28名が本社に集まり、グループワーク中心の研修でした。ありがたかったのは、同世代の社員とキャリアについて語り合えたこと。営業職として外回りをしていますと、同世代の社員とじっくり話す機会というのは意外と少なかったので、みんなの話を聞いて共感したり、新たな視点を得て刺激を受けたりしました。

グループワークのメンバーに、かつての同僚など自分のことを知っている人が多かったのも、僕の場合は話がしやすかったです。お互いのいい面も、悪い面も何となく把握したうえで意見交換できたので、みんなからもらったフィードバックにも納得性があり、自分の強みや、足りないところを客観的に知ることができました。

この研修を通じ、自分のやりたいこと、会社に貢献できることは何かが具体的に見えてきたことが、僕にとって大きな転機になりました。「年齢・等級に関係なく、意欲のある社員がチャレンジできるようにしたい」という会社の意図から、研修後しばらくして公募制度の応募条件撤廃が発表されましてね。東京営業部業務課の係長職に応募したところ、面接に合格し、新たなスタートを切ることになりました。

社内公募に応募し、物流部門へ。不安よりも期待の方が大きかった

−−−なぜ業務部門に応募を?

当社の業務部門は商品の物流業務を担う役割を持ち、営業をやってきた僕にとっては身近な部門だったんですね。若いころはよくわかっていませんでしたが、物が動かなければ、商品を売ることはできません。キャリアを重ねるにつれて業務部門の重要性を実感するとともに、「仕組みをこう変えれば、もっとスムーズに得意先に商品をお届けできるのでは?」と課題意識も持つようになりました。自らその課題を解決する仕事につくことができれば、営業経験も活かせるし、会社にも貢献できるのではと考えたんです。

−−−未経験の仕事に挑戦することに不安はありませんでしたか?

なかったと言えば嘘になりますが、期待の方が大きかったです。もともと新しいことに挑戦するのが好きな性格ですし、新たな部門で自分が何をやりたいか、何で会社に貢献したいのかがはっきりしていたことも不安を和らげてくれたように思います。

実際に物流業務を担当してみると、正直なところ、結構大変でした。業務の専門知識はゼロでしたから、専門用語を覚えるだけで精いっぱい。最初の3、4カ月はあたふたとして、周囲にはずいぶん迷惑もかけたと思います。今も助けてもらうことの方が多いのですが、自分だからこそできること、できそうなことも少しずつ見えてきました。例えば、営業とのやりとり。営業から何か依頼があった時に、相手の事情を理解しているので、「営業がこうしてくれれば、業務部門でも工夫の余地があるかも」「さすがに、それは無理があるよ」といった話をしやすいんです。

今、実現したいなと考えているのは、営業部と業務部のコミュニケーションをより密にすること。その第一段階として物理的な距離を縮めることも大事だと考え、席を近くすることも提案しています。営業の後方支援が僕たちの役割なので、お互いに相談しやすい環境を作ることにより、かゆいところに手の届くサポートができればと思っています。そのための潤滑油のような役割を僕が担うことができれば、すごくうれしいですね。僕自身、営業時代にずっとそういう存在を求めていたので。

将来的には、地方の支店や営業所の業務部門も経験してみたいですね。現在所属している東京営業所は組織が大きいので業務課の人数もある程度いて、チームで仕事を進めていますが、地方の業務部門となると、流通業務をひとりで担当するということもあります。そのときに、ちゃんと力を発揮できるよう知識や経験を蓄えておこうと思っています。

新しいことにチャレンジしたいという気持ちは誰しも持っている

−−−営業職からのキャリアチェンジによって、ご自身に変化はありましたか?

今は何をやるにも新鮮ですし、自分がやりたいことをできているという実感があるので、毎日が楽しくて仕方ないです。やっぱり仕事をするのは楽しいなとあらためて感じています。

仕事が楽しいというのは、営業時代も同じだったんですよ。もし、業務部門に移っていなくても、それなりに楽しく過ごしていたと思います。ちょっとした愚痴くらいは言いつつも(笑)。ただ、今のように、やりたいことが次々と出てくるという感じではなかったでしょうね。

ある程度キャリアを重ねてきた人なら、自分のやりたいことは漠然とでも心にあって、新しいことにチャレンジしたいという気持ちは誰しも持っているのではないでしょうか。昨日と今日で同じことをしていれば、心から満足という人はいなくて、やっぱり、みんな変わっていきたいんだと思います。なかなか変われないのは、きっかけがないから。僕自身はそのきっかけを会社に与えてもらうことができ、本当にありがたいと思っています。欲を言えば、もう少し早い時期に公募の条件が撤廃されたり、研修を受講できていたら、もっと良かったと思いますが、感謝の気持ちに変わりはありません。今後は、年齢に関係なく意欲のある人が活躍できる環境がさらに整っていくはずと期待しています。

プロフィール

日清食品株式会社
営業本部 東京営業部 業務課 係長
阿部 悟さん 1984年、日清食品株式会社入社。営業職として名古屋支店に配属される。以後、青森、四国、金沢など全国の営業所でキャリアを積む。社内公募に応募し、2019年4月より現職。二次物流(日清食品の契約する商品倉庫から得意先までの物流)・商品物流を介在する営業サポートを担当している。

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