役割創造のためのプロセス
1.インタビューから見えてきた、役割創造に到達するプロセスモデル
当社では、これまで多くのミドル・シニアの方々へのインタビューを行ってきました。そして、そのインタビューを通して「Input→Throughput→Output」の「役割創造のプロセス」が見えてきました。
Input
「Input」は役割創造の起点となる、転機やきっかけともいうべき段階だと考えられます。社会人として約20~30年を積み重ねてきたミドル・シニアにとって、キャリアの転機は様々ではありますが、大別すると次の5つの類型に整理することができます。
- 類型1会社命令型
- 組織構成の適正化や世代交代マネジメントといった方針で、役職定年・役職勇退という制度の導入が進んでおり、この影響により自身の立場が大きく変化する 等
- 類型2職場通達型
- 組織再編や事業業績の影響等による突然のミッション変更や定年後再雇用による期待役割の大幅な変化が起こる 等
- 類型3自らの気づき型
- 今後に向けた自己イメージと現状との違和感が高まったり、他者からのフィードバックや越境体験をきっかけに現状の延長で果たしてよいのか?といった感覚を持ち始める 等
- 類型4キャリア停滞型
- 社内での昇進昇格の上限が現実的となったり、成長実感を得られない等をきっかけとして、自分のキャリアへの閉塞感・限界感が高まる 等
- 類型5イベント発生型
- 親の介護との両立課題が発生したり、ライフステージ変化に伴う家族関係の変化といったライフイベント上の変化が転機となったり、他者からの思いがけない誘いといったイベントに遭遇する 等
キャリアの時間軸が延長している今日、これらは誰にでも起こり得る事象です。しかしながら、当社がインタビューを行った方々は、それを次の段階である「Throughput」に進めることができているようでした。そして、その結合部分として見えてきたことは、転機に対する2つの"受け止めのタイプ"でした。
「プロアクティブ・タイプ」
現状に動きをもたらすべく行動を志向するタイプ。他者からの励ましや、新たな探索先に関する情報を得ることがさらなる行動の原動力となる。
「リアクティブ・タイプ」
自らに起こった事象に対して期待値を調整する、ポジティブな意味づけを行うといった環境認知を行うタイプ。他者からの支援が効果的に得られることで、さらなる一歩踏み出すことができる。
Throughput
転機を受け止めた後に始まる「Throughput」は、役割創造に至る重要なプロセスと考えられます。簡潔に言えば、探索を通じて自己を再構築する段階です。
自らの在りたい姿に向けた方向を定めていくことにつながる「行動や機会づくり」といったことから「気づきや認知変容」が生まれる方向付けの過程。方向付けの過程で得られたことを自らの考え方の起点にして何かに取り組んでみたり、あるいは得られたツール(知識・スキル・資格等)を試してみたりといった「内化・外化」の過程。そして「内化・外化」の過程までを振り返り、自らの新たな側面として取り入れていく「批判と統制」の過程が進んでいきます。
私達が取材した方々の多くは、"自らの境界を超えた学び(越境学習)"を通してこの過程を進めていることが特徴的だということもわかりました。
Output
最後の「Output」は、いうまでもなく、役割創造つまり「自らのキャリア資産を活かして新たな価値提供をしている状態です。大きく分けると、社内で役割創造を実現している人、社外で役割創造を実現している人、そして両者にまたがりパラレルに役割創造を実現している人という姿が見られますが、さらにそれらを次の5つに分けて捉えることができました。
- 社内での役割創造により、組織内でのアイデンティティを再構築【組織内役割創造】
- パラレルキャリアによって自己を開発し、自社内での業務遂行にプラスの影響を及ぼす。あるいは、社外での自己像を志向【パラレルキャリア】
- 社外で自らの価値発揮の場を創出し、新たなアイデンティティを構築【組織外役割創造】
- 独立・起業・転職といった道を選択し、新しいキャリアを切り拓く【組織外役割創造】
- 全人生的な観点で自身の生き方やライフテーマを見つめ、自己再発見【組織外役割創造】
このように役割創造の形は多様でありますが、「自身の内的キャリアを自覚し、充実を希求する」「使命感をもって動く」「その姿や行動が周囲からも認知されている」ことが役割創造を体現された方々に共通していました。
2.役割創造をしているミドル・シニアとは
役割創造している人の姿は実にユニークです。ですが、現在対峙する領域が「経験したことがあるかないか」。役割を発揮する場が「社内か社外か」といった軸を用いると、次のような4象限のマトリクスに整理することもできます。
役割発揮の場 | |||
---|---|---|---|
社内 | 社外 | ||
対峙する領域 | 既存・ 経験領域 |
1熟達・第一人者
社内で熟達したテーマで貢献 |
3専門領域横展開・パラレルキャリア
社外で自らの専門性を活かし価値提供。または、社外の学びで自らを開発 |
新分野・ 未経験領域 |
2新たな価値・アイデア創出
社内で新しい領域で活躍 |
4クリエイティブ・専門領域創造
新社外で新しい領域に挑戦 |
1 熟達・第一人者
これまでの経験や領域での強みを社内で発揮
例
・専門領域における第一人者として、周囲から認知されている
・定年再雇用後、自身の技能や技術を若い世代に使命感をもって継承している
2 新たな価値・アイデア創出
新しい分野に主体的に取り組み、社内で活躍
例
・社内講師として、後進世代の育成やキャリア支援に取り組む
・役職定年後、マネジメント経験を活かしながら新規プロジェクトを推進する
3 専門領域横展開・パラレルキャリア
これまでの経験や領域での強みを社外にも展開
例
・現職で培った専門性をNPO等での社会活動で発揮し、活躍の場を自ら広げる
・プロボノ活動に積極的に参加し、支援先の課題解決に貢献する
4 クリエイティブ・専門領域創造
新しい分野に挑戦し、社外で活躍
例
・資格を取得し起業する
・社外のネットワークや有志で、プロジェクトを立ち上げる
例えば、この分類をアンゾフの多角化戦略になぞらえ、「社内」を「同一市場」、「社外」を「新市場」、そして、既存の経験領域を「現在の製品(自己)」、新分野・未経験領域を「新製品(自己)」というように捉えることができるのであれば、「クリエイティブ・専門領域創造」はさながらキャリアの「多角化」ということができるでしょう。そして、準拠する組織の枠を越えて、さらに未知の事柄に対峙する「多角化」は、その特性から最も進出が困難のように見えます。しかし、同じ組織、同じ領域の中で、自らを価値あるものとして開発し続けること(市場への浸透)も、一朝一夕で実現できることではないように思えます。
「65歳定年・70歳就業時代の到来」「組織構成上、ミドル・シニア層のボリュームゾーン化」ということが個人の働き方に変化をもたらし、それをマネジメントする人事や組織にとっては「役割のないミドル・シニアをいかに活躍させるか」ということが課題になってきていることを鑑みると、これらの4つの分類の中でも、とりわけ1、2の「社内」での価値発揮といった役割創造の在り方や仕方の解明が、今後、人事や組織にとっての課題解決の示唆になるのではないかと考えられます。
他方でこれからますますキャリア自律が求められてくるミドル・シニア本人にとっても、役割創造というコンセプトが自身のキャリア開発のヒントになる可能性もあると考えられます。当社は、より多くの方に役割創造を実現していただけるよう、今後はプロセス仮説について検討や検証を重ねていきたいと考えています。