「役割創造project」とは、キャリア発達・キャリア開発とその支援という観点から、日本のミドル・シニア人材の「働き方改革」をライフワークスらしく実現していく取り組みです。

2019.05.15 個人の活躍

定年→再雇用への転機を経ても活躍できるポイントとは
第1回/全2回:定年前後の葛藤と再雇用後の心がけ

定年→再雇用への転機を経ても活躍できるポイントとは第1回/全2回:定年前後の葛藤と再雇用後の心がけ

「役割創造プロジェクト」で2017年に取材をさせていただいた吉田純一郎さん。大手メーカーの知財法務部門に所属し、組織開発、人材育成の仕事で力を発揮する一方、ファシリテーショングラフィックなどの会議ノウハウやコーチングスキルを活かして勉強会を開くなど社外でも積極的に活動。2018年10月に60歳で定年を迎えた後も再雇用され、定年前と同じ職場で活躍し続けています。
そんな吉田さんに、定年から再雇用への転機を経ても活躍できるポイントをお伺いした全2回のコンテンツ。
第1回では定年前後の心の葛藤や、再雇用後に心がけていることについてお話をうかがいました。

今回の記事の目的は「定年→再雇用へのトランジションを経ても活躍できるポイントを知る」であり、全2回でお届けします。

定年以降のキャリアも視野に入れ、40代から自分の専門性を模索

−−−前回お話をうかがった後、2018年10月にご勤務先での定年を迎えられたそうですね。現在はどのようなお仕事をされているのでしょう?

再雇用後もフルタイム勤務で、残業は決定的に少なくなり、報酬も変化しましたが、仕事内容は大筋、定年前と変わりません。知財法務部門に所属して部門内のHR系(層別研修・組織開発関連)の自前プログラムの開発や実施に携わり、その中身は知財法務固有のものではなく汎用性の高いものですから、時には他部門やグループ会社のHR系の支援もしています。依頼も良くいただきますよ。
再雇用契約を結ぶこと自体は自分の中では既定路線でしたが、処遇、業務内容を含めた契約条件について、部門長である執行役員から直接、説明を頂き、その中で「その余人をもって代えがたいHR系の専門性を生かして活躍していただきたい」とお話があり、最終的に再雇用の道を選択しました。
勤務先では、再雇用時の処遇や仕事内容は本人の希望に加えて、本人の培ってきた経験・力量、そして実績で決まります。ある意味、これまでの自分の仕事に対する成績表を受け取るようなものですね。社内でどこまで昇進したかという指標とは別な視点で、会社が私を評価してくれていることがわかる内容で、何だかうれしかったですね。

−−−定年後の働き方についての希望はいつごろ、どのようにお伝えになったのですか?

定年を迎える2年前、58歳時に定年にまつわる諸制度についての説明や定年後のライフキャリアについて考える研修に参加し、その後に60歳以降の働き方について希望を人事部に伝えるという流れでした。 私の場合、割と躊躇することなく「再雇用」という選択肢を選びました。

−−−吉田さんは会社での業務や社外での学びを通じて得たファシリテーショングラフィックのスキルや会議運営のノウハウ、コーチングスキルなどを生かして、社内外のセミナーの講師やファシリテーターとしても50歳手前から活動されています。定年を機に、独立をお考えになったりはしませんでしたか?

吉田 純一郎さん定年を機にというより、役職についてからしばらくした40代半ば辺りから、60歳以降のキャリアも視野に入れて「自分のポータルな専門性は何か」「できることではなく、やりたいことは何か」を模索していました。50歳手前くらいから社外での活動が広がるとともに、自分の持っているスキルが、ある程度世の中、特にHR系で汎用的に通用することがわかり、何となく「独立という道もあるのかな」と考えたことはあります。そこで、母校で開催している市民講座に起業塾のようなものがあって、それに顔を出してみたりもしたのですが、今一歩しっくりきませんでした。
「独立して、果たしてやっていけるのか」「資金はどうしよう」といった不安もありましたが、それとは別の違和感みたいなものが拭えなくて。理由を探していてはたと気づいた事は、組織に関わる仕事をしてきたのに、独立して組織から離れてしまうと、勘が鈍るような気がした事と、なにより僕は組織の中で何かをするのが好きな事でした。55歳で役職定年を迎えたころには、自分を一番生かせるのは組織で働くことだし、もし今の会社で必要とされているなら60歳以降も継続して働きたいと結論付けていました。

58歳時研修の後に提出した書類には、再雇用後の仕事について希望を書く欄もあって、こう記入したことを覚えています。「僕は三つの軸を持っています」と。三つの軸とは「ファシリテーションのスキル軸」、「コーチングのスキル軸」、「ワークショップデザインのスキル軸」であり、これらを生かしてHR系で働きたいと書きました。また、この三つの軸が生かせる場所なら、部門に拘らないと伝えました。慣れ親しんできた「環境」よりも培ってきた「軸」で仕事できますよ、というところです。

この三つの軸は40代後半から自分のポータルな専門性を模索する中で見つけてきたもので、社外での活動を通して、手前味噌ですが、それらの専門性がある程度のレベルだという自負がありました。お陰で定年を前にしてもどこか肝が座っていましたね。もっとも、定年時期が近づいてきて、具体的な再雇用条件の話が気になりだすと、時々、「もしかして、あの時、黄信号を無理矢理渡ったのを誰かに見られて、再雇用NGになったのかな」などと不安がよぎることもありましたが(笑)。

再雇用にあたっての会社からの期待はやはり嬉しい

−−−再雇用後、周囲との関係は変化しましたか。

それが、こんなできごとがありました。定年を迎えた日の朝、慣例通り、多くの部員の前で、部門長から社長名の感謝状をいただいて、挨拶をしました。この挨拶ですが、今までの諸先輩方は「新卒入社時は◯◯部に配属されまして...」とご自分の経歴を振り返って感慨深く、少々長くお話しされる方が多かったので、僕はちょっと違う話を手短にしようととっさに思いました。そこで、「今年の夏は暑かったので涼しさを求めて映画館によく行ったのですが、僕が気になったのは『終わった人』という作品です」と挨拶しはじめました。『終わった人』は舘ひろしさん扮する主人公の、定年を迎えたその日から場面が始まる、ちょっと感情移入できるコメディ映画です。「彼は退職してやることがないことに苦痛を感じていたけれど、僕は明日からも再雇用でお世話になるので、ラッキーです」と話したのですが、職場のみんなの顔を見ると、「吉田さん、何を言っているんだろう」という感じでポカンとしているんですよ。完全に話題を外したこともありますが(笑)、僕自身が「定年」と思っているほどには、周りは僕に対して「定年した人」というイメージを持っていなかったからか、皆さん「定年」という言葉自体にあまり実感がないのでしょう。
そんな感じでしたから、僕へのみんなの接し方は今も定年前と変わりませんし、名刺に書く肩書まで頂いています。

ただ、僕の周りに対する関わり方は意識的に変えるよう努力しています。同じ仕事をしていても、以前は自分がイニシアティブをとってメンバーにアドバイスをしたり、自分でさっさとやってしまっていましたが、今はなるべく現役に任せ、聞かれたら意見を言うというスタンスを取るようにしています。

−−−立ち位置が変わることで、ご自身に葛藤はありませんでしたか?

周囲に対するスタンスに関しては、あまりなかったです。最前線に立つ社員がスムーズに仕事をできるよう後方支援をするのが僕の役割だと思っていますから。ただ、後方支援の役割と、会社が僕に与えている「専門性を生かし、難易度の高いことにもチャレンジする」というミッションをどう両立すればいいのかは少し悩みました。今は少し加減がわかってきて、現役のみんなには手が回らなかったり、気づきにくい領域を見つけて、そこで新しいものを作っていきたいなと思っています。開拓が好きな性分なので、わくわくしますね。

−−−再雇用後に年収や職場での役割が変化し、「働きがい」が感じられなくなったと悩む人も少なくありません。そんな中、吉田さんがモチベーションを高く持ってお仕事できているのはなぜでしょう?

再雇用にあたって、会社から「専門性を生かして、これからも活躍してほしい」と言ってもらえたことがひとつの理由だと思います。やっぱり、頼ってもらえたり、期待をされるというのは何かうれしいじゃないですか。恩返ししたくなりますよね。もうひとつ、自分の好きな分野で、自分の好きなことをできていることがすごく大きいと思います。こういうと「やりがい搾取にハマっている!」と言われるかもしれませんが、そんなことはありませんね。

プロフィール

吉田 純一郎さん 1958年生まれ。大学では機械工学を専攻。82年卒業後、大手メーカーに入社。生産技術部門を経て、知的財産管理、経営企画、人材育成、組織開発業務などに携わる。一方で、2000年ごろから異業種交流会や人事系のセミナー、コーチングスクールなど社外での学びを活発化。「会議のファシリテーションがうまい」と言われた事をきっかけに、自身の会議運営のノウハウを「会議をよりクリエイティブに、効率的に」をコンセプトにパッケージ化し公開講座などで広く提供している。「ホワイトボードで創造会議」主宰、PHP研究所認定ビジネスコーチ、C.N.S話し方研究所認定話し方インストラクター、Herrmann Interbational Asia認定ハーマンモデルファシリテーター。

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